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韓国のハンギョレ新聞『K-POP 原論』韓国語版を熱く書評.日本語訳

韓国の進歩的な新聞『한겨레』(ハンギョレ新聞)が、『K-POP原論』の韓国語版についてソ・ジョンミン記者の詳細な書評を掲載してくださいました。これはその日本語訳です。日本語訳で3621字です。

見出し:
地球型共有オペラ」K-POP...日本人言語学者が明らかに [本&思想]
韓国人と日本人の血を引く美術家出身の野間秀樹
10年間のK-POPのミュージックビデオを追求...存在・表現様式の総体的分析

ソ・ジョンミン(서정민)記者
(韓国語原文の修正 2024-10-12 15:09 登録 2024-10-11 05:00)

K-POP原論
ことば、音、光、身体性が融け合った21世紀型の総合芸術

野間秀樹著 ㅣ 連立書架 ㅣ 3万3000ウォン

(写真説明:グループIVEの"After LIKE"ミュージック・ビデオの一場面。YouTubeより)

全世界的にK-POPの全盛期である。関連する言説や書籍も溢れている。興味深い事実は、K-POP作品そのものを掘り下げるよりも、周辺の言説が大半を占めるという点だ。Kポップを取り巻く産業論、マーケティング論、メディア論、社会学理論…。有意義なものではあるが、周縁にばかり触れていると、中心への渇望が大きくなるというものだ。まさにその点で、野間秀樹の書『K-POP 원론』(K-POP原論)は特別で貴い。

シンプルで直接的なタイトルから異彩を放つ。「原論」の辞書的な定義は、根本となる理論、またはそのような理論を記述した本を指す。この本は、周辺的な言説ではなく、K-POP作品そのものの原流を凝視する。K-POPを、「狭い劇場を壊し、舞台と客席の境界もなくし、24時間地球上を劇場化し、時には手のひらの中の小さなデバイス(スマートフォン)まで劇場とした」「21世紀の地球型共有オペラ」に準(なぞら)え、「K-art」にまで拡張する。

K-POPの本を日本の言語学者が書いたというのも特異である。しかし、経歴を見ると首肯できる。1953年に福岡で生まれた野間秀樹は、18歳になって初めて母親が韓国出身であることを知った。東京教育大学で美術を学び、現代美術作家として活動した。大学入学と同時に韓国語を独学で学び始め、30歳で東京外国語大学朝鮮語学科に入学する。 その後、韓国語と言語学に没頭してきた。学生時代に(趣味で)ギタリストとしても活動していた彼は、2013年頃からK-POP、特にミュージックビデオに感嘆し、注目し始めた。K-POPを音楽だけでなく、言語学と美学まで包括した総体的な視点で分析するようになったのは、ある意味必然かもしれない。

では、彼はK-POPをどのように見たのであろうか。まず、「世界はなぜK-POPに熱狂するのか」という問いに答えんと、存在様式と表現様式の側面から分析した。存在様式で見ると、K-POPは単に耳で聞く音楽ではない。K-POPの真髄はミュージックビデオにある。これは「言語であるランゲージ(Language)、多様な音の形であるオーディオ(Audio)、視覚的な光の形であるビジュアル(Visual)が混然一体となり、互いに変容しながらインターネット上を瞬時に高速で飛び回る動態」である「LAVnet」(レブネット)時代の芸術である。かつて「ウォークマン」で音楽を聴いていた時代から、「ユーチューブ」でミュージックビデオを見る時代となり、K-POPは「21世紀型総合芸術」となった。一人で密かに楽しむ音楽から脱却し、世界中の人々と共有し、一緒に楽しむ音楽になった。ここには身体性(ダンス)の融合も欠かせない。

(写真説明:グループ防弾少年団(BTS)の「血と汗と涙」のミュージックビデオシーン。ユーチューブより)

