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プリテンダー

のんちゃん
伊丹十三賞受賞おめでとうございます。

「能年玲奈さん、このたびは賞を受けてくださってありがとうございます。」

いきなり「能年玲奈さん」という呼びかけと、授与する側がお礼を述べていることにとても驚いた。

受賞理由の「困難を乗り越えた」その〝困難〟とは、のんちゃんの一人の責任ではなく、むしろ業界の不条理な構造に由来するものだ。

そんな理不尽な困難を、二十歳の若き俳優が、自力で乗り越えたという前人未踏の業績への賞賛と同時に、依然改まらない業界の後ろ向きの姿勢への批判や、反省を促す意図も含まれているように感じる。

それが「能年玲奈さん」という指名に象徴されているようだ。

また、記者との質疑応答のなかでの、のんちゃんの回答にも驚く。

“のん”になる時
自分の持っているものが
死なないように…


噛みしめながら答えたその言葉には、具体的に挙げれば色々あるかもしれないが、要するに

「その困難は、並大抵のものではなかった」

ということを、のんちゃんなりの精一杯な表現で訴えたのであろう。

あまちゃん以来のファンとしては、いまさら驚くことではなく、昨年の『荒野に立つ』による〝怒りの暴露〟によっても、免疫ができていたつもりなのだが、あらためて聴く痛烈な表現に、新たなショックを禁じ得ない。

そして、夏さんがアキに語りかけているような、宮本信子さんのメッセージにも泣けたが…

「シャイで、おとなしくて、この子大丈夫かしら?」という〝おこもり好き〟な能年玲奈ちゃんが〝魔の山〟のような困難に立ち向かったという逆境には、想像を絶してしまう。

地震や津波で崩れたレールや橋脚を、何年もかけて、自ら敷き直してゆくような困難ではないか?

不当な圧力に負けることなく、自分を信じて、真の実力や成果を発揮した人が、正当に評価される世の中になって欲しい。

そういう希望を、次々と実現してゆく頼もしいのんちゃんに、将来を託すようなホットな場だと感じた。



のんちゃんの新しい髪型を見て


ムムっ

誰かの髪型に似てる…


と思い

「プリテンダーズのクリッシーハインドみたい」コメントした…

そう思った人もいただろうか?

自分は、プリテンダーズもクリッシー・ハインドも詳しくないのだが、この曲だけは、印象に残っている。

Pretenders  Don't Get Me Wrong (Official Music Video)

Don't Get Me Wrong…

誤解しないで



とは、実は誤解されたくないんじゃなくて、逆に「好き」という本心を見透かされて
照れ隠しする、シャイな強がり。

「言葉が持つ様々な意味やその語源を知るのが楽しい…」

ロック界の姉御と呼ばれるクリッシー・ハインドは、そう語るという。

ところで『プリテンダーズ』の
プリテンダーとはどういう意味だろう?


プリテンダー:Pretender


詐称者、ペテン師、ふりをする,見せかける,演じる、偽って主張する,言い張る

あえてなのか〝偽悪(ギアク)的〟なネーミングが、Don't Get Me Wrong…同様、逆説的に純心さを包み隠しているようだ。

偽悪(ギアク)とは〝偽善〟へのアンチであり、反抗期の少年のような純な眼差しが、虚飾に満ちた世界をヤブ睨みしている。

そういう青臭い若さを、72歳になっても持ち続けているクリッシー・ハインドという人は、凄いと思う。

ロックに詳しくない、ましてやオルタナティブロックのなんたるかを理解していない自分が、感想を書くのもおこがましいのだが…

Pretenders - Tattooed Love Boys (Official Music Video)


〝にわか東北弁〟の天野アキは
天性のプリテンダーか?


『プリテンダー』の意味は、知るほどに、広くて深いと感じる。

詐称者とか、ペテン師、と言うほどではない、日常誰もが持つ二面性という外見から見たらどうだろう…?

人が二面性や多面性を持つのは、実社会では避けられない。

そういうものを、拙記事で「ドラマツルギー」とか「儀礼的無関心」というテーマで書いた。

分かりやすく考察しようと思い『あまちゃん』になぞらえたのだが…

東北に来たばかりなのに、いきなり東北弁を話すアキを見て、ユイは「わざとらしい…」と思ったのか「嘘だし」と言う。

田舎者のフリして、親友っぽく振る舞ってるけど、どうせすぐ東京に帰っちゃうんでしょ。

そう思ったかもしれない。
アイドルになるためにはワンチャン、アキが東京へ帰るタイミングを逃すまいと。

たしかにアキには二面性があるかもしれない。本心がわかりにくい面もある。

でもそれは、ユイの言う需要供給や計算によるものではなくて、天性の環境適応力みたいな感性によるものだろう。

春子が「協調性がない」というのはどうだろうか?

