ノンマリ連載短編小説 「夢語部(ゆめかたりぶ)」 #7 アケビの声
第七夢
『アケビの声』
アケビはよく喋る果実だ。淡い紫色の衣を纏い、生白く柔らかい肌を持つあの果実は、山に響き渡るような声でおしゃべりをする。
「どうしてそんなに大きな声でしゃべるんだい」
「だって、最近の人間ときたら、私の美味しさに気づきもしない」
憤慨しているらしいアケビは、枝葉をばさばさと揺らして抗議する。確かに、最近アケビを食べる人間は少なくなっている気がするが、私はそれで丁度良いのだと思う。
「私が食べるから、どうかそんなに怒らないで。折角の美味しい実が弾けてしまうよ」
私がそう言うと、アケビは「それもそうか」と納得したように言い、自ら枝から離れて私の掌の中に落ちてきた。この子も、もう随分と小さくなってしまった。生り始めの頃はあれほど大きかったのに。
「いただきます」
時は2×××年、喋るアケビは絶滅の危機に瀕していて、此の世界でこの子を食べる人間は私一人だ。
作:白旗ラメント
★一話先行公開中★
第八夢『クリオネ様のやや』
https://nonmari.jp/series/s001108/
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