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Diarays「忘却日記」

白い靄に、一人。ステンドグラスが嵌めこまれたアンティーク調の扉がひっそり存在していた。黒い木製の存在感のある、浮いているように見えなくもない。他になにもないようだったので、その扉を開けてみることにした。古いもの特有のぎいいい、がっががと音が鳴った。
「すみません。」誰もいない暗闇の中に向かって、小さく挨拶をする。中はどうやら本屋さんのようであった。窓から入る僅かな光で並べられた本を見まわしてみる。気になった真っ黒な背表紙の本手に取ってみる。作者もタイトルも判読が難しそうな、というかできない本であった。バラバラと捲ってみて、あ、でも、中は読める、ぽい。そう思った。一人ぽつりと本と向かい合っていた。
「いらっしゃいませ。」
思わず、勢いよく声の方を向いた。顔の良く見えない男の人が奥に立っていた。レジ台のような場所にいた。店長、なのだろうか。何時から居たのか分からないが。なんにせよ、自分はある意味店主の許可もなく入った不法滞在である。血の気が引いて
「すみません、勝手に!すぐ、出ていき」
慌てて引っ込もうとした。が、男の人は無言で手をかざして、こちらを制止した。ゆっくり、くるっとひっくり返して「どうぞ」と勧めてくれた。顔は見えないのにそう見えて大丈夫と笑っているようであった。あの白い靄の中、どうしていいかわからず、しばらくお言葉に甘えさせてもらうことにした。そして、図々しく一つだけ訊いてみた。
「これ、なんて書いてあるのか、訊いていいですか?」
「『忘却日記』。」
その時の声はどこか、ぽつりさびしさうなというのが相応しかった。気がする。

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ちょっとした小噺にお付き合いいただき、ありがとうございます。
実際はメンバーの方2人いらして、販売されていました。上は正真正銘のフィクションストーリーです。
先日、Boothという通販で、この「忘却日記」を購入しました。今はこちらは販売停止しているようです。その時聞いて、なくなるのは嫌だなと思ってすぐに買いました。本のような造りのジャケットが印象的です。曲の数々は動画サイトで見る事ができます。ただ、入っている「物語のヒントになる見開き小説」はCD購入でないと見られないのに惹かれてしまいました。小説、というのに食いつきました。文章めっちゃ綺麗で、纏まってて読みやすかったです。人の文章は自分では得られない魅力がありますね。

この「忘却日記」の作者さんは、以前書いた「絶望接種」と同じ人の物です。ちなみに「忘却日記」のが先にリリースされてます。私が先に知ったのが「絶望接種」だったので、順番が逆転しています。正規に1から聞かれている方々は物語についてもっと詳しい、はずです。なので、そこはご容赦いただけると幸いです。
単一でも聴くことができますし、伏線があったりするので通しで聞いてもまた違うようです。それもまた一興と言えるかもしれません。

「メアの教育」は疾走感があって、美しいのに、どこかどろどろしていて不思議な曲です。登場人物たちのメアとナイトの奔走しているようです。でも、それが本意によるものかというとそうでもないような相反する気持ちの葛藤に思えます。ばらばら、でぐしゃぐしゃでそこから抜け出したけど、願いの為に逃げられないと感じました。

このメアの曲と対(?)になっているのが「ナイトの正夢」なのかなと思っています。この物語の始点がメアで、終点がナイトを思わされます。それがエンディングに繋がるような組み合わせなのだろうかと色々考えさせられる章でした。楽曲の順番はそのまま展開の正順なんだろうなという感覚があります。なにかもが計画通りだったのにたった一つだけの想定外で心の在り方が変化するのが判る曲なのもとても面白いです。「面白い」が適切な表現になるのか自分でももやもやしています。いい表現あったら誰か教えてください。

「忘却日記」を通して聴いて思ったのは、うまく言えないですが、大事な人に冀う、という気持ちが命懸けで詰め込まれているように思いました。一個一個、聴いてて「切ない」をしみじみ感じました。テンポの速い激しい曲も、ゆったりしている曲も美しかったです。ピアノのみのインストも素敵でした。
「ユマの失明」はお気に入りの一つであるはのですが、個人的な理由で複雑な想いです。小指の赤い糸が絶望的な喜劇に見えて、言葉を無くしてしまいました。漆黒と桎梏が同じ音で全く意味が違う方法は感動しました。桎梏の意味は「桎」は足かせ、「梏」は手かせで、手かせと足かせ。転じて、自由な行動を束縛すること。また、そのもの。つまり、錠のことを指していました。無知で、漢字の意味を聞き流していたのが悔やまれました。

