シン・ハチ公物語
私ご覧の通り犬でございます。名前はハチと申します。
世間様からは忠犬なんてもてはやされて、銅像まで建てて頂いて、もう有り難いやら気はずかしいやらで。日本人ってお好きなんですね、あの手のお話が。
ただこう言っちゃ身も蓋もございませんが、はっきりと申しましてあれは近所の人がそう思い込んでいたというだけでして、私からすると捏造とまでは申しませんが、要するに根も葉もないお話なんでございます。
実は私電車が好きだったんです。あのガタンガタンゴトンゴトンというなんとも言えない振動や、ほんのり香る機械油の匂いも車両によって微妙に違ってたりしましてね。好きな車両が通った後なんかは鼻をヒクヒクさせて残り香を楽しんだものです。
ですから主人がなくなった後、私は趣味で駅に通っていたのですが、近所の人に勘違いされてあんな美談になってしまったと言う訳なんです。
でもおかげさまで今でもこうして好きな電車の側に居られるわけでして、私は本当に幸せな犬だと感謝いたしております。じっとこうして渋谷の街の移り変わりをみているのもなかなか面白いものでして。
いまどきは鉄っちゃんていうんだそうですね、私みたいな趣味の人のこと。もっとも私は犬なんで鉄犬ってところでしょうかね。銅像の私がいうのもおかしな話なんですが。
(ssg2019年11月投稿/加筆修正2020年2月)