ノンマリ連載短編小説 - 「Letters. 君と詠む歌」 第五首 (全12回)
前回までのあらすじ:天津からの提案を受けて、一緒に帰ることを承諾した玉緒。二人の話を知った同僚の和泉からは「楽しそうだけど来年の今頃には忘れてそうだ」とからかわれる。玉緒は「恋じゃないから、忘れる必要ないもの」と静かに答えた。
第五首
君が食べたいものが食べたいと言い
ふたり途方に暮れませんか
ところで短歌は、どうやって作るものなのか。
「玉緒さん、短歌作ってみました?」
「少し、天津くんはどうですか」
俺も少しだけ、とはにかむ彼の天パの髪が、風でふわふわと揺れている。
「見てみたいです、玉緒さんの」
「丸裸にされるみたいで嫌です」
「確かに、いきなり裸は恥ずかしいですね」
「フェアにいきましょう」
こんな風にだれとでも話す事が出来る天津くんは、すごくしっかりしていると思う。彼の言葉はどれも仄かに恋の匂いがして、こちらに気があればすぐ始まってしまうような人。
「なにか食べて帰ります?」
「私は大丈夫です」
「えー」
こういう時は、パスタが食べたい、とか言った方が可愛いのは知っている。その可愛さが、私には似合わないことも。
「俺のこと軽い男って思ってるかもしれないですけど、違いますよ」
「知ってます、だって暑苦しいですから」
—第六首につづく
Letters.君と詠む歌 / 玉舘(たまだて)
前世占いで「ふたりの前世は平安時代の歌人」と告げられた玉緒と後輩の天津。ひとりで生きることに慣れきっていた玉緒は、親しげに距離を詰めようとする天津の若さを暑苦しく感じながらも、彼と二人で"ひと夏の思い出"をつくろうと考える。正反対な二人がおもしろ半分で詠んだ12首の短歌と、その歌が生まれた12の瞬間の物語。
「nonmari(ノンマリ)」
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