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たまに虚無 #3

無印で目的のものを買えた私は、髪を切りに近所の床屋に行った。
前髪は短く、おかっぱ頭を継続するために1ヶ月に1回のペースで髪を切りにいく。カラーを入れるのは栃木の実家近くの美容院でやってもらうけど、短いスパンのカットは安い方がありがたい。その床屋は1100円で切ってくれるのでありがたい。以前にスーパーでどこぞのおばあちゃんに「上手な人に切ってもらってるのね。似合ってるから、これからも同じところに行くといいわよ」と褒めてもらったこともあり通っている。

もうひとつ、チェーン店で安くカットしてくれるお店があった。そこはカード払い可なので手持ちがないけど髪はどうしても切りたいって時に行く。けど今はカード払いの方が良くても行かなくなってきた。よく担当してくれたお兄さんが本当に上手で通っていた。このお兄さんとの出会いは数年前になる。
東京に引っ越して、行きつけの美容院を探そうと思った私はオズモールで検索して見つけた近所にある美容院にカラーとカットを予約したのだが、そこでちんちくりんな髪型にされた。前髪はクセでハネるし、切りっぱなしにしてほしいと伝えたのに毛先が内側に入ってまんまるボブっぽくなってる。カラーは寒色系のブラウンと伝えたのにほぼ真っ黒にされた。あれはネイビーでもなかった。こんな色じゃないんだけど…と思った。が、担当したキャピキャピしたパヤパヤ美容師はげんなりする私の横で「すごくきれいに色入ってる〜♪」と自己満足に浸っていた。色も嫌だし、前髪もハネっぱなし。普段つけないワックスを買ってハネないように固める日々。伸び方も変でみっともなくて「もっと短くなってもいいから、整えてほしい」と思った。けど、またオシャレな美容院でもっとちんちくりんな髪型にされた上に高いお金を払うのは嫌だ、と思いこのチェーン店に入った。その時に担当してくれたのがお兄さんだった。

「段が入ってますね」と、お兄さんは私に向かって言った。私はお兄さんに「私!段入れてなんてひと言も言ってないんですよ!どう思います!?」と愚痴った。そう。あの時のパヤパヤ美容師には段は入れないでほしいと伝えた。なのに段入れやがってあのパヤパヤ女。二度と行くかあんなとこ。一生パヤパヤしてろ。さすがにパヤパヤ女のパヤパヤ具合は愚痴らなかった。お兄さんは段がなくなるように調整して切って、伸びると切りっぱなしボブになるようにしますと言った。まだ充分に伸びてない私の髪の「こんなの嫌だ!こうがいい!」という希望に近づけてくれた。お兄さんに調整してもらった髪は、変なハネ方もせず、伸びると切りっぱなしのおかっぱになっていった。私は東京でカラーも全てお願いできる美容院を探そうと思ってたけど、その行きつけが見つかるまでは、あのチェーン店でカットしてもらおうと思った。あのパヤパヤ女に染められた変な色も徐々に落ちてきていた。
そのチェーン店は予約制を取っていないが、休日は混んでいるので平日の会社帰りに寄った。私の都合とお兄さんのシフトがたまたま合っていたのか、大体お兄さんが店番をしていて、担当してもらった。「今日も前髪は短くしますか?」「ハネないようにしますね」と声をかけながら切ってもらい、終わって「大丈夫ですか?」と鏡を持ってきて後ろ髪を見せてもらうと「大丈夫です」と本当に満足してますと思いながら答えた。お店の自動ドアを開けて入ったら、ちょうどレジに立っていたお兄さんは私を見て「カットですか?」と言うこともあった。「はい」と答えた。
ある日お店に行ったら、お兄さんがいなかった。別の人に担当してもらった。「シフト変わったのかな」と思った。また行ったら、お兄さんはいなかった。「もしかして異動?チェーン店だし。それとも辞めちゃったのかな」と思った。別の人に担当してもらった。まだ行きつけの美容院は見つけられていないので、通った。やっぱりお兄さんはいなくて、別の人に担当してもらう。お兄さんに切ってもらった時の満足度には達しなかった。時にちんちくりんな髪型にされたこともあった。もういいよの意味で「大丈夫です」と答えていた。それから段々通わなくなり、今の床屋によく行くようになった。

栃木の実家近くの美容院でお兄さんのことを話した。「すごく上手に切ってくれてたけど、全然見かけなくなったから辞めちゃったのかなって思って」とカラーを入れてもらった髪を乾かしてもらっていた。「そういうチェーン店にいる上手い人ってね、独立するんすよね」と言われた。たしかにあのお兄さんだったら自分のお店を開いてもやっていけると思った。

あのお兄さんは私の我の強い「こうなりたい」を叶えてくれた。短すぎるとつむじやえりあしがハネてしまうけど、短い方が好きな私の髪のクセと好みをよくわかってくれてハネるギリギリのラインまで細かく見てくれた。見た目がチャラくてひと世代前のギャル男が第一印象だったけどチャラく話しかけてくることはなく、物腰が柔らかい話し方で「どうしたいか」を聞いてくれた。そして似合ってる方を強制することもなかった。私の髪質と似合うを調整しながら「こうなりたい」に近づけてくれた。
もうお兄さんを見なくなって3年近くになるし、お兄さんのいないチェーン店には行かなくなっても、お兄さんのことを思い出す。今通ってる床屋に行くときも思い出す。あのパヤパヤ女がいた美容院(近所)の前を通る時はあのパヤパヤ女を思い出してメンチを切り、その後お兄さんのことを思い出す。もしお兄さんが別の美容院で働いてたとしても、独立してお店を開いてたとしても、美容師とは全く別のことをしていたとしても、幸せで元気かなぁ、そうであってほしいなぁ、と、またこの時も思い出して床屋に行く。この床屋も月イチで通ってるので「長さどれくらいでしたっけ?」「前髪短くですよね?」と聞いてくれるようになったけど、あのお兄さんも私に聞いてくれたから思い出しながら、「はい」と答える。

床屋で髪を切ってもらってスッキリして、家に帰った。お昼ごはんを作って食べた。見よう見ようと思って見ていなかったシグナルを急に見たい見ようと思って、Amazonプライムで見た。全16話と韓国ドラマにしては回数が少なめだし、DVDを借りて途中まで見てたからすぐ完走できると予想してたら、ひとつひとつの話が濃くて長いので、1日じゃとても見終わらなかった。次の日に持ち越そうと思って祝日終了。次の日仕事に行って帰りに続きを見た。ごはんやお風呂の時間も含まれてるけど完走したのは深夜3時を過ぎていた。寝た。

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