見出し画像

犠牲の上に力づくで成り立つ平和や安全ではなく、問題の根本原因を突き止める努力を選びたい──北川直実編『1945←2015 若者から若者への手紙』

アップの写真と全身・半身の写真……アップの写真は1945年に青年だった人たち、全身・半身の写真はそのアップの人たちと同年代の今の若者たちです。

〝元青年〟だった人たちはご自身の戦争体験を語っています、収録された写真の姿からは「これだけは伝えたい」という強い思いが伝わってきます。
彼らはどのような体験を残そうとしているのでしょうか……。
東京大空襲で被災、父と姉を失った少女、シベリヤ抑留後中国の戦犯管理所で過ごした青年、学徒看護隊に動員された沖縄の少女、長崎で被爆した青年、飢えとマラリヤに苦しめられた戦場から生還した青年、731部隊に志願した青年、中国の内戦を生き抜いた少女、本土の士官に強制疎開を強いられマラリヤで苦しんだ青年、学童疎開を引率した女性、そして泰緬鉄道の捕虜監視員で死刑を求刑された青年など……。
この本に登場した15名の人たちはそれぞれが向き合わなければならなかった、強いられた戦争というのものの姿を生々しく語っています。戦地で次第に〝死〟に慣れていく兵隊、自身も被爆を受けながらも被爆死した仲間を火葬しなければならなかった看護婦、生体実験に立ち会った志願兵……人間が人間であることを失わせてしまうものが戦争の正体にほかなりません。
テクノロジーの進化は危険の回避にはなりません。加害意識の希薄化等による人間性の喪失に拍車をかけることにもつながります。

この本の〝かつての青年たちは〟そうした人間性を奪われたところから文字通り〝生還〟してきたのだと思います。その彼らをむかえたのは……
「私らは兵隊の時には、お国のために命かけて戦ったのに、帰ってきたら洗脳されたとか極悪人とか言われて、頭にきちゃったよ。偉い人たちは私たちを置いて帰っちまった。命令で動いた私たちが残され戦犯になった」
「私たち朝鮮人は日本人として戦争にかり出され、戦後も日本人としてある者は死刑になり、ある者は長い刑務所生活に耐えました。けれども一九五二年のサンフランシスコ平和条約で朝鮮人、台湾人は日本国籍を失って、日本人なら受けられる戦後補償や援護などもほとんど受けられなくなったのです」
故郷も変えられていました。
「戦争が終わって、沖縄はアメリカに売られたわけさ。売ったのは日本政府、戦争に負けたから。本当は賠償金たくさん払わなきゃいけないが、この沖縄を、軍用基地にしようが、何しようが好きにしていいと言ったからアメリカが喜んだわけよ。そしてアメリカは沖縄を軍用基地にしたんだ。うちたちの島をぶんどって、こんなに平坦にして」

彼らの記憶、体験を風化させてはなりません。
それに応えたのが〝今の青年たち〟からの手紙です。おそらくは想像だにしなかった体験を語られたのでしょう。〝かつての青年たち〟のその言葉に精一杯応える〝今の青年たち〟の姿が浮かんできます。
「誰かの犠牲の上に力づくで成り立つ平和や安全ではなく、問題の根本原因を突き止める努力を私は選びたいです」
「今の僕たちにできることは、僕たちより下の世代の子どもたちに、シソノさんが僕に伝えてくれた戦争の悲惨さや、悲劇などを伝えて行くことだと思っています」
〝かつての青年たち〟の言葉から何かを知った、感じ、そして受け止めた人たちの言葉が手紙として綴られています。
鬼籍に入られた方もいます。手紙はその人たちには届きません。けれど本当は〝今の青年たち〟の手紙の届け先は〝これからの青年たち〟なのかもしれません。

あとがきに北川さんがこう記しています。
「生きている時代が違う今の若者に、「証言」の背後にある戦争の時代の状況と空気を伝えることがいかに大事なことか。それが十分に伝わっていないために、今の若者があの時代を想像しきれないとすれば、それは「証言」を伝える私たちの責任でもあり、これからの課題だと思った」

この本は未来に開かれた本なのでしょう。そしてこの本に収められた風景写真がとても大切な何かを語っているようにも感じられました。伝えることの貴重さがすべてのページから感じ取れるものでした。

書誌:
書 名 1945←2015 若者から若者への手紙
聞 書 室田元美 北川直実
写 真 落合由利子
編 集 北川直実
出版社 ころから
初 版 2015年7月10日
レビュアー近況:アニメ『おそ松さん』を観ました。頭10分でお腹一杯になりました。『ワンパンマン』然り、秋の新アニメは面白いのが沢山です。

[初出]講談社BOOK倶楽部|BOOK CAFE「ふくほん(福本)」2015.10.06
http://cafe.bookclub.kodansha.co.jp/fukuhon/?p=4231

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?