西田拓也五段【将棋のこと】
私は将棋を観るのが好きだ。
そして山崎八段ファンです。
毎週、楽しみにしているアベマトーナメントでしたが先週は殊のほか楽しく観戦いたしました。物言いのハッキリしている両リーダーが好き放題に喋る姿は観ていて気持ちがいいですし、両チームの若手ルーキーは存分に活躍をして満点のお披露目だったと思います。間に挟まれる形となった両エースもいつも通りのらしさ全開で最終決着局は共に託されるという流れになりました。双方負けれぬ大一番となりましたが、最後の最後までらしさを貫いて勝ち切ったのは西田拓也五段の方でした。
西田五段のらしさと言えばひたすらに安定感です。絶えず落ち着いていて感情の起伏少なく、職人のような雰囲気を醸し出しては淡々と仕事をこなしていく。そして何よりも声に安定感があります。あの低くも響く渋い声で大きなことも言わなければ過度に遜ることもない。その時その時における自身の役割を静かに見つめては全うすることだけにただただ努める。まさに職人、仕事人。そういう気質の方なんだと思います。
昨年のチーム動画では兄弟子の無茶な企画にも付き合わされて火の中を歩いては水に打たれた。燃えさかる炎を前にしても足をすくめることもなくしっかりと踏みしめては真っすぐに進んで行く。凍える中での滝行においてもフラフラにはなりはしましたが滝壺から逃げることはなかった。まあ正直に言えば、滝の勢いに呑まれて逃げたくとも引き戻されているようにも見えましたが一番最後まで滝に打たれ続けていたのは確かですし、辛抱強く我慢の似合う人物なのだと思います。妹弟子である石本女流が「もっと評価されるべき棋士」として強く推してらっしゃった気持ちがよく解る。目立たず騒がずで表立っては出てきませんが、地に足の着いた地力ある実力者なのです。
そんな実力が大事な最終局で爆発してました。自らは決して口にしませんが佐々木キラーの自覚はあったらしく、千田リーダーにカド番を託しては最後の総大将を担って寡黙に時を待つ。そしてひとたび勝負が始まれば、狙いすました渾身の穴熊崩しです。銀を端からニョキニョキと押し出して、これだけでも森門下の面目躍如だと興奮いたしました。
少し話は逸れますが、同門の千田リーダーが意外にも門下を強く意識しているような話しぶりでそれも非常に嬉しかったです。淡々、ズバズバと物を言うイメージの千田七段。移籍して関西から離れたこともあって門下意識は希薄な方かと勝手に誤解してました。でも、この企画に参加してからのインタビューではたびたび門下について触れる。西田五段のことも同門の兄弟子として指名していますし、一部では変則将棋と評される竹内五段の名前まで控室から聞こえてきました。門下愛を強く感じてしまいます。本企画ではずっとサービス精神を発揮されていますし、番組終わりの手の振り方だって人一倍に大振りでテンション高めです。ソフト先駆者で機械人間の如き印象を持たれがちの千田七段ですが、実は感情豊かな気配りある人物のような気がしてなりません。満を持しての参戦でしたから二連敗スタートと結果が出ない間は消沈気味でしたし、カド番を凌いでの初勝利には心底ホッとして上気している様子でしたから、そんな人間味溢れる一面がもっと広く伝わればよいなと陰ながら応援しております。
少し千田七段の話が長くなり失礼いたしました。なんせ今回の主役が地味で控えてこそが魅力の西田五段なので逸れ過ぎてしまいました。そんな西田五段の最終局に話を戻しますが、まさかの派手な勝ちっぷりだったと思います。一点狙いの作戦にまんまと陥れて、A級八段の上位者をタコ殴りにて叩きのめしたような完勝でした。そんな将棋的にも勝負的にも見事な大勝利なのに局後のインタビューではいつもと変わらぬ西田五段。浮かれることは微塵もなく仕事は果たせましたとしみじみと語る。渋い、渋過ぎ、渋カッコイイです。
そろそろ公式棋戦でも大きな結果を見てみたいところです。そもそも、この実力をもって未だ五段というのが不思議なくらい。でも上手く規定を成しては駆け上がることもなく、じっくりと勝数を重ねての昇段がらしいと言えばらしい。地味ながらも着実に真っすぐと上がっていく。門下で言えば澤田七段と似たタイプなのかもしれません。どうせ上がってくるだけの実力は持っている棋士ですから楽しみにさえしていれば何れ必ずと信じています。ここは西田五段を倣って騒がず落ち着いて静かに待とうと思います。