東京の学校生活での、イジワルな奴らと、協調したくなかっただけで、一見気弱だが芯は強いのだ。

そして北三陸の海を見た瞬間「自分が適応すべき場所はここだ!」と、本能的に目覚めたのだろう。

天野アキは最初から、エセ東北弁をしゃべる〝ひょうきんな娘〟だと思われているかもしれないが、アキにとっては、そういう〝誤解のまま〟でも「お構いねぐ」なのだろう。

わかるヤツだけわかればいい

アキは、東京での辛い経験を誰にも話さない。

ユイや北三陸の人々、母親の春子でさえ知らないだろう。

ただし夏だけは「この子は何かを抱えている…」と察知したのかも…

誰にも知らせずに、それを海の底に沈めたアキ。


アキにとって海は神聖な場所だから、インチキっぽい『落武者』を受け入れられなかったのかもしれない。

そしてアイドルを目指して再び東京へ行くアキは、弱気の虫が出て「行きたくねぇ」と泣き出すが「わたし、変わった?」と、春子に訊く。

アキは標準語でアイドルを目指すつもりだったのかもしれない。

「おら」ではなく「わたし」に戻っているところは『東京行き』を観念したようだ。

しかし、東京に集ったアイドル志望たちは、方言丸出しの『田舎者』だった。

はからずもアキは水を得た魚となった。「方言なら任しとけ」と…

ユイが「嘘だし」と言った『にわか東北弁』が、自分を活かす武器になったのだ。

これも計算ではなく「やってみなけりゃわかんない」アキならではの得手だろう。

アキは、天性のプリテンダーかもしれない。


こちらもプリテンダーズ

映画『プリテンダーズ』予告編

映画Ribbonで、妹役を演じた
小野花梨さんが好演している。



最近の、プリテンダーズ
クリッシー・ハインドの動画

Pretenders - Tattooed Love Boys

 (feat. Johnny Marr & Dave Grohl) (Glastonbury 2023)

テンポの速い曲『Tattooed Love Boys 』昨年(2023)の英国グラストンベリーフェスの動画。

80年代のMVではマーティン・チェンバースがドラムスティックを高々と投げ上げるパフォーマンスを見せるが、あのサスペンド(一時停止)は、万一スティックを取り落とした時に拾うため?

「ステージうらに酔っぱらいの大男がいて、演奏したがっているの。トラブルはごめんだから出ておいで、、」

クリッシー・ハインドが、ジョークたっぷりに紹介したゲストは、フーファイターズのデイヴ・グロール。

元プリテンダーズメンバーの、ジョニー・マーもゲストに迎えられている。

MVと変わらずアップテンポな曲だが、難なく歌うクリッシー・ハインドは、とても70歳代には見えない。

元Nirvanaのドラマー、デイヴ・グロールにとっては〝昔取った杵柄〟〝水を得た魚〟のようだが、ナマハゲが太鼓を叩くような必死の形相が、やや苦しそうに見えてしまう。



同フェスでの、フーファイターズの動画もあったので視てみよう。


なんと曲名が『Pretender』プリテンダー。

さきほどの、ゲストで登場したデイヴ・グロールは、気のいいオッサンという感じだったが、頭から水をかぶると形相が一変。

WWEのアンダーテイカーとトリプルエイチを足して2で割ったような迫力の表情だ。

Foo Fighters - Pretender (Glastonbury 2023)


下記の記事を参考に、歌詞や意味を知って驚く。

政治的な意味合いがある

この一言で、ピンと来てしまう。


歌詞の和訳を読み進めてみる。

この曲でいう「プリテンダー」とは、プリテンダーズや、天野アキのシャイな二面性とは大きく異なる。

ここでのプリテンダーとは、巧妙にレトリック(美辞麗句)を弄する政治や経済の行使者、既得権益のことだと解釈する。

プリテンダーは、手段を選ばず人々を抑圧してくる。

それは決して過去のことや、どこかの国のことではなくて、どこでも起こりうる力による不条理な支配。

誰かが置かれた理不尽な状況を、見て見ぬ振りしてしまう弱さも、支配者プリテンダーに荷担してしまうことだと。

この歌は、そんな不条理な力に、決して屈しないという強い意志を表現しているようだ。

力による支配、そういう古い体質を、勇気を出して、そろそろ改めようではないか…

という意図があの贈呈式からも感じたのは、気のせいだろうか?

のんちゃんの強烈なコメント

自分の持っているものが
死なないように…


それは、まさに〝プリテンダー〟という魔物と闘った、孤高の戦士ナウシカの武勇伝のように響いてくるのだ。

Foo Fighters - The Pretender


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