石原夏織 2nd LIVE『MAKE SMILE』感想ー何度でも、喜びも戸惑いもすべて受け取りたいって思えるよ
2021年2月20日、石原夏織はパシフィコ横浜のステージに立った。これは、彼女と僕らの物語である。
まずは、石原夏織さんはもちろん、関わってくれた全てのスタッフの方々にお疲れ様を、そして感謝を。よくぞ開催し、無事に成功させてくれた。ありがとうございます。
おめでとう。本当におめでとう。ありがとう。心の底から嬉しかった。
では早速、伝説の夜となったライブのレポートと、その旅の記憶を振り返る。
あの海が見える場所を目指して
待ちわびたその日がやってきた。1日、1日、また1日と、意義ある生活を重ね、僕らはたどり着いた。もちろん、たどり着けない未来もあった。
しかし、そんな思考すら消え去るほど、楽しみにしてきた。
夜も明けぬ頃に目覚ましを止め、顔を洗い身だしなみを整える。当日の気温を考えて、2つのコーディネートを用意した。何ヶ月も前から何を着るか決めていた。彼女のテーマカラーである青のグラデーションで全身を固める。髪も切った。少し切りすぎたかもしれない。春の風が吹いた気がした。
電車に乗り込み、やがて夜が朝に変わる。日の出が川に反射する。それを見ながら、イヤホンで君の声を聞いた時、泣いてしまった。まだ何も始まってない。
ターミナル駅に着き、久々の新幹線に乗り込む。大好物のひつまぶし巻きを買った。
定刻、白い車体が光の速さで未来に向かっていくのがわかった。仲間たちが続々と向かってくるのを、タイムラインを見ながら確認した。ニヤニヤが止まらない。軽い不審者だったかもしれない。途中、富士山が綺麗なだけで泣きそうになる。すぐ泣く。
関東に1年ぶりに降り立った。電車を乗り換え、みなとみらい駅が見える。やばい。案内板が見える。やばい。
「パシフィコ横浜」
僕らは、その響きを聞くだけで、いくつもの風景や空気、音楽を想像することができる。初めて行ったのはもう何年前だろう?あれから、あまりにも膨大な時間が流れ、色んなことが変わってしまった。
「ライブがある」と言う事実だけでも嬉しい。だけどこの会場はちょっと違う。古いファンにとっては特に。今日、その過去と未来の上に、僕らは立っている。
案内板は続き、白い階段と外界に繋がる自動ドアが見える。午前9時の朝陽は、まばらな人影と、僕だけを照らす。今日は、神に祝福された日に違いない。
「ただいま」
「おかえり」
パシフィコ横浜は、優しく語りかけ、僕を抱きしめる。君は、ずっとここで待っていてくれたんだね。ありがとう。
遠くに感じた約束の日は、幸福の香りを纏いながら、最高気温17度の陽射しと共に降り注ぐ。
潮風を感じながら、サンドイッチを頬ばる。世界一美味いと思った。暖かい。いや、暑い。上着を脱ぐ。
知人たちが続々と到着する。マスク姿+最弱の顔面記憶力のせいで、誰だかわからないこともあった。話せば、声を聞けばすぐわかった。ほとんどが1年ぶりに会う人達である。何も言うまい。今日まで生き、数々の困難を乗り越えて、よくぞたどり着いてくれた。ありがとう。
ある人からはお土産に煎餅をいただき、またある人からは「かおり」と書かれたふりかけをいただき、ライブBDを手渡しする者まで現れた。個性の違うオタクたちが集まり、混ざり合い、一体全体何の話をしてるのかわからない…この感じ、この感じを待ちわびていた。君達は、最高の仲間である。
一方、ライブには参加できないが連絡をくれた者や、顔だけ出してくれた人もいる。それぞれの選択の中に、それぞれの想いがある。それを、僕は受け止めて、背負い、会場に運ぶ。それが出来れば、来れなかった皆とライブを見ることができる。人は、人に支えられているし、音楽を作るのは人である。
時差入場の関係もあり、会場に早めに足を踏み入れた。緊張感よりも、楽しみのが勝っている。何物にも音楽は、石原夏織は負けないのである。
会場BGMをshazamすると、タイトルや歌詞に「smile」と言う単語が入った名曲たちが並んだ。粋なことをしやがる。まだ始まってもないのに、既に始まっている。
