服部慎一郎五段【将棋のこと】
私は将棋を観るのが好きだ。
そして山崎八段ファンです。
毎週土曜は師弟トーナメントを楽しんでいまして私は年齢的に師匠側。弟子よりも師匠に思いを馳せがちなのですが、弟子に気を遣って大変そうです。特に同世代の木村・深浦両先生あたりには感情移入してしまう。身贔屓な考えになりますがこの世代は辛いんです。上に気を遣っては見て覚えろと言われ、下に気を遣っては口で教えてほしいと言われる。飛車角両取です。あれはどちらか助かるからまだいいのですが、この世代はどちらにも取られてしまってずっと気を遣ってきました。価値観の転換期世代って辛い…
とにかく観ていて両先生とも弟子の意思を優先しがち。行って欲しいという願いこそあれど本人の意思を確認しては無理をさせない。意思なしと感じれば自分が無理してでも行く。厳しく育てていると言う鈴木先生ですらそう。調子の上がらない梶浦七段を気遣って無理そうなら決着局に出る覚悟をしていた。出しゃばるつもりではなく、この世代には「行く」が基本なんです。そう育てられてきた。「行きます」と自分から言い出さなければならない。わざわざ聞いてくれる人なんていない。「行ける」とか「行けない」とか関係なく「行く」しかないんです。「行く」って言ってもはじかれる時すらある。でも言わなきゃそれまでです。だから状態関係なく「行く」しか選択肢がない。それが良いことなんだなんて全く思いません。世代的価値観なだけだと思います。でもそれが染み付いてしまっている。だから、弟子が「行く」と言ってくれたらそれだけで嬉しくなるし「行ってください」なんて聞いたら残念に思ってしまう。弟子にも考えあっての発言なのは重々解っているのですが、観ててガックリきちゃうんですよね…
そんな価値観なのでアメバトーナメントでの服部慎一郎五段は最高でした。「行く」「行く」「行きます」の三連投ばかり。ルールを無視していいなら勝ち負けすら無視して九局全部指したそうな勢いです。あの姿勢は見ていて気持ちがいい。今でもこんな若者がいるんだとびっくりしました。私の世代にもいない、というかどの世代でも稀。世代なんて関係なくただただ気持ちのいい若者だと心を持っていかれました。「行く?」と聞かれると「いいんですか?」と返す。「行きたかったら?」と聞き返されて「じゃあ行きます!」とすぐ応える。勢いよく対局場に引き返しては悠々と勝ち戻って、また行きたいと顔が言う。稲葉リーダーも若いので頼もしくも戸惑っているようでしたが、私のような世代なら可愛くって仕方がない。「行ってこい、行ってこい、私の分まで行ってこい!」ってな気分です。
そういえばニンニンポーズを間違えていましたね。最初の頃はずっと気になっていました。両手が離れていて位置が変。稲葉八段も出口六段も指摘しないというか知らないご様子。下の手の人差し指を握って上の手の人差し指を立てるのが正解、位置は胸の前で。若い人は知らないんだとこれもびっくりしました。飲み会からこっそり帰る時にニンニンポーズで「ドロンします」なんて、それこそ知らないんでしょうね。ちなみに言い訳ですが私だってドロンを見たこともなければしたこともありません。あれは我々世代でも恥ずかしい。都市伝説か極少数の方々だけのお戯れだと信じているのですが…
服部五段の「ニンニン」は恥ずかしいとは思いません。お世辞にもカッコいいとまでは言えませんが棋士のキャラ立ちはとても大事です。その癖、勝負にはドロンせずに行ってばかりなのですから、やっぱりカッコいいのかな。
お調子者の振る舞いなのにストイックさも見える。そのストイックの源が勝つためというよりも将棋をしていたいだけ、とにかく楽しいんだと感じさせる純朴な若者。ソフトでの研究もしているだろうけど力戦派で実戦を重ねては勘と勢いを培う若き勝負師。今時、あまり見かけなくなったタイプですが時代には迎合しない魅力に溢れているので、世代を超えて賞賛し応援したくなります。
勢いはもう十分ではないでしょうか。名前に反して忍んでいるのも苦手なようなので堂々と正面切ってそろそろ大舞台に上がって来てもらいたいです。少しだけ年上ですが藤井五冠の世代ともいえる。ある意味対称的なタイプになるのでそのタイトル戦は面白くなること間違いないですし、千日手でもフルセットでも指したいだけ指して大暴れしてもらいたいものです。
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