むらさき
今から約1年8か月前、わたしは社会人1年目、意気込んで仕事を始めた。
出社から5日で緊急事態宣言が発令され、1ヶ月以上休業が決まった。
巷では、「コロナ鬱」なんて言葉が出回っていたけれど、わたしは安心していた。
外に出て人に会うことも、学校や仕事に行くことも何も頑張らなくていい。
むしろ外に出ないことが、何もしないことが”善”だなんて…心が軽くなったように感じた。
今思い返せば大学3年の頃からおかしかった。
お腹が空いていてもご飯は食べられなくて、体重は減っていく一方だった。
夜は眠れず、空が明るくなる頃に眠った。
何もしたいと思えなくて、ベッドに身体が張り付いたみたいだった。
それでも学校と日数の少ないアルバイトには行った。
「申し訳ないから」それが理由だった。
何もできない自分でいることが申し訳なくて仕方がなかった。他人に迷惑はかけていないと思いたかった。
休業になって申し訳なさから解放され、毎日何もしないで過ごした。
創作もしようとは思わなかった。
そんな日々が2週間ほど過ぎ、少しだけ外を散歩してみようと思い立ち、何日かぶりに外へ出た。
いい天気だった。1人暮らしを始めて5年目の、良く知った街をゆっくりと歩いた。
今日はせっかくだから普段は通らない道で帰ろう。
イヤフォンから流れてくる好きなアーティストの、まだ聴いたことなかった曲。
空は少しずつ色を変え、もう少しで夕方が来ることを予感させた。
なんだか心がフワフワした。
この曲、この時間好きだな
その後は言葉が溢れて止まらなかった。
書き留めなければいけない、曲を作らなければいけない、そう思った。
胸が高鳴っておかしくなってしまいそうだ。
落ち着こうと何度も深呼吸した。あまり意味はないみたいだけど。
信号待ちの時間さえも長すぎると感じた。
でも帰りたくもないと思った。
優しすぎる空の色が目の前に広がって、吸い込まれてしまいそうだった。それでも良いかもしれないな。
沢山の感情と言葉が飛び交った。
書きたいものは分かってる。
早く、早く、早く…!
急いで家へ向かった。
こんなにも足が軽いのはいつぶりだろうか。
素敵な曲ができるに違いない、そんな風に確信した。