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演技指導 監督はわずかなシーンにも気を抜かない

 山田洋次監督作品『たそがれ清兵衛』冒頭のシーンを思い出してもらいたい。そこには、塀に囲まれた母屋脇の小さい畑での農作業のシーンです。桶から柄杓ですくい、しもごえ(下肥)を畑にまいている。ちなみに広島弁では「こえたん」と言います。気がつかれたでしょうか。あの腰つきは、柄杓で水をまいているのではありません。比重がある液体の飛び散り方は水とは異なります。演技指導にいたみいります。下肥をまいた体験がありますので、あの腰つきがこの農作業には必要であることを実感しています。下肥は、わかりやすく言えば人糞です。各家の便所は汲み取り式で、そこに蓄えられる人糞は貴重な肥料でした。下水道や化学肥料の普及とともに汲み取り式便所は姿を消していきました。進駐してきた米軍のカメラマンにとって、都市の街並みの中を肥桶をリヤカーで運ぶ農夫の姿がよほど珍しかったようで、写真をたくさん残しています。
 監督はわずかなシーンにも気を抜かない。

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