昼は二階真ん中あたり、夜は一階前方のチケットを握った。昼公演開始前には、旧知のフォロワーが声をかけてくれた。少しだけ、距離を取りながら昔話をする。本当によかったねかおりちゃん…と何度も話しながら、もう泣けてくる。
消毒や確認は入念に行う。広めに取られた座席間隔が主張するのは、情勢の物々しさではなく、心の余裕に近い。パーソナルスペースは広い方がいい。このディスタンスなら、着席とは言え多動もできる。オペラグラスを調整し、水を置く。スマホの電源を切る。
一息つく。ここまでやり切り、たどり着いた自分を褒める。何もかも整った。
さあ、最高の舞台に臨もう。
セットリスト
-Prologueー
Face to Face
Water Front/夜とワンダーランド
-MC1ー
リトルシング
Crispy love
-Short Movieー”For Your Smile”前編
-MC2ー
フィービー・フィービー
ポペラ・ホリカ
You & I
-Short Movieー”For Your Smile”後編
-MC3ー
Taste of Marmalade
Diorama-Drama
キミしきる
雨模様リグレット/empathy -winter alone ver.-
-Dancer’s Anthem-
Ray Rule
Against.
TEMPEST
-MC4ー
SUMMER DROP
<ENCORE>
-MC5ー
Plastic Smile
Page Flip
-Epilogueー
衣装詳細
こちらは、タグを辿っていたら偶然見つけたもの。愛がなければ描けないデフォルメ具合、忠実に再現されたディテール…公式レポが出る前に、翌日インスタ投稿されたものをまとめている。この書き込みはすごい。単純に感動したので、色んな人に知ってもらいたくて貼りました。(引用許可取得済)
ライブレポート
-Prologueー
※以下、昼公演及び夜公演の感想を混ぜながら進行します。記憶力曖昧です。
モニターに東京駅が映し出され、客席に向かって映像の中の石原夏織さんが駆け出す。
「おまたせ〜!待った?」そんな声が聞こえてくる。
「全然待ってないよ。俺も、今来た所だから。」。開演4時間前に着いた男は、笑顔で返した。
映像の中、彼女は新潟に向かう。新幹線の中でニコニコしている。かわいい。その姿は、今朝の自分と重なった。目的があり、未来に向かって歩き出した今朝と同じである。きっと、この場所にいる誰もが、今日を楽しみにして、積み重ね、歩いてきた。関東に住む人間も、遠方から来た人も…泣くのが早いもうダメだ。
彼女は、僕らに、最高の旅行をプレゼンしてくれるらしい。
「いつもみなさんの笑顔に支えられてるから、今日は、みなさんの笑顔を作れるような旅行を提案したい。リードするのではなく、一緒に手を繋ぎながら歩んでいくようなアーティストになりたい」
そういう旨を語っていたと思う。こちらこそだよ全く。
胸いっぱいの光量を浴びて、会いたかったその人は、姿を現した。ターコイズブルーを基調とするスカートに、ピンクの花が咲き誇る。まだ少しだけの不安を残した空気に、そっと息を吹きかけるような天使の微笑みが炸裂し、パシフィコ横浜は楽園と化した。
向こう側にいるはずだった君が、同じ空間に現れ、同じ空気を吸う。この瞬間が好きだ。だからライブが好きだ。この感覚はリアルだけのもの。
誰よりも輝いて見える。たったひとつの太陽、希望。どの会場で見てもキラキラしているが、今日は一段と綺麗に、少し大人になった君を見る。久しぶりだね。ああ、本当に久しぶりである。
1.Face to Face
イントロが、祝祭の為のファンファーレに聞こえた。皆が一斉にサイリウムを振る。ああ、僕らは帰ってきた。
会いたくて 会いたくて
この思い 止められない
そのままの キミでいい
はじまりを待ってるから
まなざしの その先を
いつだって 見逃さない
Face to Face そう キミだけなんだ
