「愛してるから全部知りたい」の嘘#71
20代の頃、バーのカウンターで飲むのが好きだった。
となりにえらいかわいい女の子がいて、その隣に座った男子がいい感じにアプローチを始めた。
「でも私、5分に1回は好きって言われなきゃ無理なんです」
と言った瞬間、空気が変わった。
彼女の彼氏は父親位のおじさんらしい。年下の美人を囲う野心がありながら、こまめにケアができる余裕があるのも、それくらいの男性だよなと、多分口説いていた男性も、私も、バーテンも思ったと思う。
人は、ゆっくりと人との距離の取り方を学ぶ。私も小学生の頃は大いに友達に依存したし、大学生の頃できた彼氏にも依存しすぎて死ぬかと思った。
依存は、気持ちがいい。
自分が認められて、居場所があるように感じる。錯覚だけど。
そして、それがなくなったときは、心が割れるくらい傷ついてしまう。恋愛においては、ことさら。
私も、そういう事を繰り返してきて、適度な距離がいい人間関係を育むと思っている。
だからたまに「彼がSNSでこういう反応をいろんな女の子にしている、その意図をしりたい」なんて恋愛相談を受けると、そんな苦しいことをしないほうがいいのに、と思ってしまう。
現代社会で相手を見る時「想像」だけでは終わらないようになってきた。SNSで好きな人の頭の中や、動向まで覗ける。気になれる。
結果、距離感がさらにバグり、コミュニケーションのハードルを上げる。
「愛してるから全部知りたい」は毒にもなる。
そこには、裏切られたくない、自分だけを見てほしい、不安を消してほしいという気持ちがあるのもすごくわかる。
私にも、そういう気持ちがないわけではない。
でも、旦那にしろ、子どもにしろ、全部が見えてしまうとしんどいと思う部分もある。
自分以外は、結局他人だから、思い通りには動かない。
どこかに、ケチをつけたくなる。自分よりも他人を見ようとばかりすると、自分がおろそかになる。
結果、いいことはない。
恋人や結婚相手の裏切りがあって、有利に離婚したりわかれたりするための証拠集めなら、具体的なゴールに向かって粛々としていくといいと思う。
でも、全部知るのが愛だと思い込んで、それを正当化して相手に押し付けていたら、自分も、相手も息がしづらくなって、一緒にはいられなくなるのがほとんどだと思う。
ごくまれに、その求める波長があう人もいるかもしれないけど……。
「支配」という名の真綿の様な暴力は「好きだから全部知りたい」で正当化してしまいがちだ。
ドキッとした人は、少し、考えてみてほしい。
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