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【子連れロンドン】鹿に会いに秋晴れのリッチモンド・パークへ

ロンドンに来てから秋という季節が好きじゃなくなってしまった。というのも、渡英した2年前は、残暑厳しい日本からやって来てその寒さに面食らい(その年は例年以上に寒かったらしい)、去年は10月に風邪をひいて1か月近く体調がすぐれなかったので、ロンドンの秋にあまり良い思い出がなかったのだ。寒くて、暗くて、どんよりした印象で、ここから長い冬が始まると思うとさらに気が滅入る。

今年も基本的には寒くて薄暗いロンドンなのだが、たまに暖かい日や天気の良い日もあり、そんな日には「秋っていい季節だなぁ」という気持ちを思い出すことができた。この日曜日はまさにそんな日だった。秋晴れの美しい日には外でピクニックをしようと思い立ち、ロンドン南部にあるリッチモンド・パークに行ってきた。リッチモンド・パークは、チャールズ1世(ピューリタン革命で処刑されちゃった王様)がペストから逃れるためにロンドンから宮殿を移したことに端を発する王立公園である。のちに王家の狩猟地として使われるようになったこの場所には、今も鹿が生息している。

リッチモンド・パークは東京ドーム207個分の広大な公園である。園内に車道があり、駐車場が7箇所、車が通行できるゲートが5箇所、加えて歩行者専用のゲートも5箇所くらいもある。広すぎてどこに行くか迷ってしまうのだが、今回は北東側のローハンプトン・ゲートから入って、園中心地に近いペン・ポンズ駐車場に車を停めることにした。Googleマップで見るとペン・ポンズ(2つの池)とホワイトロッジの間のエリアがDeer Parkとなっていて、ここに行けば鹿を見ることができるのでは?と思ったからだ。だが、目的地の駐車場へと車をゆっくり走らせていたときに、早くも鹿の群れに遭遇したため、予定を変更して近くの別の駐車場(ロビンフッド・ゲートの近く)に停めることにした。この日から冬時間に切り替わり早起きさんが多かったのか、朝10時半の時点で駐車場はかなり埋まっていた。

現在は狩猟が禁止されているものの、リッチモンド・パークの鹿は野生のため、餌やりや接近することが禁じらており、50メートルの距離を取るようにという看板が至る所に設置されている。特に発情期は気性が荒くなるので気をつけるように、とのこと。鹿の発情期は9月〜11月だそう。確かにあの大きな体が突進してきたらひとたまりもない。鹿たちを刺激しないように少し離れたところから静かに見物した。

群れで行動する動物だから複数形はない、と英語の授業で習ったのを思い出した

リッチモンド・パークに生息する鹿は、アカシカとダマジカの2種類。アカシカは体が大きくて、ダマジカはバンビのような白い斑点が特徴。と、この程度の予備知識しかなく、見かけた鹿に斑点がなかったのでアカシカだと思っていたのだけど、ダマジカに斑点があるのは夏毛のみらしい。さて、この子たちは冬毛に生え換わったダマジカなのか、それともアカシカなのか、どちらなのだろう?

中にはアルビノと思われる白い鹿も

さて、リッチモンド・パークで平和に暮らす鹿には天敵がいない。今では狩猟も禁止されているし、さまざまな理由から避妊薬の使用も困難であるため、放っておくと数がどんどん増えてしまう。そんなわけで、適正数を保つために年に2回、間引きが行われているそうだ。11月にメス、2月にオスを対象にした間引きが行われるとのこと。悲しいことだけど、リッチモンド・パークの生態系の全体最適のための最善策なのだろう。

この木漏れ日の感じがすごくいい

鹿の群れがいた開けた草地から森に入り、ペン・ポンズ方面へと向かう。木漏れ日が差し、鳥の声が響く森の中を散策する。倒木は子どもたちの遊び場になり、キノコの住処にもなる。子どもたちは倒木からニョキっと生えるキノコや落ち葉の下から顔を覗かせるキノコを熱心に観察していた。大きな栗の木がいくつもあり、地面に栗のいががたくさん落ちていたが、見事に全部空っぽだった。少しばかり落ちていた栗の実にも動物が齧った跡があった。

美味しそうだけど採ったらダメ。キノコに限らず植物の採取は禁止

ロンドン近郊には、自然豊かな森がたくさんある。ロンドンに来てからこの土地を好きになることができた理由のひとつに、この豊かな自然がある。わたしは綺麗に手入れされたイングリッシュ・ガーデンも好きだけど、子どもたちは森が大好きだ。

倒木を見つけては遊びたがる娘

リッチモンド・パークにはたくさんの種類の野鳥も生息しているということで、バードウォッチングも楽しみにしていたのだが、カラスよりも小柄な黒い鳥(クロウタドリ?)と鮮やかな緑色をした外来種のワカケホンセイインコ(ペットだった鳥が野生化して増殖したらしく、ロンドン中でよく見かける)くらいしか見かけることができなかったのがちょっと残念。よく響く鳴き声の主はクロウタドリだったのだろうか。

お目当ての鹿には早々に遭遇できたわけだが、わたしのイメージしていた鹿との邂逅は、森の奥にひっそりと佇む立派な角をたくわえた雄鹿という図だった。何年か前に日経の日曜版か何かで見たリッチモンド・パークの鹿の写真が印象に残っているせいだ。『もののけ姫』のシシ神の登場シーンのような写真だった(気がする)。でもこの公園で見かける鹿はいつも群れで公園しているし、単独行動の鹿が森の奥から現れるなんてないよなぁ、と思いながら歩いていたときに、なんと現れたのである。森の奥から一頭のオスの鹿が。

望遠レンズが欲しかった…

荷物になるし、子どもが触りたがってめんどくさいのでいつも持ち歩かないのだが、一眼レフと望遠レンズを持ってこなかったことが悔やまれる。ちなみに、オスの鹿が現れたのは、当初から目指していたGoogleマップでDeer Parkと表示されるエリアであった。狙いどおりと言うべきか。
余談だが、成熟したオスのアカシカのことを英語でstagと言うらしい。stag beetle(クワガタムシ)の語源がシカの角であることを初めて知った。(そして、リッチモンド・パークはクワガタの生息地としても有名だそう。)

12時頃に通ったペン・ポンズの駐車場はほぼ満車で、併設のカフェは大行列だった。ロンドンは外食が高いので我が家はおにぎりなどを用意して出かけることが多いのだが、今回も弁当持参で大正解!10月下旬にしては珍しくポカポカした陽気で、最高のピクニック日和だった。貴重な晴れの日に、存分に日光を浴びることができてうれしい。これからますます日が短くなって寒くなるけど、時々こんな日があれば春までがんばれる気がした。

帰りの車の中でも鹿の群れに遭遇

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