今日の為に書き下ろされたような素敵な歌詞である。僕は、感動のあまり身体を動かせずにいた。この曲がある限り、僕らは何度でも、待ち侘びた“その瞬間”に向かって歩き出せる。いつだって、Face to Faceは、大切な人に会えた日の喜びを祝福してくれる。
思えば、Face to Faceツアーで最後に披露されたのはこの曲だった。そこから、長い地続きを歩み、未来は繋がった。ここからまた始める為の歌。一曲目、これ以外には考えられず、全てが想像した景色のはずなのに、それを超えてくる。
そう、今日は2021年2月20日。ずっと続いてきた物語のある1ページ。そして始まりの日である。
2.夜とワンダーランド(夜)
再会の喜びがまだずっとリフレインしている中で、スイッチを切り替えるように、石原夏織は石原夏織を刻みつける。夜が、この会場を支配していく。
ああ、これはロックだ。オケであってもロックだ。気づけば、僕はヘドバンを繰り返していた。止まらない。約1年ぶりのライブ、1年ぶりの生のヘドバン。こんなに気持ちよかったかな?久々の感覚に胸が躍り、首が千切れそうだ。後日「めちゃくちゃ首振ってて笑いました」と後方のオタクから指摘があった。いつも、あなたの視界の邪魔で申し訳ない。
※Water Front(昼)
なめらかな繋ぎと言うよりかは、まさに滝壺に急降下するような展開…と言った方が正しい気がする。昼夜共に、2曲目が担う役割は、ライブモードへのスイッチ切り替えである。切なさが胸を締め付ける。想像を超えて、どんどん君は大人になっていく。実質リード曲と言っても過言ではないそのクオリティを、あえて昼公演のみで披露した選択に拍手を送りたい。
と言うのも、今回こそは本当にベストなセットリストが予想できなかったのである。「ライブを見られるだけで十分」という気持ちもあった。ファンである僕が考えたセトリは23曲程度であった。切り捨てられる曲があまりに少なかった。
Water Dropリリース後、特にキラーチューンが増え続けている状況である。その上で、多くのスタッフたちが熟考し、組み上げたセトリに目を通せば、様々な工夫や覚悟が見えてくる。シングルに固執せず、これまでのライブのリアクションを参考にして選曲しているのもわかる。結果、虹のソルフェージュや、Blooming Flowerを歌わなかったとしても、十分完成するライブであった。
石原夏織の1番近くにいるスタッフたちが、彼女の最大の理解者であることを、今日も痛感した。
MCでは、久々のライブへの喜びと、少しの不安を語っていた。いつも正直な子だと思う。声が出せない中、彼女も、そして僕たちも試行錯誤を続けた。コミュニケーションとは、キャッチボールである。言語を使って、投げ返せないのが悔しい。
この時、僕は彼女と同じように、喜び、そして少しの違和感を感じていた。少なくとも昼の時は。
と言うのも、久々のリアルライブにまだ身体が慣れていない気がした。いや、体は動くし、メガネも変えたからよく見えるし、耳もよく聞こえる。でも、何かが違う。言葉にできない…例えば第六感のようなもの。とにかく、まだ僕は、音楽と石原夏織さんを100%の感受性で受け取り、整理することが出来ずにいた。
ここまで読んだ人は理解できると思うが、あまりに愛が重すぎるのである。そのせいで苦しい。久々に帰って来れて、嬉しいのに悔しい。あんなに楽しみにして予習も普段から怠ってないのに。この感覚には、途中まで苦しめられた。
3.リトルシング
チアガール風の衣装をまとったダンサーズと石原夏織さんのコンビネーションが決め手となり、とても楽しい時間を過ごした。以前、内田真礼さんのライブで見たことあるポイ(意識高い系サイリウムみたいなやつで、クルクル回すと文字が出るやばいやつ)が大活躍する楽曲でもある。ポニーキャニオンの意思が受け継がれ、石原夏織が、それを自分のものにする瞬間を見た。演出としても新鮮、楽曲との親和性も高いと感じた。
落ちサビ、ポイ4本が四角形(タブレット?鏡?窓枠?)を作り出し、彼女が指先で未来を描く。文字は“SMILE”。最高だぜ。
4.Crispy Love
かわいい。はい、かわいい大勝利!!4列目は神、マジ無理!かわいすぎわろた!!かわいいいい!!!!!
