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降幡愛 1st Live Tour APOLLO(大阪)感想-それは宇宙
それは、「宇宙」としか言いようがない音楽体験であった。
あの場所は、果たして現世だったのだろうか?少なくとも僕は、すべての音を聞き終わり、電車に乗り込むまでは、長い夢を見ていたような気分であった。
その日再び、音楽やライブはその意味を問いただされるような局面に立たされていた。宣言1日前の大阪は静かに思えた。ネオンサインも、店の灯りも消えた。きっと、人の心からも何かが消えたかもしれない。当然、ライブ参加を断念したファンも少なくないだろう。誰も何もかも正解などない。自分の行動を誇ってほしい。
不安に揺られ、ふわふわとした感情を胸に抱きながら、会場に到着した。既にたくさんのファンが入場待ちの列を作っていた。こう言う光景を見ると、「僕はライブに来たんだな」と改めて思えるから好きだ。この場所が好きだ。
ライブハウス自体が久しぶりである。入ってすぐ、もう何もかも溢れてしまった。
開演までの時間は、宇宙環境音のようなBGMが延々と流れていた。もはやおじさんしかわからないであろう、windows95あたりに搭載されていたスペースピンポールの音に近い。なかなかに悪くない子守唄が、僕を夢の世界に誘う。少し寝てしまった。
席は幸運なことに2列目を引き当てた。今年のライブはまだ数回しかないが、恵まれている。多少斜めからにはなるが、初めて、初めて彼女を見る機会としては、この上ないことである。
やがて会場は、ブラックホールのような闇に包まれる。MVにも登場した宇宙人たちが、コミカルな演技を繰り広げる映像が流れ出した。コスプレ的な衣装も含めて、少しズレてるような感覚も正直あるが、一周回って受け入れた。しかしながら、本間昭光、アポロ…と言うワードが2021年に再び並ぶのは、今更ながら狙っているとしか思えない(若い人わからないよねごめんね)。
記憶力は良くないから、今しがたツアーファイナルとなった配信ライブを見ながら追記していく。
開演前からレース越しにうっすら見えていたステージに、バンドメンバー、降幡愛さんらしき人物が登場した。光が当たり、それぞれのシルエットを映し出す。
1曲目、ライブ用の長尺イントロに変更された『AXIOM』が鳴り、カーテンが落ちる。ツアーフラッグを片手に、我々の希望と不安全てを受け止めた少女が現れた。149センチ、話には聞いていたが、想像以上に小柄だった。顔も信じられないくらい小さい。
降幡愛、降幡愛さんである。歌声を聞いた時、わかった。憧れのあの人に初めて会える瞬間は、いつも嬉しい。
ずっと、ずっと会いたかった。僕をシティポップの世界に招き入れた張本人。普段聞く音楽さえ少し変わってしまった。君は、僕の世界を塗り替えた。年明けからはラジオも聴き始めた。いつも楽しく音楽や、色んな話をしてくれる。話も上手いし、サブカルチャーへの知識も豊富である。出来れば友達になりたい。気づけば、その声の虜になってしまった。
今日は、会えて嬉しい。誰に何を言われても、僕は今日、君に会えたことが嬉しい。
僕の心は、ライブが始まっても相変わらずふわふわしていた。ずっと、ずっと浮いていた。でもそれは、不安ではなかった。
幸せな浮遊感だった。
何もかもを委ねられる無重力の世界が、そこにはあった。降幡愛が僕らに授けたのは、今この時から解き放たれ、音楽の悦びにこの身を預けられる幸せそのものだった。自由だった。
案の定、涙がこぼれ落ちる。いつも僕は簡単に泣いてしまうし、しばらくすれば泣き止む。しかし、振り返ってみれば、この日、ほぼ全ての曲で泣いていたような気がした。
あまりにも良い音だったから。それ以外に理由はなかった。80'sがコンセプトになっているのも大きな理由であるが、一曲一曲が、世紀の大名曲のように聞こえるのである。なんて贅沢な時間を、僕は今味わっているのだろうか?その贅沢に、幸せに、少しばかりの涙を添えざるを得ない。
楽曲自体の作り込みの深さ、再現性については以前記した。完璧であるし、それをライブでも全うできていた。
音源であっても十分良かったが、やはりバンドという生き物は恐ろしいと思った。ドラムは二十歳の女の子であった。小気味よく、いい意味で軽い打音が、ベテラン勢の重厚な土台に乗っていく。ミキティのコーラスがそれをメイクアップしていく。良い。ツアーファイナルとなった配信ライブでは、二胡奏者兼ヴァイオリニストのNAOTOがそこに新しい彩りを加えていく。無敵のバンドグルーヴに息を呑む。
これほどまでに良い音が、他にこの世にあるだろうか?という感情が沸き立つ。大袈裟ではない。
CD音源を軽々超えるほどのボーカル、演奏に感動が止まらない。そして、降幡愛さんはどこまでも小さくて可愛らしい。
