豊島将之九段【将棋のこと】
私は将棋を観るのが好きだ。
そして山崎八段ファンです。
【将棋のこと】を書く際は棋士の好きなところや応援のつもりで書いております。ただ今日は少し心配。悪口を書くつもりは勿論ありません。だって好きですもの、豊島将之九段のこと。でも一時期、豊島将棋から気持ちが離れてしまったことがあるのです。それを書いたら怒られそう。特に豊島ファンは多いですから、その方々が気を悪くなされたら申し訳ない。好き故なんです。好き故に見慣れない変化に戸惑った時期があるだけなんです。私も豊島ファンの一員ですから、それだけはご理解いただければと思います。
私が将棋を観始めた頃のタイトルホルダーといえば、羽生九段と渡辺九段が二冠、そして森内名人、康光王将、郷田棋王という羽生世代に渡辺九段が並び立っている状況でした。そして、この状況を打破するだろうと期待されていた最右翼が当時昇段したての豊島七段でした。
そんな豊島七段が私が夢中になった電王戦にも若手エースとして参戦する。結果は完勝。勝利の記者会見では事前対局を1,000局以上もこなしたと語ったことが衝撃的で、どよめき替わりのコメント弾幕でニコ生画面が埋め尽くされたことを覚えています。そして、これほどの天才がこんなにも努力をして手を抜かないんだということが知らしめられて、期待されている豊島時代が近い将来に間違いなく来るであろうと確信したものです。
でも、この機を境にして私の中における豊島九段への気持ちが変わってしまいます。電王戦後、ソフトを相手に一人籠って研究するようになったとの噂が立った豊島九段。実際に対人での研究会は断って関西将棋会館にもあまり顔を出さなくなったという。そして対局では長考派だった豊島九段が序盤を猛スピードの早指しで飛ばすようになりました。
この変化に私は戸惑ってしまった…
ソフト研究が必須となった現代においては、序盤を飛ばすことは一般的で数多く見られます。研究手順は飛ばせるだけ飛ばして難しい中終盤に時間を残しておく当たり前の作戦です。その先駆けだっただけで当時からルール違反でもなければ非難されることでもなかった。むしろ先見の明があった訳です。でも引っ掛かった。私の好みじゃなかった。私の好きな豊島九段の姿ではなかったのです。
私が感じていた豊島九段の魅力とは孤高っぽさ。それでいて透明感もあって儚げに見えるのに強いというギャップが好きだった。でも序盤を飛ばす豊島九段の姿はハッキリとリアルに見えた。力強く突き進んでは迷いを一切感じさせない。そして研究局面までたどり着くとピタッと手が止まり、見慣れた長考姿勢に入る。築き上げた優勢を損なわないようにと十二分に残してある時間を存分に使っては、優位に指し進めていき勝ち星を重ねていく。
他の棋士ならば特に気にならなかったと思います。ソフト以前の豊島九段であっても珍しい早指しに棋風を変えたかと興を覚えたと思います。じゃあ何でって話なんですけど、当時の序盤においてはソフトと二人掛かりで指してるように見えてしまった。孤高であって欲しい豊島九段が評価値という後ろ盾を持って迷うこともなく並べているように映った。昔から将棋には定跡というものがあります。それだって正解手で、それをもって序盤を早指しするということは皆していました。でも、人間が作り上げてきた定跡には稀に綻びがあったり対抗策も出てきて、どこまで信じて使うかは棋士に委ねられています。完全に信じ切るのも自分、疑って工夫を施すのも自分で、定跡どおりの指し手であっても独りで戦っていると見て取れた。でも評価値は少し違う。未だ解明されていない将棋ですから評価値とて絶対ではありませんが、人間が測れる評価に比べたら現在では正解とみなすべきものだと思います。当時のソフトであっても十分にみなせれるレベルにはあったと思う。その評価値を知って得る自信も加わって指し進めているように見えた。特に当時は豊島九段だけが序盤の評価を知っていると思われる対局が多かった。不平等とは思いません。早くからソフト研究を始めた豊島九段の勝ちです。ですが強豪ソフトがまだ手に入り難かった時代、提供ソフトあっての作戦変更に見えてしまった。元々ガツガツしている棋士ならば野心的だと魅力すら感じていたかもしれません。でも豊島九段が放つ魅力には相容れぬ作戦だと私は思いたかったのです。
そんな私の豊島ファンとしての不調が終わりを告げようとしています。今や全棋士がソフト研究をしている時代。その向き合い方は定跡と同様に個人に委ねられたと感じています。序盤の評価値も皆知っているだろうし、それをどのように見るのか、どの局面のどんな評価値を基に作戦を立てて研究を深めるのか、全てが棋士個人の裁量による戦いになったと思います。今の豊島九段ならば序盤を飛ばそうが慎重に指し進めようが自己だけに感じらて魅力を見失うこともありません。豊島九段はずっと努力をされてきただけなのに、私の見え方が定まらず本当に勝手失礼なファンで申し訳なく思います。
次局、藤井八冠を阻止する大舞台に豊島九段が戻ってきました。ソフト時代の雄である藤井七冠に先駆けであった豊島九段が挑む。どこまで見据えて、どれだけ研究しているのか。どの局面のどんな手に勝利を託して戦い起こすのか。十二分に培われた研究の積み重ねをこの大決戦で見せつけてもらえるものと楽しみにしている私は、やはり勝手な豊島将之ファンなのです。
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