ノンマリ連載短編小説 「龍のコインが来て、そして」 #8 聞き酒
8.
『聞き酒』
のみの市というとパリみたいで聞こえはいいけれど、リアルフリマで、ビードロの「おちょこ」を買ってきた。なにか、呼ばれているような気がしたのだ。
最近、日本酒にちょっとはまっているので、器を探していたこともある。はまっているといっても、そんなに本格的ではなくて、フルーティーなやつを、冷やしておいて寝る前にちょっとだけ飲みたいな、というくらい。
冷蔵庫の野菜室から日本酒を、そして、新聞の包みからおちょこを取りだす。ビードロはたしか、ポルトガル語でガラスをあらわす言葉。
お酒をいれると、ゆれている。なんだか、話しかけてみたくなって、しゃべると、話を聴いてくれるような気がする。まさかね、利き酒ならぬ、聞き酒、じゃないんだから。
でもまあ、愚痴をいってそれを溜め込んだお酒を飲むよりはと思って、今日一日を感謝して、ありがとう、と言葉をかけた上でお酒を飲んでみた。
あ、美味しい、と思った。
—第9話につづく
龍のコインが来て、そして / 中臣モカマタリ
龍の模様が刻まれたコインを手に入れた「私」に起こる、ささいだけれど不思議なできごとをオムニバス形式でつづる連作。
「nonmari(ノンマリ)」
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