無人間(シリーズ人間より)
無人駅のホームに無人特急が滑り込むと、合成音声の7ヶ国語同時アナウンスが列車の到着を告げた。列車から降りた客は俺一人だった。もしかすると乗客も俺一人だったのかもしれない。
俺は無人駅の無人改札を抜けて無人タクシーに乗り込んだ。無人タクシーの運転手に(もちろん接客用AIに)行き先を告げ、この無人都市に関する情報を尋ねた。
「旦那はビジネスですか。」
「まあそんなところだ。」
「もっとも今どき無人都市を見物に来るような物好きもいやしませんがね。これでも昔は、まだ無人都市が珍しかった時分には、面白がってやって来る観光客で随分賑わったもんですがね。せっかくの無人都市に人がいっぱいいるもんでね、ハハハハハ。」
AIにも懐かしいという感覚があるのだろうか、いや多分人情に合わせた話題がプログラムされているだけだろう。
無人ホテルに到着すると無人のカウンターでチェックインを済ませ、最上階の無人バーでウイスキーのロックを注文した。バーのカウンターからは無人の街に沈む夕日を眺めることができる。やがて無人の街に灯がともり始め、その考えようによっては奇妙な光景を眺めながら、俺は明日からの仕事の段取りを考えた。
俺は探偵だ。無人の街で人を探すのを生業としている。
なかなかタフなビジネスではある。