なぜクロノ・トリガーの世界はワクワクするの? 一級建築士が都市・建築を分析してみた
こんにちは!サブカル好きのヒカルによるサブカル×建築連載第二弾です!
(Amazonより引用 ©️スクウェア・エニックス)
今回はファミ通主催”平成のゲーム 最高の1本”で1位に選ばれた『クロノ・トリガー』の中から、ひときわ心惹かれる街「魔法王国ジール」を建築士目線で解剖してみよう。
時空を横断し、世界を救うドラマティックストーリー
『クロノ・トリガー』の概要を超要約して伝えるなら、
1.無口な主人公と街で出会った少女マールと幼馴染のルッカがなんやかんやで時空をぶっとび!
2.各時代で仲間を加えつつ、別時空の世界を救っていく、誰もが一度は夢見るザ・ベストオブ王道RPG。
3.「ヒューマンドラマか!」と思わず引き込まれる伏線や各キャラクターのストーリー
世界感良し、ゲームシステム良し、ストーリー良し。キャラデザはドラゴンボール作者でお馴染みの鳥山明氏、音楽は名作ゲームの作曲を担当し続けた光田康典氏。こんな布陣で伝説のゲームにならないはずがない。
ちなみに、私はどっぷりドラゴンボールマニアでマンガはもちろん、画集やフィギュア、カードも集めるほど鳥山明さんが好きなので、ドはまりだった。もしも願いが叶うなら、記憶を失って完全な初見でもう一度あのワクワクを楽しみたいくらい。
そんな『クロノ・トリガー』のワクワクの要素となっているのが、ゲームに登場する都市や建築だ。
そこで、今回は、古代の世界に現れる浮遊大陸の街「魔法王国ジール」を分析してみたい。
恵まれた環境の浮遊大陸には魔法を使える人間が、常に吹雪が舞う地上には魔法の使えない人間が住んでいる世界観。ゲームを体験した人なら浮遊する街を進む度に面白いなーと感じていたと思う。
ただ建築士からすれば、建築とは切っても切れない重力概念をぶち抜き、崖に建つ建築物なんて、もはやワクワクどころじゃなく、ガクブルするレベルのたまらない世界感なのだ!
そんな浮遊都市のルーツを、街の構成と建物の特徴の双方から、勝手に解剖考察していく。
街の構造に歴史と文化思想を勝手に感じてしまう
まずは、魔法王国ジールの全体的な都市ゾーニングについて。
この王国は、浮遊大陸の頂点に建ち、王族が住む「ジール宮殿」と、本島の西側に位置し、魔法の研究を行っている「魔法都市カジャール」、南東の小さな浮遊島に位置し、夢の研究を行っている「夢みる町エンハーサ」という3つの主要なエリアで構成されている。
本島の中央を絶えず流れ、下界に降り注ぐ水景、浮遊都市の全体の象徴にもなっている隆起した山が特徴的な世界観。ここに街や建築作るとなったら、建築士としては全力で望むしかないくらいのポテンシャルを持っている。そのパッと見の不思議感は、設計者としてのめり込んでしまうポイントだ。
(とはいえ、現実的に考えるとなぜ今にも落ちそうな崖近くにばかり街を作っているのか、そんな端に基礎・杭打ったら崩れちゃいそう、とかいらぬ心配をしてしまうけど、この点は一旦置いておこう。建物が成立してるのは、そう、きっと全て魔法のせい。)
続いて、崖の頂部に建つジール宮殿を詳細に見ていこう。
城郭都市の場合、重要施設は攻め込まれづらい高い位置に配置されることが多い。したがって、ジール宮殿のこの建物配置は割とセオリー通りという印象である。
ただ、特徴的なのが街の背景にある文化だ。
街にある王国内に登場する人物は「ラヴォス」という生命体を信仰しているとも取れる会話が多い。また、ジールは終盤にラヴォスへ通ずる「黒の夢」という要塞になって宙へ宙へと向かっていく。街の成立ちとしては、宗教的な文化背景が基盤にありそうだ。
そんなジールの街の配置構造を裏付ける歴史に、建築士として思い出すのが「メテオラ」だ。
メテオラは実在する空中都市で、「隠修士」と言われる人々が世俗との関わりを絶ち、少しでも神に近付くために崖の上に修道院を建築していった歴史を持つ。そんなメテオラにある信仰と都市が交差して生まれた街の空気をジールに感じるのは私だけだろうか。
街の構造に潜む歴史にこそ、建築・街を作り続けて来た人々の重みがあり、そこにグッときてしまうのが建築士としての性である。正直なところ、歴史文脈から外れた開発やロードサイドは綺麗に整えたとしても心に響くものがないのだ。
『クロノ・トリガー』には、メテオラみのあるジール以外にも、街と歴史を感じさせる世界がたくさん描かれている。つまり、『クロノ・トリガー』自体が歴史を横断して、ストーリーを通して様々な街を感じさせる体験になっているのかもしれない。一度そんな目線でプレイしてみるのも面白いのでは? というか、面白くないはずがない!
