憧れだったあの子
ずっと気になる存在で、いつか必ず近づきたいと思っていたのに、なぜだかタイミングが合わずに手に入れられなかった、そんな時計のはなしです。時計に限らずですが、誰しも一度はそんな経験、あるのではないでしょうか。
私にはあります。憧れが募り過ぎて、未だに心の隅に引っかかっている、けれど今のところ手にする機会はなさそう……。
その子の名前は「SEIKO LUKIA(セイコー ルキア)」。日本が世界に誇る時計メーカーSEIKOが、1995年に販売を開始した女性用の腕時計ブランドです。CMなどで名前くらいは聞いたことがある、という方も多いと思います。
ちなみにその前年の1994年にも、SEIKOは女性用腕時計ブランドとして「NOIE(ノイエ)」を発表しています。この時期、いかにSEIKOが女性用の腕時計の製造、販売に力を入れていたかがわかりますよね。NOIEもとても好きなモデルなので、また別の機会に紹介したいなと思っています。
LUKIAの誕生当初のターゲットイメージは「かっこいい女性」。ドレスウォッチメインだった女性用の腕時計に実用性を持たせ、特に働く女性がスーツに合わせてもスタイリッシュに決まる、これまでにない画期的なデザインが多くの女性たちの支持を受けました。
最近だと綾瀬はるかさんの印象が強いですが、初代イメージキャラクターは今井美樹さんでした。不思議なことに、NOIEも今井美樹さんが勤めていました。ターゲット層が被っていたからなんですかね……? コンセプトの異なる商品を、同じ一人のタレントが宣伝することってあまりない気がします。
このころはまだ、LUKIAにさほど興味があったわけではありませんでした。どちらかと言えばNOIEのCMの方が記憶に残っていて、お洒落な時計だなあと思った覚えがあります。たぶん、私が当時高校生だったからでしょうね(年齢まるわかりですね)。
私が大学生になるころはすでにPHS(懐かしい)や携帯電話が主流で、時計を持たないと時間がわからないという時代ではなくなっていました。アルバイト中や試験のときなど、携帯が使えない限られた場面においてのみ必要という状況でした。ちなみにこのとき、アルバイト代でスウォッチを買ったんですよね。確か6,000円か7,000円くらいだったような。ミュージコールというシリーズの青色の時計で結構気に入って使っていましたが、そのうち壊れていつの間にかサヨナラしちゃったんだよな……。この価格帯の時計だと、やっぱり修理を重ねて使い続けるモチベーションがないんですよね。
就職活動を始めたころでしょうか、そろそろちゃんとした時計を手に入れたいなと思うようになったのは。時計屋さんで各メーカーのカタログを集めてきて、買うならどれかなあとウンウン悩みました。この当時、LUKIAのイメージキャラクターは松たか子さんでした。ついでに書くと、CITIZEN XC(シチズン クロスシー)はケリー・チャン。時代が分かりますよね。それぞれ同時にキムタクと竹野内豊の姿も浮かんできます。
私は松たか子さんがCMでも着用していた赤いフェイスのモデルにものすごく惹かれました。自分が使っているところをイメトレしたりして。うわー、かっこいい! ほしい! でも40,000円かー、高いな。貧乏学生にはさくっと超えられるハードルではなかった。いや、他のものを我慢してコツコツ貯金すれば、アルバイト代でどうにかできない額ではなかったかもしれない。やっぱりタイミングなのかな。卒業式の洋服代とか、就活のスーツや鞄代、交際費、それに普段の洋服も、安くて可愛いものを掘り出してはばかみたいにじゃんじゃん買っていました。定期代と教科書を買ったら何も残らなかったです。無計画だったけど、楽しかった時代でした(郷愁)。
そんなわけで、そのうち、そのうち、とパンフレットを仕舞いこんだまま時間だけが過ぎていき、気づけばほしかったモデルの販売はとっくに終了していたのです。そりゃそうですよね。
そんな私にもついに時計を買う日がやってきました。2005年のことです。いやー、ずいぶんと時が経ちました。社会人生活も6年目を迎えていました。このときは特に狙いを定めたモデルはなく、とりあえず現物を見て、試着してみてぴったりと合うものがあれば買おう、くらいの感覚でした。予算設定も一切しておりませんでした(もちろん上限はありますが)。
