初めて作った同人誌がたったの20冊売れて、飛び上がるほど嬉しかった
初めて作った同人誌がたったの20冊売れて、飛び上がるほど嬉しかった。
同人イベントに向けて本を作ると決めてから、ずっと不安だったから。
一冊も売れないんじゃないか。SNSを遡ればいつでも見ることができる絵を、本にまとめて何になるんだろうか。
もちろん本を作るのはすごく楽しくて、もちろんワクワクする瞬間だらけだ。たくさん売れることだけが本の存在価値ってわけでもない。
とはいえ、一冊ぽっちも売れなかった暁に「うむ、まったく売れなかったけどいい経験になったな、作ってよかった!」と思える自信はなかった。
イベントの3日前にはちゃんと、本が一冊も売れなくて泣く夢も見た。
作品が溜まってたらそれでいいんじゃないの
「本を作るぞ」と決めてから、本の中身まではすんなり決まった。これまで一冊も製本をしたことがないわけだから、まとめられる作品の素材はある程度溜まっている。
最初に決めたコンセプトに沿った作品を、ざっくり適切なページ数になるように配置するだけ。
でも問題はそこからだった。
表紙が決まらない。タイトルの文字ってどうやって入れたらいいの。中表紙もあるし。前に買った誰かのイラスト本は奥付とかまでかっこよかったしな……と手が止まってばかり。
入稿データを「適切な形式で」作成することすらままならなくて、印刷所への入稿時に何度もエラーで差し戻されたりもした。
「何冊刷るか?」はいちばん迷ったが、あんまり在庫が残っても嫌だ。
「初めてのサークル参加で発注を見誤って大量の在庫を抱えた」みたいなレポ漫画も世の中に溢れかえっているから、怖い。
結局、予備を除いて20冊だけ刷ることにした。
甘い準備でなんとか設営
今回サークル参加したイベント「コミティア146」の開場時間は11時。「開始です!!」みたいな放送が会場中に流れて、みんながパラパラと拍手をして始まる。
だからサークル参加者はそれまでに自分のスペースの準備をしておくのが通例だ。
私は朝9時すぎに、20冊のイラスト本と申し訳程度のポストカードなどを引っ提げて駅に到着。キャリーケースをごろごろ引きずる(=それだけたくさんの頒布物がある)人たちの流れに乗って、なんとなく心細い気持ちのまま会場に向かった。
初めての設営のための下準備は、普通に甘かった。
机にかけるために持っていった布はなんか小さすぎたし、値札用のメモ帳は持っていき忘れて急遽ルーズリーフになったし。
お釣りのための小銭も、前日必死に切符を買って移動することでたくさん作ったけど、何円分持ってきたかとかは把握してなかった。(あとから売上とごっちゃになって最悪だった)
それでもどうにか机の上を整えて、ソワソワしているうちに売り子をお願いしていた友だちも会場に到着。少し安心して、一緒に開場時間を待った。
サインなんて作ったことないのに
開場して、一冊目が売れたときの気持ちは忘れないと思う。変に大きな声で「あ、ありがとうございます!」って何回も繰り返しちゃったのも。
そのあとも立て続けに「Twitterで見かけて……」「表紙の絵柄が気になって」と足を止めてくれる人が現れて、嘘みたいだった。
もちろん、誰も見向きもしない時間もめちゃくちゃある。そういうときは、勇気を振り絞って「よかったら立ち読みだけでもどうぞ」とか言ってみたりもした。
声をかけることで足を止めてくれる人も案外いるものだ。勇気ってやつも捨てたもんじゃない。
いろんな人がスペースを訪れるなかで、なんと驚いたことに「表紙に宛名とサインをもらえますか」というリクエストもあった。
サインなんて作ったことないのに。きっったない楷書体でとりあえず「ノミヤスズ」と書いたけど、あれでよかったんだろうか。自分のサインに価値がある世界線ってなんなんだ。
そうこうするうちに20冊あった本は10冊になり、5冊になった。一冊売れるたびに、嬉しくて脳が沸き立つ。
そして開場から2時間ほどが経ったとき、最後の一冊が売れた。本当に売れるんだ。感激した。
売り切れたあとに「通販とかないんですか……?」と話しかけてくれた人もいて、すごく嬉しかったな。
まだまだたくさん本を作ってみたり、楽しいグッズを作ってみたりしたい。製本やデザインにこだわってみたいし、設営ももっと凝ったことをしてみたい。未来のイベントへの意欲が、むくむくとでかくなった。
SNSの向こう側に人間っていたんですね
午前11時にコミティア146が開場してからの数時間、私がずっとぼんやり思っていたのは「SNSの向こう側に、やっぱり人間っていたんですね」ということ。とても、いい意味で。
だってそこには、私が思っている以上にずっとずっと、見ていてくれた人や応援してくれている人がたくさんいた。
「SNSの向こう側に人間がいることを忘れるな」みたいな言葉は、SNSで誹謗中傷をやるような人間にしか関係ないと思ってたけど。
SNSの向こうに優しい人がいるかもしれないことも、覚えといたほうがいい。
しかも今回足を運んでくれた人は、きっとそのごく一部だ。直接声を聞けてなくたって、まだどこかでこっそり応援してくれているという人も少しいたりするかもしれない。
なんというか、本当にありがとうございます。がんばります。
たった20冊の本が売れていった過程で、そんな分かりきったことを噛み締めて、心の底から嬉しくなった。
本が完売したって売上は、トータルで全然赤字のくせにね。