金縛り
かたん
そこにいるのはだれ
ことん
そこにいるのは、なに
今日は土曜日で、外出の予定はない。家族以外の人から連絡が来ることはないし、連絡先すら持っていない。
私の休みを邪魔する者はいない。
休みの日は決まって布団に身体を預け続けるのだ。
今日も朝から布団に潜ったままで、ずっとスマホ眺めていた。横になりながら見る画面に酔ってしまって目を閉じた私は、再び眠りに落ちていた。
時刻は昼前になっていたはず。
眠りから覚めきらないまま、眠りきらないまま、はしゃぐ子どもたちの声を聞く。数人できゃあきゃあと楽しそうに走り回っているようだ。
近くに佇んでいるであろう母親たちの談笑の微かな声も聞こえてくる。どんな話に花を咲かせているのだろうか。時折子どもたちを注意する声も響いていた。
目を瞑ったままの真っ暗な世界で、脳が勝手に想像を始める。それはやがて映像になり、夢を見ているようだった。
がたん、と大きな音が何度も響く。この家と隣の家との間で、何をしているのだろう。ドアや収納の開閉、DIY、破壊?
音の遠近感が無い。全ての出来事が部屋のすぐ外で起きているようだ。
夢現。
脳は勝手に働くのに、正常な思考ができない。
アパートの2階、すぐ隣の家からこの部屋のバルコニーへの人の侵入は、そう難しくなさそうだ。
部屋に入ろうとしているのか?
反対側から階段を登ってくる音が聞こえる。このアパートの階段は金属製で、音がよく響く。登り切って、歩く音がして、どこかの部屋のインターホンを鳴らす。
配達員だろうか。頭の奥の方で冷静な思考のかけらは、中途半端な夢に掻き消される。
ドアをこじ開けようとしているのか?
唸る冷蔵庫。ビニール袋のコソコソ話。バランスを崩したペンたち。
がたん、どん
がちゃがちゃ
ことん
誰かがこの部屋に入ろうとしている。
この部屋の中に小さな生き物がいる。
嘘だ、夢だ、起きろ。
飲み込まれる。
強盗だ、空き巣だ、起きろ。
体が動かない。
恐怖で汗をかくのを感じる。目だけでも開こうと踠く。苦しい。動け、動け!
夢から醒めろ。このまま殺されるのは嫌だ。そこには誰もいない。今にも壁に窓が破られそうだ。問題ない、安心して眠りなおそう。早く逃げなくては。
脳内で繰り広げられるぐちゃぐちゃな押し問答。分かっているのに分からない。分からないけど、分かっている。なぜどうにもできないのだ。
金縛り。
何度経験しても慣れないものだな。と煙草を吸いながら重たい頭で考える。
体の自由を奪い、全ての感覚を誇張し、恐怖心を掻き立てる。
それが脳が作り出した妄想だと理解していながら、抗えないあの感覚は耐え難い。
昼寝は碌なものではないな。
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