インスタント。拙速。

ヨノナカはインスタントに溢れ、ねずみ算的に加速している。

手軽にできる〇〇。

僕はその恩恵に与っている。
ほんだしがあるから味噌汁を簡単に作ることができるし、
レトルトカレーがあるから手間を省けるし、
デビットカードがあるからWeb通販でモノを買うことができる。

インスタントに助けられて生きている。
ありがたいことだ。

一方、インスタントを嫌う自分もいる。

大半のYouTuberやブロガー。
面白いでしょと押し付けがましい制作会社。

琴線に触れないほどの軽薄さ。

イチローや上原の引退についても簡単に「感動した」と簡単に言う。

僕はそんな軽いことを言えない。
言葉にするにはあまりにも偉大で、複雑だからだ。
積み重ねたコトの量と質が大きすぎる。
ありがとう、でも軽い。
僕はお疲れさまでした!と精一杯に笑って言うことしかできない。

自問自答。
禅問答。
正解のない答え。

それを練り上げていく中で、ある一つの疑念が生じた。
「本当に孫子は【拙速巧遅】を善しとしたのか」である。
一方で「急がば廻れ」「急いては事を仕損じる」という言葉がある。
「ウサギとカメ」「アリとキリギリス」というお伽噺もある。
何故今のヨノナカは「拙速巧遅」だけを持ち上げるのか。
科学的思考からあまりにもかけ離れていないか。

いろいろ調べたら、孫子は「拙速巧遅」という言葉そのものを使っていない可能性があるということがわかった。

故に兵は拙速を聞くも、未だ巧久しきを睹ざるなり。

それ兵久しくして国の利する者は、いまだこれあらざるなり。故にことごとく用兵の害を知らざる者は、すなわちことごとく用兵の利をも知ることあたわざるなり。

という言葉を孫子は残している。
孫子の兵法の第二章「作戦篇」にあるらしい。

最低限の目的だけを達成する短期決戦が有効なことはあっても、多くの目的を叶えようとする長期戦が有効だったことはない。

そもそも、戦争が長期化して国家にとっての利益が増したことは、未だ無い。そして戦争のもたらす弊害を知らない者は、戦争によって得られる利益についても知ることができない。

と現代語に訳せる、とのことだ。
参照:https://sonshi-heihou.com/%E5%85%B5%E3%81%AF%E6%8B%99%E9%80%9F%E3%82%92%E8%81%9E%E3%81%8F/

ちょっと待って。
これはあくまでも戦争の話だ。
人の生き死に、命を使った行為に於いての話だ。

そりゃあ闇雲に戦争を続け、国力が疲弊するくらいなら、さっさと戦争を片付けたほうがいい。

しかもあくまでも「兵法」についての話だ。

次に「拙速巧遅」の由来を調べた。

「巧遅は拙速に如かず」の由来となった本当の出典は、中国南宋の謝枋得(しゃぼうとく)が編纂した、科挙受験のための参考書である『文章軌範』の「有字集小序」です。

このなかで、模範的な簡潔な文章を書くためのアドバイスとして「巧遅は拙速に如かず」と記されています。

つまり、受験のアドバイスなのだ。
参照:https://biz.trans-suite.jp/20432

戦争の仕方と受験のアドバイス、果たして同じ次元で語れるものであろうか。

「戦争はサッと切り上げたほうがいいよ」
「受験で白紙を出すくらいなら何か書いておきなさい」

僕は全く違うと思う。

ビジネスは戦争だ、拙速巧遅であるべきだ。
たしかにビジネスは戦争に似ている部分がある。
いわば、経済戦争なのだから。

一方、ビジネスは命のやり取りをする戦争ではない。
あくまでもビジネスは「経済活動」であり、人間の生き死にとは別次元だ。

一つの例として伝統工芸品を取り上げよう。
外国人観光客も増え、日本の伝統工芸品は今、非常に大きな人気を得ている。
伝統工芸品の多くは手作りであり、大量生産はできない。
特に葛籠(つづら)が人気らしいのだが、納品までの期日が未定ということもあるらしい。
参照:岩井つづら店

速さこそ第一と言いながらも、質のためなら時間も厭わないことも多い。

僕は両方を兼ね備え、使い分けることこそが重要に思えて仕方ない。
伝統工芸品を作る職人の作業は非常に速い。
それは長い時間をかけて積み重ねた経験や技術を元に迅速に作業され、質を上げるために多くの工数を割く。

決してインスタントではないのだ。
決して拙速ではないのだ。
拙速と巧遅を使い分けて一つのモノを作っているのだ。

そこには軽薄さは一切なく、重厚な価値が生まれる。

完成間近のサグラダ・ファミリアだってそうだ。
1882年3月19日に着工し、2026年に竣工予定だ。
これが数ヶ月や数年でできるものであったら、今の価値より遥かに下回る建造物でしかなくなるだろう。

インスタントにはインスタントな価値しか生まれない。

速さは便利である。
実にインスタントだ。
手間がかからない、今すぐに手に入る。
便利だ。

ならばインスタント食品ばかり食べていてもいいのか。
全く違う。
バランスの良い食生活が大事だ。

今のヨノナカは拙速を尊ぶ。
巧遅は蔑まされている。
特に「アヤシイ」ビジネスでは。

中庸の精神が今こそ必要なのであろう。
中庸を知るには拙速も巧遅も知る必要がある。
それらを咀嚼して血肉とし、肉体と精神に取り入れて初めて会得できる。

もう少し重厚なヨノナカにならないものか。
軽薄過ぎやしないか。

人の心はそうやって動いていく。

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野村和司
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