まったくアタリをつけていなかったので、直営店ではなく各ブランドの正規販売代理を行っている街の時計店に行き、とにかくいろんな種類を見ることにしました。相場もよくわかっていなかったのですが、数万円のものもあれば、数十万円、中には50万円を超える時計もあり、その違いが何なのかも理解できていませんでした。リサーチ不足にもほどがありますよね。今だったらネットで下調べくらいするはずですが、逆に、自分の直感だけに頼った究極にシンプルな選び方ができたような気がします。後にも先にも、高額商品でこんな買い方したことないなあと改めて思います。
で、そこで手に入れたのがタンクフランセーズでした。学生時代に40,000円を出し渋った私が、急成長ですよ(何が)。試着したら、もうこれ以外考えられない、となってしまったんです。同ブランドのパシャCやオメガのコンステレーション、ジャガールクルトなど他の商品もたくさん試着しましたが、心は一発で決まっていました。
もちろん、LUKIAのことを忘れたわけではありませんでした。頭の中には憧れ続けたあの子の存在がありました。けれど、最初にほしかったモデルは当然そこにはなくて、どうしようもなかったんですよね。LUKIAも年月を経る中で次々とモデルチェンジをしており、私が時計を買おうと思い立った2005年のあの子は、クールビューティーというよりは甘さ溢れる、可愛らしいデザインに変化していました。
ターゲット層に合わせた結果なんだろうなと思います。振り返ってみるに、この時期は「エビちゃんOL」ブーム真っ盛りでした。CanCamという20代向けの雑誌で、モデルの蛯原友里さんが着用していたフェミニンなファッションが大人気になったのです。パステルカラーのアンサンブルニットとか、襟にファーがついたデニムジャケットとか、ふんわりしたスカートにロングブーツとか。私は青文字系の雑誌で育ったのであまり詳しくないですが、それでも「エクリュ」という色をこの時期に覚えました。オフホワイトでもアイボリーでも、ベージュでもなくエクリュ。エクリュ色のワンピースを着て巻き髪にすれば、誰でもみんなエビちゃんOLになれました(ほんとかい)。エビちゃんOLが着けていたらきっと似合う、2005年のLUKIAはそんな印象でした。
改めて思うことですが、ほしいものはほしいときに手に入れないとだめですね。もちろん無駄遣いとか、衝動買いを推奨するわけではないけれど、20年以上経っても未だにふっと思い出すくらい、わりと本気で97年モデルのLUKIAがほしかったんだなあと、買わなかったことを実はほんの少し後悔したりもしています。でもあのとき手に入れられなかったから2005年にタンクと出会えたわけでもあるので、やはりすべてはタイミングなのでしょうね。
その後もLUKIAは変化し続け、ここ数年はシンプル回帰なデザインも販売されているようです。そしてまた今年、これはほしい! と思うあの子に出会ったのです。
セイコー創業140周年記念限定モデルのLUKIA。白蝶貝のダイヤルには「金春色(こんぱるいろ)」という柔らかな青いカラーが乗っています。ほんのりグラデーションにもなっていて、一瞬蜘蛛の巣みたい、と思った模様は銀座中央通りの石畳を表現しているそうです。そこに8ポイントのダイヤ、シルバーカラーのバーインデックス、なんてきれいなんでしょう。初めて見たとき、それはもうめちゃくちゃテンションが上がりました。ちなみに価格は税込で110,000円です。最新の機能にこの唯一無二の凝ったフェイスデザイン、決して高くはないと思います(私判断)。
けれどやはりと言うべきか、私は相変わらずLUKIAを手にするタイミングを逃したのです(もはやギャグ?)。そこには以下の理由があります。
1 300本の数量限定だったため、気づいたときには完売していた。
2 よりにもよって今年、数年ぶりにそれなりの価格の時計を買っていた(こちらも別の機会に書こうと思います)。
いつかLUKIAを買う日が来るかしら。来るといいな。毎年新しいデザインが発表されると、ついつい目で追ってしまう。憧れのあの子は今でもそんな存在なのです。