
6月10日の日記「歩みもライスも止まることなく」
朝家を出たら、アパートの向かいの部屋の、扉の前の床の上に、チューハイと冷凍ピザが置き去りにされてあった。なんかの差し入れか、配達か? いや、それにしてはあまりも雑すぎる。私(わたくし)の推理によりますと、その部屋の住人は昨日の夜、ピザとお酒を買って帰宅したのだが、扉を開けるために一旦それを床に置き、それらを回収するのを忘れてそのまま寝てしまったのです!……みたいな? わりと自分もやらかしそうなポカだなーと思って、朝からほっこりした気分になった。
会社の帰り、最寄り駅で電車を待っている間、所在ないからホームをぶらぶら歩いていた。そうしているうちに電車が来たから、それに乗り、乗り換えの駅で下りて、1番近くのエスカレーターを上る。それから考えなしにぼうっと歩いて、ふと我に返ると目の前の駅の景色は全然見覚えのないものだった。あれ? 降りる駅間違えた? と思ったけど、駅自体は間違っておらず、ただ普段と電車に乗る場所も降りる場所も違い、それなのに惰性でふらふら歩いていたので、駅の全然知らない場所に辿り着いてしまったのだ。今まで何度も通ってきた駅なのに、ちょっと気を抜いて歩いただけで全然知らない場所に変わっちゃうのは、なんだか愉快なことだなって思った。今度は駅内の導線に従って明確に歩いていると、ちゃんといつもの乗り換え路線にたどり着いた。
なにも考えず、ぶらぶら歩くのが好きだ。歩く過程で景色を楽しみたいとか、歩いた結果新しい何かに出会いたいとか、そういう欲求はぜんぜんない(そんなふうに外の世界に敏感だったら、今日みたいなポカはしてないだろうし)。ただ単に、頭からっぽにしてのんびり歩くって行為自体が好きというか、癒されるのだ。色々考えながら歩くのも好きだけど、あれは考えるための手段として歩いてるって感じなので。でもって今日の駅での出来事を振り返ると、僕の愛する脳死散歩の舞台に、駅構内ってもってこいなんじゃないかと思う。脳死散歩で一番だるいのは、なんも考えずに歩いたせいで知らない場所にたどり着き、戻るために色々カロリーを使わなきゃいけない点だ。だけど駅構内なら導線がしっかり引かれてあるから、それを追えばさくっと帰ることができる。ただ、駅の中をふらふらさまよったり、同じ場所をぐるぐるしてたりすると、けっこう早い段階で不審者扱いされちゃう気もするし、やっぱ微妙かな。今度1日中、駅の中から出ずにふらふら歩き続ける、ってのをやってみるのも面白いかもしれない(絶対やらないけど、話を無理矢理まとめるためにこう言いました)。あ、ちなみにぶらぶら歩きたいってのは、時間に追われてないときに限った話ね。要するに帰り道限定で、行きはできるだけ素早く短く移動したい。ぎりぎりまで寝てたいしね。行きは歩いて5分、帰り道は歩いて30分くらいの、なぞなぞみたいな家に住みたいなあ。
夕飯、無性に肉が食いたい気分になったので、やよい軒のミックスステーキ定食みたいなやつを食べた。牛肉のステーキにチキンステーキ、エビフライにポテト、ナポリタンと、バカでも美味いとわかる食べ物ばっかりが並んでいたので、嬉しくてニコニコしちゃったな。やよい軒は今はおかわり処を封鎖しているけど、普通に店員に言えば変わらずおかわりし放題なのがすごい。別にそこうやむやにしちゃってもいいのにね。やよい軒と言えば前新しくカルビ焼肉定食が出たとき、そのポスターに「オン・ザ・ライスが止まらない」と書いてあって、けっこうビビったのを覚えている。肉のタレでご飯を食うという割といやしめな行為を、店の方から推奨してくるなんて。普通はなんとかおかわりさせないように仕向けるもんじゃないの? なんの思惑があってそんなに俺らに白米を食わせようとするんですか? って、一時期ちょっと怯えてましたね。『理由の見えない善意ほど、薄気味悪く感じるものはない』……これは、僕が今5秒で考えた台詞で、完全に嘘です。普通にヒルとかの方がキモいしね。
家までの帰り道、「まだ玄関の扉の前にお酒とピザあったら、日記のオチがつけやすくて助かるのになぁ」って思ってたら、本当に朝のままでお酒とピザがあってビックリした。その住人が朝から一回も家から出ず、ピザとお酒の存在に気づかなかったのであれば、まだいいろう。だけどもし、その住人が本当は気付いているのであれば……なんて考えると想像がどんどん膨らんで、軽く半日くらいは潰せそうじゃないですか? 引き続き、なにかこの事件に進展があったら報告しますね。明日もまだ起きっぱなしだったら、ちょっとピンポン鳴らしたりしてみようかな。そこからまた新しい何かか始まったりしたら、しばらくは日記のネタに困らなさそうだし……。