新規就農に向けて思うこと
過去2回、新規就農に失敗しました。
1回目は兵庫県
大学在学中に友人親族が営む農園に弟子入りしました。行政を介さずに直接交渉して農作業に当たらせてもらっていました。しかし親方の急逝や人間関係のトラブル、加えて無給で働いていたために貯金残高の都合が悪くなり、活動継続が出来ませんでした。
2回目は滋賀県
農場でアルバイト勤務しながら経験を積み、友人と共に小さな農園を新設しようと日々模索しておりました。しかしバイトで生活を支えるには余暇がなく、議論して計画を立てる余裕がありませんでした。進捗がないとして計画を断念しました。
どの時も、好きなものに努力できることに肯定的な感情を持っていたし、出来る限りのことはやっていました。なぜ出来なかったのか考えると、原因はいくつもあったと思います。
①価値観の壁を乗り越えられるか
自分の考えだけが常識であると強く信じている農家もいます。保守志向が強く、異なる考えを受け入れることは難しいです。アメリカ留学を通して異文化交流と深く向き合った自分にとっては、農家の暗黙の了解は脅威的だと感じました。丁寧な言語化には細心の注意を払っています。
兵庫で農業を始めるにあたっては親方に弟子入りをお願いするところから始めました。親方にとっては、役に立つのかどうか分からない若者を迎え入れること自体が気を張るニューウェイブであります。僕としてもやったことのないことへの情熱を語るのは難しく、説得力のある話は出来ませんでした。また、当時の僕は働いたらお金は自動的にもらえるものだと思いこんでいました。しかし親方にその考えはないので当然話は噛み合いません。でも、そんなことで諦めるような弱い意志ではないんだぞというプライドが優ってしまい、無給でもいいから教えてほしいと表明しました。実際に働いて「コイツは払ってやるか」と思わせるような仕事をしようと意気込んでいましたが、親方はその前に亡くなってしまいました。諦められなくて、そのまま農作業だけ手伝わせてもらうような日々を過ごすことになります。コメを中心にいくつかの露地野菜に取り組みました。毎日が充実していて、農業は楽しいと実感できました。親方の奥様や家族とは友好な関係を取り戻しましたが、お金がないことにはどうにもなりませんから、これ以上は出来ないと判断しました。借金してプレハブ小屋を建てて住むという案もあったのですが、お金を借りるには難しい人間関係があり、その案は願い下げたのでした。
②利益を出す難しさ
今度は0から自分で創り上げる新規就農を目指すことになりました。大学時代からの友人が起業や経営に興味があると言っていたので共同創業を目指すことにしました。友人に経営を、僕が営農を担当すれば両者の強みを引き出せるという構造です。土地利用型農業は大きなお金を動かして比較的見通しやすい営農ができますが、労働集約型の農業は元手が少なくても始められる一方、手間も時間も桁違いにかかる割には儲けを出すハードルが高く、営農よりも営業に注力する必要がありました。これは農業がやりたい僕にとっては本末転倒でした。
計画を立てるにあたり、全てを想像して1から組み立てるのは実に骨が折れる作業でした。やってみなければ分からないことを事前に完璧に準備するのはほぼ不可能ではないか。不安や焦り、時間的制約が負担になっていて、行動を起こして乗り越えることが出来ませんでした。その友人の信用を失うことになりました。
転機はインスタグラムの広告に出てきた北海道での農業体験です。帯広市で長芋の収穫に参加し、農業に興味を持つ若者達と交流するというものでした。僕はこの時に北海道農業に感銘を受け、農業生産に全力を尽くす生き方を見つけました。
「次の舞台は北海道」と決め、米と野菜が作れる環境であることと、第三者継承をベースにした研修制度があることを条件に募集を探しました。第三者継承にこだわったのは、一流の農家になるための様々な条件について、親方を目標にすることでシンプルに追求したいと考えたからです。
そうして選んだ滝川では、何より仲間に恵まれました。心から尊敬できる親方とその家族に出会えたし、暗黙の了解に理解があって、僕がチームワークに入り込みやすいように接してくれました。近隣のみなさまとも農業をきっかけに楽しい時間を共有することも多いです。地域の草刈りにもいくし、イベント運営も手伝うし、お神輿も担ぐし、夏休みのラジオ体操にも出るし、消防団にも入りました。田舎臭いし元々そういう活動は好きではなかったのですが、それ以上に気軽に挨拶を交わせる人が増えて居心地がいいです。良かったと感じています。
滝川では同時期に同じ制度を利用して別農園で新規就農を目指す同僚がいましたが、辞職してしまいました。農業は自分自身に強い意志とそれを実現させる行動力、状況に応じて変化を起こす力が必要だと思います。サポート体制があるというのは責任の転嫁先があるということではありません。新規就農を目指す者には強い責任能力が求められると思います。
最近は作業が忙しく実務的なことで頭がいっぱいになってしまうことが多いですが、ちょっとしたきっかけがあって自分の人生を振り返ることになりました。この記事もその流れで書いてみたのでした。これからは日々の作業をもっと大事に、マクロ視点から現状のありがたさを実感しながら、頑張っていきます。順調にいけば2年後の令和8年に認定新規就農者として農家デビューします。親方や仲間と共に農業をやっていけたらなと思います。