腹をくくったときに飲んだお酒
昇進した。
でも、給与があがるのは5,000円だけ。部下がついて、責任が増えた。
嬉しい気持ちと不安な気持ちがどんぶらこどんぶらこと心の中で揺れていた。
早く上がって、行きつけのバーにオープン入りし、同じ苗字のバーテンに話した。
「でも、私で大丈夫かな」
バーテンは、ニコラシカを出してくれた。「覚悟を決める」とか「決心」という意味を持つお酒だという。
そうだ。私に足りないものはそれだ。
グラス上の砂糖がのったレモンがのってあり、味はもちろん、飲み方もわからなかった。
飲み方を教えてもらう。レモンを半分に折って口にほおばり、かみしめる。
甘酸っぱく甘い味わいが口いっぱいに広がった。そこに、ブランデーを流し込む。
26歳。大人だけど、なんか大人の階段を登った気がした。
全然知らない常連さんが来て、私を見て、なんでか同じものを頼んで、飲んだ。
何かが始まる様な、そんな雰囲気がうまれて、その日のお酒は美味しかった……と言いたいが、記憶にない。
きっとその日も酔いつぶれて、車にちゃんと置いておいた代行代が消えていたのでなんとか帰ったのだろう。
でも、ニコラシカを飲んだあの瞬間、あの味は、人生でお酒を飲んでいるときの中でもよく覚えている。
お酒をコミュニケーションの道具ではなく、自分を奮い立たせるために飲んだ初めての瞬間だった。
もうそれから10年以上たつ。次にニコラシカを飲むのはいつだろう。
私は、まだ、お酒と一緒に人生の岐路に立ってみたい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?