降幡さんは想像してたより小さくてお顔も小さい。飯食ってるのか?と心配になるほど小柄。そんな身体のどこから出てくるのだろう?という疑問の連続のような素晴らしい歌声。曲が変わる度にスイッチが入った女優さんみたいな表情をするから恋したみたいに引き込まれる。オーラがすごい #LiveTourAPOLLO
— のこのこ🎧👏 (@noko_noko69) April 24, 2021
『ラブソングをかけて』のラストの歌いきり、僕は恋に落ちた。決して顔面のファンではない。声も音楽も好きである。しかし、自分でも思っていたよりも、僕は降幡愛さんのことが好きらしい。しかも2列目である。全てが見える。僕はこの日、自分の気持ちに改めて気づいたのである。
『パープルアイシャドウ』、紫の妖艶な照明が僕を誘惑する。もう止まらない。着席していたってわかる。この衝動に身を任せる。続いて『RUMIKO』、黄緑色のギターを抱えた降幡さんが見える。煌めくシンセが街を彩る。それは、この街から消えてしまった何かを埋めるように耀く。美しい。ここには夜があり、光がある。だから僕はライブが好きだ。
『桃源郷白書』、二胡の音も素晴らしいが、狐が交差するような振り付けも面白かった。ため息も溢れるほどの名曲の連打の後に、バラード『OUT OF BLUE』が光る。今持ってる全てを奪われるほど魅力的である。
そこから特殊イントロを交えながら、首都高を駆け抜ける『SIDE B』→『Yの悲劇』で物語を紡いでいく。一切の妥協を感じさせないほどフレキシブルな演奏が、会場のボルテージを上げていく。降幡愛は、その声色を使い分け、寸分の狂いもなくメロディと共存しながら、時にはシャウトをする余裕さえ見せつける。ヤダヤダポーズを現場でついに出来たことが嬉しい。君になら、全てを壊されても良い。もっと無茶苦茶に引き裂かれても良い。
無我夢中になっていると、MCでは、全く違う声を聞かせる。このギャップに毎回ドキドキする。降幡愛はロマンチックでドラマチックである。
Aqoursも含めて、場数を踏んでることを考慮しても、あまりにも上手すぎる。歌も、何もかも。ライブが生物であり、それをどう捌き提供すればいいかを把握している。だから煽られても違和感はないし、盛り上げ方も自然なのである。
楽しい時間はあっという間、ドラムが加速し、2度の配信ライブで何度も見てきたメンバー紹介→CITYの流れが現実に現れる。それぞれのメンバーに拍手を送る。極上のシンセが、僕を都会に誘う。ああやはりこの曲は降幡愛の代名詞であり、最強だと思う。メインボーカルミキティが美しく重なっていく。
MCを挟み、『うしろ髪引かれて』が桜の花びらを揺らしながら別れを告げる。本当に出す曲全部が嘘みたいに良い。
アンコール代わりの拍手を受けて、ウェディングベルが聞こえる中、彼女が再び現れる。新曲である。春も過ぎ、マリッジブルーの季節も超えた後のウエディングソング、そんな音がスッと入ってくる。本当に出す曲全部が良くて、ひとつも落としていない。今後もこのクオリティが続いていくであろう驚きと喜びを噛み締める。
満ち足りた気持ちをよそにして、季節は冬に戻る。『真冬のシアーマインド』、大好きな曲だ。
まだまだ肌寒い4月に、それは過ぎ去ってしまった空気を思い起こさせる。このキャッチーさには勝てない。たとえ声を出せなくても、降幡さんの「3.2.1」の後にクラップができることが嬉しい。来て良かった。何度もこのシーンを妄想してきた。今日僕は、君に会えた。その奇跡を一度だけと言わず、何度でも夢を見させてほしい。
すっかり楽しくなってしまった降幡さんは、ファンクラブ用の動画を撮ってしまう。バッチリ2列目の自分の顔が写ってしまう。今日はもう何だって良い。
ラスト、再び『AXIOM』が会場を極上の無重力に包む。
何も恐れることはない。僕らは自由であり、音楽が全てを抱きしめてくれる。何よりも音楽は信用できる。「邪魔はさせない 未来のためにビッグバンを起こそう」と彼女は歌う。それは、今この時代に何が起こっても音楽の邪魔はせないと言うメッセージであり、その証明が今日であることを物語る。今日本当にこの場所に来れて良かった。
全てが終わった余韻が僕を抱きしめる。会場近くのコンビニでビールを買い、1人で飲む。月が見える。何よりも綺麗に思えた。
また何度でも会いたい。素晴らしいライブが終わった直後、すぐに君に会いたくなる。あの音を浴びたくなる。
様々な迷いを抱えながら、それでも未来のためにライブ開催を選択し、僕をここまで導いてくれたことを嬉しく思う。ありがとう。
降幡愛さんがすげえことやってるのは音源でもライブでも証明済みで、後は気づくか否か、この音に落ちるか否かなんですよね。俺は全ての音楽人生をかけて、ここに最高の悦びがあると断言できるよ。さあおいで
— のこのこ🎧👏 (@noko_noko69) April 29, 2021
一体何人の人が、今後彼女の音楽の奥深さに気づくだろうか。宇宙規模の期待を込めながら、とりあえず僕は今日のアーカイブを見直そうと思う。
君と出会えたことは、きっと彗星と衝突するくらいの確率、奇跡的な運命であった。
ありがとう。また会いましょう。