マイ・オーディオルームのススメ
摩天楼オペラのGLORIA。
この曲の全てが、僕を奮い立たせる。
それはまがりなりにもミュージシャンを名乗る僕の、ライブの登場SEに使われることもあったし、一人きりの立ち飲み屋でくだを巻いたあの日にも流れていたし、今この瞬間にも流れている。
結局「縁」なのだ。
音楽というものが・・ましてや特定のある一曲がその人の一番深い部分にドカンと陣取れるかなんていうのは。
摩天楼オペラのGLORIA。が出た当時、僕は一人の女の子に夢中だった。
その女の子が、摩天楼オペラを好きだった。
当然僕は摩天楼オペラを聴き始め、GLORIAはとてつもなくいい曲だった。
順番としては、こうだ。
この順番だったからこそ、今でも摩天楼オペラのGLORIAは僕の胸の奥の一番深いところに居座り続けている。
「いい曲」なら代わりはいくらでもいただろう。
街に溢れるかわいい女の子みたいに。
もう仕方ない。
僕にとって、ここ1番のヘビメタは摩天楼オペラのGLORIAなんだよ。
☆
ふと秋の夜に、部屋の灯りを消して、聴こえてくる音楽だけに身を委ねてみたんだ。
楽しかったよ。オススメだから試してほしい。
楽しい遊びを見つけたよ。
マイ・オーディオルームだ。
Spotifyとか、そういったサブスクリプションの音楽配信サービスと、それなりに気合いの入ったヘッドホン・・あとは僕だったら安くて美味しいワインと、同じく安くて美味しいおツマミ。
それさえ揃えば自分だけのオーディオルームの完成だ。
部屋の灯りはできるだけ暗くして(真っ暗だとワイン注げないから)、他の五感はシャットアウト。まあ、視覚をシャットアウトだね。聴覚を研ぎ澄ます。
そうやって、6畳1間の鳥かごに出来上がった僕だけのオーディオルームでワインを口に含み一息つくと、自分の目がどれだけ疲れていたのかが分かる。
映像を伴わない、耳からの情報だけが頼りのその音楽。
暗闇の中で目を閉じてその音楽に浸る僕の網膜の裏には、僕だけの映像が溢れていた。
暗闇の中の音楽会。
与えられるのではなく、受け取り手の創造性が広げていく芸術。
それはたぶん「余白」と同義語。
あの日、受験勉強しながら聴いたオールナイトニッポンが今も忘れられないのは、入ってくる情報はラジカセから流れる、耳からの音声だけ。スパイスはあの時代にしかなかった「不安」と「期待」。そんな、あの時代のあの瞬間の僕にだけ許された「余白」と混じり合って、ラジオパーソナリティの声は僕の脳内に僕だけの映像を作り出し、僕だけの記憶を作り出した。
いろいろ難しく考えてはいるけれど、たぶんサッカーと同じなのさ。
「球技だけど、手は使わないことにしてみようぜ。」
制限こそが、芸術なのさきっと。