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#回分ショートショート
回文ショートショート・サンタクロースの実存
呼ぶよ。トナカイ、行かなと。サンタさんサタンさと。仲いいかなと。呼ぶよ。
サンタクロースは煙突から家の中に入ってくるという話にはあまり現実味がなく、そのことがサンタクロースの存在を否定する根拠とされるケースがまま見受けられるが、いうまでもなくそれは間違いである。一体どういうわけでそのような話が広まってしまったのか、いまとなっては確かめようもないのだが、あるいはそのような荒唐無稽なストーリこそ、
回文ショートショート・ 柿太郎
蔵暗く 鹿、案山子、狗ら苦楽
くらくらくしかかかしくらくらく
上 案山子とイヌ
柿から生まれた柿太郎
あられぽりぽり鬼退治
あらあら鬼さん泣き出した
柿太郎印の柿あられ
鬼の格好をした売り子がそんな唄をうたいながら、タレの焦げる匂いをプンプンさせた屋台を引いて歩くと、屋台の後には子供たちの長い行列ができた。子供たちが面白がって鬼に合わせて唄うと、今度は大人たちまで何事かと窓から顔を突
回文ショート・ショート/時計塔
時計叫ぶ、今朝、行け!と。
その小さな市には、市の規模からすればやや不釣り合いなくらい大きな古い時計塔があった。その麓にひとりの男の赤ん坊が捨てられていたのは、いまから何十年も前のことである。赤ん坊は時計塔の管理人夫婦によって発見され、そのまま、子供のいなかった夫婦に引き取られた。ところがいったいどういう訳か、管理人夫婦は赤ん坊に名前を付けるのを忘れていて、赤ん坊のことをただ”坊や”と呼んでい