ここで一つ、豆知識だが、メテオラと並んで有名な空中都市「マチュピチュ」は、不思議なことに、宗教上高位の建物が低い位置に配置されていると言われている。メテオラやジールのように、信仰心が建物配置に直結するのではなく、標高の低いところの方が水が集まりやすいという実益に即して街が成り立っている、と一説では分析されている。
3D化してみるとかなりダイナミックな吹抜け構造だった
実は魔法王国ジールには内部空間にもぶっ飛びポイントがある。このダンジョンはスーパーファミコン時代の2Dマップなので、大多数の人は意識してないと思われるが、一度3次元的に考えてみてほしい。
そう、実はメインエリアは4層吹抜けで繋がっているダイナミックな吹抜け空間なのだ。開口の先も入れると、5層吹抜け。古代でこの建築技術は文句なしにすごい。
そこで、現代に生きる建築士としてどれだけダイナミックな空間であるか検証・確認するため、ダンジョンのスケールを合せ、簡易的なCGで立上げて検証してみた。
見てください、このスーパーファミコン感が溢れるダイナミック16BIT空間!(作り出したら止まらなくなり、夜な夜な作成しました)
ダイナミックな吹抜け空間やいくつもの階段によって、利用者の様子が見える空間となっているのは、建築士としては、実に誰もが目指したい楽しげな空間。階段が目立つのでペンローズの階段のような不思議感も髣髴とさせる。
傑作ゲームな上に建築的にもワクワクさせるダンジョンなんて……どんだけプレイヤーを楽しませてくれるんだよ!おい〜〜!と昂って、クリエイターの方にツッコまざるを得ないのが正直なところ。
ただここで、あえて現実目線でこの空間構成に切り込むとすると、ジールが日本だった場合、竪穴区画が大変なことになってしまう。建築基準法を遵守するとしたら、きっとシャッターレールが門のごとくガツンと出てくるのか、はたまた防火区画検証法を使ってどこまでシャッターなしでいけるのだろうか、と無粋なことは承知であるが、並行して冷静に分析してしまうのが建築士の性なのである。
また、意匠的な面でいうと、ジール内のダンジョンには壁や柱の装飾が多く見られる。
さすがに装飾様式を考察できるほどの解像度ではないが、都市計画編でピックアップした「メテオラ」は装飾が特徴とされているギリシャの古代建築物である。しかも、ジール内の4層吹抜けと似ている形として、明るく開放的に吹き抜けた空間を指す「アトリウム」という語源がギリシャにあったりもする。
都市構造にメテオラみがあったので、それに連動させて建築様式もギリシャ様式に寄せたのか!? 建築様式にもメテオラみを!? と、勝手に心が踊ってしまう。王国内の空間構成はギリシャの建築文化を感じられずにはいられないのだ。これも建築士としての性、なのかもしれない。
まとめ
今回は平成の名作ゲーム『クロノ・トリガー』の魔法王国ジールについて、都市構造視点と建築様式視点で解釈・考察した。
街づくり・都市計画の面にメテオラみを感じ、建築物にはギリシャみが感じられ、魔法王国ジールに仕込まれた建築文脈の深さを勝手に感じて、いつもの如くテンションが上がってしまった。
個人的に都市構造の魅力はなんといっても蓄積された「歴史」にあると思っている。『クロノ・トリガー』の世界に僕らがワクワクするのは、遺伝子レベルで刻まれた歴史に対して抱くロマンなのかもしれない。
ゲーム好きで『クロノ・トリガー』ファンの人は、今回のブログを一つのきっかけに実際に旅行してみると、想像以上の建築との出会いがあるかもしれない。もしかすると、ゲームオタクから建築オタクにクラスチェンジしてしまうきっかけになってしまうかも?(※クロノ・トリガーにクラスチェンジシステムはありません)
新たな令和傑作ゲーム内での目を引く建築のルーツを勝手に考えてみても、別の面白さがあるかもしれない。アニメ→ゲームと来たので、次回のサブカルネタは何なのか、建築的な対象はどこでどんな切り口になるのか、次回も引き続き、お楽しみに!
連載担当:ヒカル(千葉光 - Hikaru Chiba)
意匠設計部統括/一級建築士。東北大学大学院都市・建築学専攻修士課程修了後、(株)久米設計を経て、一級建築士事務所NoMaDoSを共同設立、取締役に就任。国内・海外の宿泊施設や商業施設、教育施設など多岐に渡るプロジェクトの担当経験を活かし、意匠設計に従事する。2019年4月より東北事務所管理建築士を務める。
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