Short Movieー”For Your Smile”前編
OPムービーからの続き、石原夏織が提案する冬旅行…擬似デートを楽しめるニヤニヤ企画である。ただの銀世界を、まるで子犬のように駆け回り、はしゃぐ姿を眺める。卓球もボウリングもしよう。君とならなんでもできる。何をしても可愛い。何をしても愛おしい。
足湯に入ったのは前編だったか後編だったか…いつかオタクが言った「温泉の映像とか見たい(軽率の極み)」を拾い上げ、可能な範囲で実現させている。素晴らしい。
5.フィービーフィービー
楽しい。楽しいことしか覚えていない。
欧米コメディドラマの元気系ヒロインを彷彿とさせる赤白チェックのトップスとリボン、目の覚めるような黄色いスカートが映える。春一番と言っても過言ではない今日の天候にもぴったりである。
正直、振り付け楽曲と言うのが苦手なのだが、珍しく付き合いたくなってしまうくらいには、今日の僕はどうかしていた。着席である分、制限の中でどう楽しむかを模索していたのかもしれない。世は常に、やれることをやるしかない。着席鑑賞+声出し禁止であるからこその楽しみに、やっと身体が慣れてきた。
6.ポペラ・ホリカ
7. You & I
楽しい曲が続く。楽しいことしか覚えていない。君のおかげで今日が好き。
皆の笑顔が増幅され、世界に伝播する。止まらない。僕は、KAORIバンドのドラマーなんじゃないかってくらいの動きで音楽を楽しんだ。
石原夏織さんやスタッフ、僕らを含めて、何の不安もなく会場にたどり着いた人はおそらくいない。目に見えない何かに睨みつけられるような感覚を拭えない。それに対抗できる手段があるとしたら、それは、世界の誰より「楽しむこと」に他ならない。僕は、このゾーンに来て、改めて今日の勝利を確信した。
Short Movieー”For Your Smile”後編
最後の、みんなの幸せと健康を願いながらランタン飛ばす所が好き。
どの辺りのMCだったか、これが最高だった。芸人石原夏織は最強なのである。
8. Taste of Marmalade
髪を上げ、妖艶な紫の衣装で登場。まず、鍛え抜かれたその脚、ボディラインに目を奪われてしまうのは、男女共に仕方のないことである。
Face to Faceツアーではミラボール+スタンドマイクであった演出が、着席+絡みつくダンサーに変化している。冷静な眼差しで椅子に腰掛け、時に足を組み替えながら、情熱的な恋心を歌い上げる。サビ終わり、そんな彼女の前を、するりと華麗にスライディングしてくるダンサーが素晴らしい。甘美な芸術がここにある。
9. Diorama-Drama
石原夏織のダンスゾーンを、赤や青のサイリウムだけで彩る時代が終わったことは前述の流れからも明白である。とは言え、まさかここまで化けるとは、おそらく誰も予想しなかった(原曲も十分に良い)。椅子に座ったまま(記憶では途中まで)、現実と虚構を行き交うようなデジタルな映像や文字がモニターに映る。それをバックにして、踊り子を従える女帝のような眼差しで、彼女は観客を魅了する。
その姿には、R&Bやヒップホップに傾倒した時代の安室奈美恵を彷彿とさせるものを感じた。ムチでも持っていたら完璧、やりすぎである。とにかく、彼女のダンスチューンに新しい価値観が付与された瞬間を目撃した。良い…
10.キミしきる
紫の誘惑に飲み込まれた後に訪れる静寂に、観客全員が息を呑む瞬間である。
歌入りの直前、後ろを向きながら、さりげなく、スカートのギミックを操作する彼女の姿を捉えた。瞬く間にロングスカートに切り替わるそれを見て、僕は感動した。「えっ何その仕掛け!?2wayなの?えっっっt」
ダンスナンバーから、バラードへの切り替え、普段ならお色直しが必要な場面にもなり得る。今回、それをスカートのギミックによって乗り切ると言う手法を見せたシーン。衣装の作りとしても、曲展開としても、非常に面白い。
