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増田康宏六段【将棋のこと】

私は将棋を観るのが好きだ。
そして山崎八段ファンです。

先日の将棋オールスター東西対抗戦、山崎八段が出るとあって楽しみに観戦しました。実力者揃いの関西棋士の中でファン投票3位に食い込むのですからファンながら恐ろしくなるほどの山ちゃん人気。スピーチや解説では一番と言えるほどに会場を沸かせつつも、対局では残念ながら見慣れた光景ともいえる羽生九段を前にしての投了。色んな意味でらしさ爆発ではありましたが、今日書きたいのは山崎八段ではなく増田康宏六段。東軍の殿(シンガリ)として登場した長身の若者には、体格に見合うほどの風格が漂っていました。

錚々たる先輩棋士の後から一際大きな体で歩いてきた増田六段。歩き姿がすでにマッチョな人のそれ。スリム気味のスーツの上からでも判るパンパンに張った筋肉とその筋力からくる力強い足取りに、服装こそ現代ながら武士のような威厳を感じました。スピーチでは自身が担う最終局を待たずして既に東軍が勝ちを決めてくれることでしょうと先輩達にプレッシャーをかけ、その実、カド番で迎えた自身の対局ではA級棋士の稲葉八段相手にノープレッシャーかと思うほどに圧勝する始末。やることなすこと全てがマッチョで、筋トレの効果って恐るべきものだなぁと感心させられてしまいました。

記憶は曖昧ですが、私、増田六段が筋トレを始めた初期の映像をリアルタイムで見た覚えがあるんです。当時はまだまだ華奢な体で、腹筋を30回だか腕立てを10回だったか、とにかく「筋トレしてます」というにはやや少ない印象の回数だったことを記憶しています。「筋肉を見せてください」との要望にも恥ずかしそうに腕を曲げる程度で、恒例のように堂々と腹筋を見せてくれる今の増田六段とは対照的。でも、あれから何年もの間、少しずつ回数を増やしながら筋トレを続けて今の肉体になったのかと思うと、その年数分の説得力が感じられて、やっぱり大したものだなぁと感心してしまいました。

増田六段に対して「感心する」なんて表現、上からのようで失礼だとは思うのですが、それも増田六段のせいにしたい。だって、更に失礼を重ねますが増田六段って可愛いですもん。あのガタイで目の前に現れたら私も恐れ多くて「可愛い」なんて言えませんが、でもやっぱりあの率直な物言いと素直なまでの訂正はオジサンの目には眩しいくらいに可愛く映ります。師匠の代名詞ともいえる矢倉を終わらせた時は、その肝の据わり様と自身の考えに対する強い意志を感じました。それでいて研究が進んだ後では意固地にならず「矢倉が終わったは言い過ぎでした」と素直に訂正する。先日の王位戦でのインタビューでも「詰将棋に意味はありました」ですって。立派に鍛え上げた体なのに肩をすくめてハニカミながらも前言をハキハキと撤回している姿が、本当に屈託のない素直な若者そのもので、やっぱり可愛らしく感じてしまいます。物議ある発言も、その時その時の自身の強い意志と意見がしっかりとある分、その後に返された掌がむしろ清々しいほどに綺麗で、またその素直な変化に次なる飛躍の期待を抱かされて思わず笑顔になってしまいます。

丸山九段との新旧マッチョ対決を制して好スタートを切った今期の王位戦、初のリーグ入りで道のりはまだまだ長いですがタイトル挑戦も少しだけ見えてきました。「永瀬王座の右腕」や「フィッシャールールの達人」といったイメージが強くなりつつある今の増田六段ですが、私はやっぱり「東の天才」として藤井五冠と双璧をなす存在へと変貌を遂げてもらいたい。あれだけの肉体に鍛え上げた実直さに、元来の自負の強さ、それでいて真逆にでも変化しうる柔軟な素直さがあるのですから、爆発的なまでの躍進をこれを機に見せてもらいたいと願っています。そして最後には「西の天才」ばかりに目を向けている世間の掌を、今度は増田六段自身の手で綺麗にひっくり返してもらいたいと心ひそかに思うのです。
新たな年に向けて増田六段には、その肉体の如く屈強で大きな存在への変貌を、大いに期待しています。

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