Mindmaze -VR在宅リハの先駆者-
勝手にデジタル療法企業探訪、その②。
企業概略
企業名: Mindmaze (スイス)
設立: 2012年
URL: https://mindmaze.com
対象疾患: 脳梗塞後/運動器リハビリテーション
規制当局承認:
MindMotion PRO [FDA, K162748] [CE marked]
MindMotion GO [FDA, K173931] [CE marked]
MindMazeは、脳障害に対するリハビリテーションを提供するデジタル療法を開発するスイス発祥の会社です。MindMotion PROという、脳梗塞後遺症の中でも上半身の片麻痺の急性期リハビリをサポートするデジタル療法と、MindMotion GOという、Microsoft kinectのモーションキャプチャー機能を利用し、ゲームを通じて自宅でのリハビリを行うことができるデジタル療法を提供しています。GOはおそらく同じゲームのPokemon Goから来ているのでしょう...
また、脳機能改善のために下記のようないくつかのベンチャー企業をグループとして傘下に収めているようです。
①M2(square) Healthcare
URL: https://msquarehealthcare.com
「MindPod」というVRデジタル療法アプリを開発しているボルチモア(MD, USA)の会社です。MindPod DolphinというVRイルカと一緒に海を泳ぐようなイメージのゲームでもって、脳梗塞後の上肢機能を改善させる、あるいは加齢やアルツハイマー病などによる認知機能の低下を防ぐことを目的とした、ゲーム型治療用アプリを開発しています。
②Intento
URL: https://www.intento.ch
「Intento Pro」という、こちらも脳梗塞後の片麻痺になった上肢のリハビリに関するデジタル療法アプリを開発しているスイスの会社で、2018年にMindmazeに買収されました。この機器のユニークな特徴は、片麻痺上肢の患側(麻痺側)に電極を貼り付け、健側(麻痺がない側)でダイヤル型IoT機器とタブレット画面を操作してリハビリプログラムを選択し、そのプログラムに最適化した電気信号を患側に与えることによって、より効率的にリハビリを行う点です。電極の装着については、より簡単に上肢に巻けるようにしたIntento WEARというものも開発しているようです。
③Curapy.com
URL: https://www.curapy.com/jeux/toap-run/ (フランス語)
「TOAP Run」という、パーキンソン病の運動機能維持改善を目的としたリハビリを提供しています。こちらはMindmotionと同じく、Xbox kinectによるモーションキャプチャーを用いた体感型ゲームを行うことによって、運動機能の回復を目指します。既にCEマークを取得しています。
そのほか、MindMazeは歩行分析や認知機能の数値評価など、脳神経疾患に関する包括的な生体データ取得とそのアセスメントに関する取り組みも行っています。全部やると大変、今回はMindMotion PROを少し、そしてその改良型であるMindMotion Goについて書いていきます。
背景
脳梗塞(stroke)は全世界で毎年1700万人が罹患し、罹患後は約2/3の方に長期にわたり四肢の片麻痺などの運動機能障害、感覚障害、あるいは認知機能に影響を及ぼすと言われています。特に運動機能障害の出現頻度は高く、脳梗塞を発症した方の約90%で何らかの運動障害、特に上肢の運動機能に障害が出るとの報告があります。そのため、その運動機能・筋力の維持向上のために、脳梗塞罹患早期から患者さん自身がモチベーションを保ちつつ、最大限かつ反復的な運動器リハビリテーションを行うことが重要です。
このような効果的な運動器リハビリのスケジュールとして、1回45分以上のセッションを週5日(5回)以上というものが提唱されています。しかしなかなかこのハードルは高いものがある、脳梗塞発症後3ヶ月もするとそのリハビリに割く時間は著名に減少してしまいます。そのため、一番機能回復が見込める脳梗塞発症後3-6ヶ月までに十分なリハビリを受けられず、結果として脳梗塞後の運動機能等の回復も不十分のまま麻痺が固定してしまうという問題がありました。
デジタル療法の概要
そこで、脳梗塞発症後の運動器リハビリ、特に上肢のリハビリに関して、患者さんがモチベーションを保ちながら、十分な負荷(=効果)のあるリハビリテーションプログラムを反復して行うことを可能とするデジタル療法として、MindMotion PROが開発されました。
(引用元: Perez-Marcos et al. Journal of NeuroEngineering and Rehabilitation (2017) 14:119)
このDTxはテーブルトップ型で、患者さんの正面のモニターにリハビリテーションプログラムと連動したゲームが表示され、その指示にあわせて患者さんがマーカーを装着した上肢を動かしてリハビリを行うというものです。機器上部に3Dモーショントラッキングカメラが設置されており、両上肢と体幹の位置を把握することでリハビリがきちんと行われているかを確認します。
ちなみに、患者さんの見ている画面内はバーチャル空間であり、一般的な非透過型ヘッドマウントディスプレイではありませんが、バーチャルリアリティ(VR)のゲーム型デジタル療法の一種として扱われています。このような運動(Exercise)とゲーム(Game)をあわせたものを、”Exergames”と称します。Wii Fitなどはexergamesの代表としてイメージがしやすいかもしれません。
この画像の引用元であるMindMotion PROを用いたパイロットスタディでは、先に示したような急性期脳梗塞患者ではなく、主に発症6ヶ月以上経過した慢性の脳梗塞患者を対象としたVRリハビリですが、関節可動域や運動機能の改善が期待できる結果が得られています。
また、このMindMotion PROに付随する専用3Dモーショントラッキングを、Microsoft kinectに変更し、簡略化し、家庭でも運動器リハビリができるように進化したものがMindMotion Goです。こちらはHIPAAに準拠し、有名病院(ジョンズホプキンス病院やマウントサイナイ病院など)と提携して、一部セラピストの見守りも合わせた遠隔リハビリテーションプログラムを提供しています。既に臨床試験(NCT03993275)は2020年5月に終了しているようですが、2021年11月初旬では論文そのものは公開されていない(見つけられなかった)ようです。
臨床データ
1. Perez-Marcos D, Chevalley O, Schmidlin T, Garipelli G, Serino A, Vuadens P, Tadi T, Blanke O, Millán JDR. Increasing upper limb training intensity in chronic stroke using embodied virtual reality: a pilot study. J Neuroeng Rehabil. 2017 Nov 17;14(1):119. doi: 10.1186/s12984-017-0328-9. PMID: 29149855; PMCID: PMC5693522.
2. Exergames Balance Program in Neurorehabilitation. (NCT03993275). URL: https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03993275
私見
遠隔リハビリテーションは多くのデジタル関連企業が取り組んでいるカテゴリーのひとつですが、VRリハビリの場合、特に高齢者においては非透過型ヘッドマウントディスプレイをいかに装着して、(最近はハンドトラッキングもあるとはいえ)コントローラーをきちんと操作していただくかが問題のひとつでした。その点、Microsft kinectを用いた3Dモーションキャプチャであれば、患者さん側は少なくともヘッドマウントディスプレイを装着する必要がありません。そのため、特に医療従事者が側にいないような家庭において、リハビリ開始のハードルが低くなり、結果としてヘッドマウントディスプレイ装着型よりも普及する可能性が高いのではないかと考えています。ゲームコンテンツの内容を変えるだけで、それぞれの疾患や麻痺のレベルに対応したリハビリテーションプログラムが提供できうることも利点であり、今後は臨床的な効果を証明しながら、脳梗塞以外の疾患への応用にも期待します。