いわくのメガネ【日々のこと】
棚の埃が気になる。ちょっとだけ掃除と奥を覗いたら20代の頃に買ったメガネと目が合った。銀フレームが光る少しインテリっぽいメガネです。しかし、これはいわく付き。だからしまってあったのですが、懐かしく思って出してみる。そして拭いて掛けてみました。
いわくというのは買った翌日、職場で掛けていたんです。当時は接客業にて込み合えばレジに入る。今日のように暑くて人も多くて、狭い店内は誰とはなく苛立ちが立ち込めていた。そんな時、私のレジに立った如何にもガラの悪そうなお兄さんがしばらくして声を荒げたのです。
「お前、どういうつもりでやっとんねん?」
黙々とスキャンをしていた私は「何がですか?」と思わず返してしまう。「何がやと?」とヒートアップされたので、これは長引きそうだと覚悟しました。覚悟はいいとしてレジが渋滞中。とにかく狭い店だったので「外でお伺いします。」と促し、他のスタッフとレジを替わってもらいました。レジの離れ際、ともすれば1、2発は喰らっちゃうのかなとの不安が過る。それくらいにガラが悪そう。痛いのも嫌ですが今日はそれより新品メガネ。少々高かったので壊されたら堪らないとそっと外して出て行きました。
出てすぐ胸倉を掴まれる。壁にも押し付けられたので「とりあえず落ち着いてください。」とお願いする。
「落ち着けるかぁー!お前が『外出ろ』言うてメガネ外したんやぞ。やる気満々やないかぁ。上等や、やったろうやないかい!」
言われてみればその通りです。外へ促しておいてメガネを外したら、やる気があると思われて当然です。私はメガネを守りたかっただけなのですが、迂闊なことをしたと体を揺すられながら反省してました。
「あと『何がですか?』って態度があるかぁ!お客様から『どういうつもりや』と言われとんねん。理由が判らんでも、ひとまず『何か失礼がございましたでしょうか?』って尋ねるのが普通の接客やろがい?挙句『外行け』言うわ、メガネは外すわ。そんなん全部ひっくるめて『どういうつもりや?』って聞いとんのじゃ!」
返す言葉もありません…
ガラは悪いですが非常に筋が通っています。確かに「何か失礼がございましたでしょうか?」が接客としての正解です。ぐうの音も出ません。
ひとしきり揺さぶられた後で一通りの弁明をする。筋よく怒る方だったので、順序立てて謝れば殴られることもなく事無きを得ました。ただ、そもそもの失礼を聞きそびれた。結果、接客の極意を教わっただけで原因は判らぬままです。
ただ、その後の一週間で別々のお客様2名からも絡まれた。それまでは絡まれることなど無かった私。「何か失礼がございましたでしょうか?」と問うと共に「失礼はなかったが、顔がムカつく。」というのがお答えでした。新品メガネを掛けると異常にムカつく顔になるらしいという原因… 最初のお客様にはメガネの顔で怒られて、メガネを外して怒られて、メガネの無い顔で許されたことを知ります。それ以来、封印。若く細い顔立ちには尖った印象を強めてしまうメガネだったようです。
40も後半になった今、久々に掛けてみる。視力だけは変わらないので相も変わらずよく見えます。年相応に丸みを帯びた輪郭には銀フレームが映えます。諸々垂れたのかインテリっぽくもならない。自分で言うのも何ですが、かなり似合う気がします。もう誰からもムカつかれはしないと思いますが、そんな顔立ちになったのが少しだけムカつきます。
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