伊藤匠五段【将棋のこと】
私は将棋を観るのが好きだ。
そして山崎八段ファンです。
私は時より三段リーグの成績を調べます。将棋連盟のホームページに載っている、あのリーグ表を見ているだけですが。さすがに三段の方のことは全くわかりません。でも、たまに覗いては、若い三段は誰だろうとか、森門下は居るのだろうかとか、最近なら女性棋士は生まれるだろうかと見ています。
中七海さん、頑張れ!
伊藤匠五段の名前が現れたのは第63回のリーグ表。藤井5冠の名前が現れた第59回から遅れること4期、年齢の枠にひときわ目立つ「15」という数字に惹かれて、その名前を目にしました。デビュー以後、偉業に次ぐ偉業を成し遂げていた「藤井聡太」と将来しのぎを削っていくであろう棋士の第一候補の名は「伊藤匠」というんだと、その時に知りました。それと同時に ”なんて、それっぽい名前なんだ” と思いました。もちろん、カッコイイ名前とも、強そうな名前とも思いましたが、それだけじゃなくて、そういう全ての要素を含んだ、凄くそれっぽい名前。若き天才を追いかけてきた同い年の別の天才って感じがする名前。「匠」という字が持つイメージでしょうか。「タクミ」という音のせいでしょうか。「伊藤」という苗字とも組合せの良さを感じるし、字面を図形として見た時のバランスも絶妙な気がする。とにかく、それっぽいです。
しかし当時、お名前だけで人物像まではわかりません。大人びた藤井五冠に相対する人なのだから、私は勝手に15歳の佐々木勇気七段みたいな人を想像していました。あどけなさが残る無邪気で天真爛漫な少年のイメージ。
新四段となられて、初めて拝見した伊藤匠という人物に ”えっ、そっち!” と思わず驚いてしまいました。勝手なイメージを抱いていたことと「それっぽい」とか「そっち」という言葉でしか、当時の感想を表現出来ない私の無能をお許しください。
今となっては、あの静かな人柄で低くて落ち着いた声や口調こそ、まさしく「匠」という名前そのもので、ご両親のセンスと教育に脱帽いたします。
ところが私の悪い癖で、人物を知ったら知ったで、また勝手なイメージを抱いてしまいました。自分を出さずに感情を隠すタイプなのかと…
そのイメージも藤井五冠のことを語ったインタビュー記事を読んで覆されました。15歳の藤井当時五段が朝日杯で棋戦初優勝を果たし、同じく15歳の伊藤当時三段が記録係としてその姿を間近で見ていた時の気持ちを語った記事。
「最高峰の舞台で記録を務めるのは、勉強になる。でも藤井さんの勝つ姿は見たくない。ただ悔しいという気持ちですね。これ以上、引き離されたくないという。この日も彼が勝ちに近づいていくうちに、気持ちが落ち込んでいきました。」
これを読んだ瞬間、一気に伊藤五段のことを好きになりました。
いいですよね、本音を隠さず、当時のあるがままを素直に語ってる。
藤井五冠を語ることは、伊藤五段にとって非常に難しいことだろうと思います。もはや将棋界をも超える大きな存在となった藤井五冠のことを同い年の比較対象となりうる唯一の棋士として語らなければならない。おそらくは伊藤五段の心の繊細な部分に繋がっては、変に触れてしまいそう。それを避けようと皆に倣って褒め称える言葉を並べようものなら、それこそ繊細な部分を自身で引っ掻いてしまうのではないだろうか。
そんな芯との向き合いを求められる質問に対して、思いを隠さずに曝け出した。率直な言い回しで「勝つ姿は見たくない」と言い「悔しい」「引き離されたくない」「落ち込む」と憚ることなく吐露した。人間の感情として抱く暗部をストレートに吐き出したその姿に、若者らしい愚直さと溢れる人間味が際立って、私は胸を打ち抜かれてしまいました。
17日の棋王戦。敗者復活戦で藤井五冠と相対する伊藤五段。
今後、タイトル戦でも見るであろうカードですが、まずはこのサバイバル。
これだけ「伊藤五段」「藤井五冠」と書いていながら、私は山崎ファン。
両者を気楽に応援しつつ、新たな未来の幕開けともいうべきこの注目カードを心から楽しみたいと思います。
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