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あまちゃん…de妄想 ⑥
自己開示と自己呈示

ユイ「今日、訛ってないね」
アキ「あ、そうだね、最近浜に出てないから戻っちゃったのかも…」
ユイ「そっちのほうがいいよ。アキちゃんが訛ってるのなんてウソだし、不自然だし、なにか馬鹿にされてるような気がする」
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アキは「ウソだし…」と言われても、動揺も反論もしない
それは決してウソではない
自分がホンモノであることを
実感しているのだろう…
ユイは、アキが東京から抱えてきた切実な悩みを、知る由もない…
そんな田舎もんの真似なんかしていないで、もっと東京のこと話してよ!…
と、ユイは言いたいだろうが、台場も、原宿も、下北も行かない、トウキョウウォーカー音痴な世田谷箱入り娘よりも、父の黒川正宗から訊いた方が、詳しい情報が聞けるかもしれない。何しろタクシドライバーなのだから…(笑)
ところで、その正宗のことを弥生は…
「あの黒川って男、悪いヤツではないんだけども、なんだかイラッとするサムシングがあるんだよな…」
ユイも、弥生も、東京人に対しては、ウソっぽいとか、イラッとするとか、何らかの先入観があるのだろうか?
海岸の網焼き売場で
弥生「ありゃ春ちゃんでねえが?」
美寿々「んだな、前歩いてる男は誰だ?」
夏「どうやら客ではねえようだな」
正宗「アキ!」
アキ「パパ」
一同「じぇじぇ」
正宗「なにしてんだ!こんな所で、なんだ、そのかっこうは!」
アキ「あ、海女さん」
正宗「そんなの見ればわかる」
この正宗の問い詰め方
あの足立功と同じ感じ…
( 何だ、監視小屋って、父さん聞いてないぞ… )
弥生が言う「イラッと来る」のが、わかる気がする。
たしかに、親としてみれば、夏休みに遊びに行った(と思った)はずが「海女さんになりたい」と言われたら、当惑するのは無理もないが。
高額な進学塾、中高一貫校に通わせて、大学の入学資金も用意していたかもしれない…
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夏はそういうこともお見通しで…
観光海女の成り手不足のためでなく、アキ自身のために…
この子が、本当の自分を
取り戻せるのは今しかねえ…
この子を救えるのは
おら(夏)しかいねえ…
だから
潜ってみっか?
一緒に
この子が囚われた
檻から出してやらねば
アクアリウムに
閉じ込められたマーメイドを
放すように
孫よ、逃げろ!
…と、尻を押した
そしてアキは変わった
本来の自分を取り戻したのだ。
十数年分の天野アキを
海の底で…

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あぁ私はひとりで、水平線を見てる
なんて、海は広いの…
そして、自ら
清水寺の大舞台…
いや防波堤から
命懸けでダイブした

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こびりついた〝東京臭さ〟
学校での陰湿ないじめの記憶…
みんな、海の底へ沈めてきた。
地味で暗かった黒川アキから
180度変身したのだ…

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ウソじゃない…!
これがほんとの私
生まれ変わった私
天野アキなんだよ
夏は春子にも言った
アキは今
自分で変わろうとしてる
変わらなくちゃなんねえのは
むしろ春子
おめえさんの方でねえの
十数年も一緒に暮らしていながら、春子にも解らなかった娘の心が、なぜ夏には、霊能者のように一瞬でわかるのだろうか?
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大自然と共存している者に備わった直感力、洞察力みたいなものだろうか?
自己開示と自己呈示
自己開示(じこかいじ)
他人に自分のことをさらけ出すこと
自己呈示(じこていじ)
自分をより良くみせようと
呈示(アピール)すること
人は、時として本来の自分とは違う自分を演じる。
いわゆるゴッフマンのドラマツルギー論、印象操作、儀礼的無関心とか…
アキの方言は、相手や時と場所を選ばない。
自己呈示とか、印象操作と言うほど器用なものではない。
そもそも『役割期待』にも応えようとすらしていないようだ。
夏やユイが言う「観光海女はサービス業」「アイドルは、需要と供給」など、知ったこっちゃない。
ここまで自由にやりたいようにやれれば、ほんとに気持ちいいだろう。
アキは逃げる、次々に現れる〝不条理な現実〟に、追い付かれないように「逃げろや逃げろ」走り回るトム&ジェリーのような疾走感に、つい引き込まれてしまうのだ。

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ところで、ユイが「ウソだ」と言うのは、実は方言のことではなくて、本音をぶつけて来ない遠慮がちなアキに、物足りなさを感じているのではないか…
友達が少ない親友同士だからこそ、ユイはアキと本音で語り合いたいのだ。
「ウソだ」というのはハッタリで、「そんなことないよ!」と反論して、東京から逃げてきた理由を、打ち明けて欲しかったのかも知れない。
ただ、スキゾ的に生きる者は、なぜか人と一定の距離を置いてしまう。
自分の弱さを見せない代わりに、他者の領域にも踏み込まない。
そもそも、何でこんなことばかり書いているのかと言えば、自分がそうだからかも知れない。
親しい人間ほど、ぶつかりたくなくて、本音で切り込まない、自己呈示的な表現で、距離を取ってしまう。
そういうところに、〝とっても明るい〟けど解りにくいアキに、なぜか共感してしまうのか…
のんちゃんのプロ意識に
感動したラジオ番組…

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『あまちゃん』をなんとなく視ていると、天野アキとは、のん(能年玲奈)がそのまま素で演じていて、天野アキ、イコール天然な〝のん〟なんだと思ってしまう。
実は、そう思わせてしまうところが、この人の凄いところなのだ。
天然ぽい天野アキから時折、地味で暗い黒川アキを垣間見せるところや、演技が下手クソな〝劇中劇〟も演じて見せる。
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のんは、あるラジオ番組で、演技についての質問に答えた。
自分とは違う役柄を、どうやって演じ分けているのか?と…
それは『メソッド演技法』というものらしくて、役への感情移入や背景を掘り下げて〝役作り〟を構築するものらしい。
ただし、全くの別人になるのではなく、のんが演じているという意味を織り込んでいくというのだ。
さらに、演技の仕事と、音楽や歌への考え方の違いについて質問され
演技とは「監督や脚本など、誰かが考えるものから作り出す仕事」であり、音楽や歌は「自分が歌いたいものを、好きに表現し、ファンとストレートに繋がれるもの」…と答えていた。
演技という仕事へのプロ意識と、歌やアートへの自由で爽やかな〝自己開示〟へのハッキリしたモチベーションのちがいが聴けた貴重な番組であった。
BAYFM78 CURIOUS HAMAJI 浜島直子 ゲストは、女優・創作あーちすと「のん」2023年4月23日放送
映画『Ribbon』は、役者としての役割期待、自己呈示から一歩踏み出して、のん自身の抱く世の不条理さへの怒りを、映画を通して〝自己開示〟した作品なのだろう。