K-POPのミュージックビデオを単なる音楽と呼ぶには幅が狭く、映画と呼ぶのも曖昧だ。これは詩でもあり、絵画でもあり、写真でもあり、ファッションでもある「何か」である。野間秀樹はこれを「Kアート」と命名する。Kはもともとコリア(Korea)から来たが、もはや韓国だけの専有物ではない。今やK-POPにはあらゆる国籍の人々や要素が入り混じっている。このような多元主義・多極主義がKアートの明らかな特徴だと本書は言う。

次は表現様式へと目を転じよう。K-POPは表現においても多元主義と多極主義の特徴を示す。音楽は最初から多国籍の作曲家によって多層的な音を積み重ねる「マルチトラック」で作られる。それを歌うグループメンバーも多様な「存在論的な声」に加え、多国籍による「マルチエスニック」な要素まで持つ。歌のことばも韓国語と英語が結合された複数言語が基本であり、日本語・中国語・スペイン語にまで拡張する。

(写真説明:グループBlackpinkの「トゥドゥトゥドゥドゥ」のミュージックビデオのシーン。ユーチューブより)

韓国語の歌詞に入ると、言語学的分析が光る。K-POPはアメリカで生まれたヒップホップ(ラップ)の影響を多く受けている。ところで韓国語はラップをする上でかなりの強みを持つ。まず、文字数と発音時の音節数が同じである。音符に照応させるに良い。さらに、前の音節の終声と次の音節の母音が出会うと(「終声の初声化」)、多彩な変化をもたらす。例えば、「花」[꼳][コッ]の後に母音が来ると、「花が」[コチ] [コッチ] [コシ]となる。子音が来れば'꽃도'[꼳또][コット]、'꽃만'[꼰만][コンマン]、'꽃하고'[꼬타고][コタゴ]、[꼳타고][コッタゴ]になったりする。このように多様な音の変化はラッパーたちに創造の天国の門を開いてくれる。BLACKPINKのジス(JISOO)はソロ曲‘꽃’[コッ]「花」で「花の香り[コテャンギ]だけを残して行った」と歌っている。また、声門閉鎖と喉頭の緊張を多用する特性は「見えない音符」となり、豊かな擬声語と間投詞(感嘆詞)は面白い味を生かしてくれる。世界人が韓国語を知らなくても、K-POPのことばの音感に魅了されるというのである。

野間秀樹は「K-POPは崩壊するのか」「K-POPが持続するためにはどうしなければならないのか」という問いまで突き進む。最近、一部のK-POPは、Kを外してただの「ポップ」に、K-アートはただの「アート」に変化しつつある。これは資本の戦略的な選択である。しかし、野間秀樹は主張する。「世界が最も切実に望んでいるのは、どこにでも存在する'ポップ'ではなく、まさに'Kポップ'であり'Kアート'である」と。K-POPが力を失わないためには、音楽であれ映像であれ絶えず変化し、増えすぎたグループメンバーの数を4~5人レベルに減らすべきだと提案する。 そうであってこそ、グループ全体と個々のメンバーのいずれをも生かすことができる。7人組の防弾少年団(BTS)の大成功は防弾少年団だからこそ可能だったのであって、誰もが彼らのようになることはできないと野間秀樹は強調する。

(絵の説明:中・近世の東アジアで文人画は花鳥風月を描いた。21世紀の文人画はK-POPを描く。野間秀樹がグループ(G)IDLEのソヨンを描いた絵。連立書架提供)

この本は、東京の韓国語本専門書店「チェッコリ」が企画した市民講座で野間秀樹がK-POPの講演をしたことから始まった。それをまとめた本が、2022年に日本で先に出た。今回の韓国語版は日本語版を翻訳したものではない。韓国語で書き直し、内容と規模を補強した。BTS、BLACKPINK、Stray Kids、aespa、NewJeansなど、数多くのグループの個別ミュージックビデオをつぶさに分析したくだりは膨大だ。本には、該当のYouTube映像につながるQRコードを随所に据えているのだが、日本語版で150個だったものが、韓国語版では400個以上に増えている。付録として添えた、状況別・好み別おすすめミュージックビデオ843編のリストは、素敵なK-POP案内書の役割を果たしている。

ソ・ジョンミン(서정민)記者

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