楽器や声以外の音も使って音楽が出来上がってるのが不思議です。すごく切ない、かなしい。普通の「悲しい」だけじゃない、絶望接種とはまた違った愛な気がします。ある音を聴くと夏だなとも、また別の音を聴くと本が恋しくなったりします。

「忘却日記」の作品のいくつかには実写でご自身らでMV作られたのが複数あります。お話に合わせて撮影してあるので、観ているだけで小説を読んでいるみたいに思われるので不思議でした。

エンディングの「忘却日記」。ここから聴く前に、最初の音、何かを聞く前にぜひ予想してみて頂きたいです。答え合わせすると大変面白いです。これとは思いませんでした。また、これを歌唱しているのが複数なので、小合唱というか、アンサンブルみたいな構成になっているのもとても素敵でした。さあ、誰が誰としてキャストになっているんでしょうか。小説だとメロディーが背景で、歌詞は台詞になっているみたいに思います。

当時はと3人、Diaraysという名前で活動されていましたが、今はCharis Recordさんとして4人で活躍されています。全員揃ってMVにいるのは「8月0日」という作品になると思います。最後の創りがとても切ない、でも、凄いです。映像も素敵です。歌詞も夏らしい、でも淋しい、願いのようで叶えばいいのにと願わずにはいられませんでした。他にも「8月32日」や「4月44日」と素敵な曲もあります。それに関してはこちらに書いています。お時間がございましたら、どうぞ足を運んでいただければ幸いです。

そして、そして。話は変わりますが、人生で初めてボーカロイドの即売会に行きました。この忘却日記を作られたCharis Recordのスペースでもある「忘却書店」を訪れたかったからです。
何もかもが未知で新鮮でした。わからずに、あちこちときょろきょろとしてしました。一番最初の印象は「人、多い」でした。驚きに尽きました。勝手もわからないので、とにかく前の人に倣っていくしかできませんでした。なんとか、入れてよかったけど、外以上に中は人が多い、当然なのだけど、滅多にこんなに人を見る事そんなにないので圧倒されてしまいました。恐らく、これまで見聞録で行った先はここまで人が多くなかったので、過去最多かもしれません。でも通れないほどというわけでもなかったので、伊勢神宮よりは動きやすかった気がします。多分。
「忘却書店」さん、入口から近かったおかげで、かろうじて迷わなくて済みました。ちょっと、僅かに、多少、迷ったけどちゃんと付いたから無問題!無事、たどり着けました。よかった。残念ながら、既に絶望接種は完売御礼状態だったので、それ以外で気になっていたのを購入させて頂きました。
あと私はもうちょい地図読むのがんばろうな。

上の小噺は忘却日記と忘却書店(実地、通販含め)て併せて何かしたいなと思っていたので、今回何とか行けてよかったです。ちなみにこの「いらっしゃいませ」や下の小噺の黒い人のセリフはBoothで購入した時にいただいた発送メッセージをそのまま引用しています。

これはあくまで、私の聴いて、読んで、会って、想像した忘却日記の作り物のお話です。本家様とも、たくさんの方が聴かれてそれぞれが大切にしているその人だけの世界でもないです。ご自身が持たれている想像が一番です!

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「そろそろ、行かなくちゃ。」なぜだかそんな気がした。白い靄の中で行く当てもないはずなのにそう思った。
顔の見えない店長のような人は、扉を指さした。自分はその方向に自然と足を運んでいた。
「居させてもらって、ありがとうございました。」
お礼を言って外に出ようとした。
「またのお越しをお待ちしております。どうか、」
続きを聴こうと振り向いた瞬間、視界は真っ暗に覆われた。男の人の口は動いていた。何かを伝えようとしていた。

目を開けると見慣れた部屋に居た。夢、だったみたいだ。
「どうか…?」
あれは何だったのか、「誰」だったのか、思い出せない。あの先の言葉はなんだったのか、わからない。


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