星座を思わせる黄緑色のライト、無数の星たちが、彼女の足元を照らす。モニターには、形にならない心の行方を模索する歌詞が並ぶ。
ああ、なんてロマンティックなシーンを、僕たちは目にしているのだろうか。思わず目を閉じて聞いてしまう部分もあった。歌が本当に上手くなったと思う。声、この声と繋がっていたい。この声が僕は好きだ。
11. empathy-winter alone ver.-
メッセージ性も含めて、今回披露されるのは当然の選曲ではあるがwinter aloneバージョンが選抜されるとは思わなかった。
離れてたってきっと
どこでもずっと一緒に
同じこの空を見てるよ
-逢えなくたってもっと
励ましあったほんとうの
意味を 確かめていたいよ
今日と言う日がまだ遠かったあの頃、独りで寒空を眺めながら、何度もその日が来ることを願った。離れいても響き合う。寂しさを超えてその先を目指した。勘違いなんかじゃない。君と共に、前を向いて歩いてきた。
涙を堪えきれない。歌詞が、切なくて優しいメロディが身体中を包み込む。そして、なんと言う美しい歌声…僕は目を閉じた。今、君の声と繋がっている。
ここは、2021年2月20日のパシフィコ横浜。
間違いなく、目の前に石原夏織さんがいることを再確認した。
※雨模様リグレット(昼)
活動を続け、楽曲が増えていく中で、奇跡的に一度も干されない名曲である。その理由は、雨という題材に対して、表現や演出をいくつも変えることができるからではないだろうか?そして、太陽が降り注ぐために雨が必要であり、その先に虹を見たいからではないだろうか?
sunny spotでは、天から降り注ぐ細長いレーザー光を使い雨を表現していたし、FtFでは窓枠を思わせる背景に破線状に、どこか寂しくも激しく降る雨が印象的であった。そして今回、キミしきるで床に星座を映し出した要領をそのままに、水たまり、その波紋が映し出される表現が採用された。石原夏織と雨、今後もその関係から目を離せない。
-Dancer’s Anthem-
4人のダンサーそれぞれの為に書き下ろされたBGMを背景に、四者四様のダンスが繰り広げられた。繋ぎと言うよりかは、メインアクトのひとつとして捉えられるほど熱かった。
12.Ray Rule
1番、1番良かった。
気高き騎士のようでありながら、女性の華やかさを生かしたトップス+黒のショートパンツ(上からシースルースカート)で登場。かっこいいね。
イントロが鳴り響き、再び、雲間から太陽が覗く時間がやってきた。その閃光が、個々の心に反射し、空は明るさを取り戻す。
石原夏織×天才VJ:Routes氏が作り上げるアートのお披露目タイムである。
ライブの度にダンスと映像のシンクロ率や、そのクオリティを上げてきたチームではあるが、今回さらにネクストレベルに到達した印象を受ける。
階段を登った先、メインモニターと重なる位置からダンスが始まる。手の動きに反応し、波や風を描く様な映像が映る。おそらく、少しでもどちらかがズレたら台無しになる。ごく自然に、寸分の狂いもなく踊り、歌う彼女も常軌を逸している。美しい。
まさに、彼女が背負ってきた光のルールそのもの、そこから滲み出るオーラを具現化した映像と言えよう。石原夏織は、石原夏織という才能を背負い、受け止め、努力し、今日もこの場所に立つ。そんなストーリーさえ透けて見える。
最高のダンスミュージックに敬意を表して、僕が取るべき最善のアクションは、その場に立ち尽くし、目の前で繰り広げられるアートと音を逃さないことである。集中力を切らさない。何も見逃したくない。
モニターに映し出された素晴らしい映像は、BD化されてしまえば、必ずフレームアウトするし、全身の彼女を常に目に焼き付けられるのはこの瞬間だけである。もはや、これを見に来ている…と言っても過言ではない。予想の遥か上を行くパフォーマンスに、開いた口が塞がらない。
13.Against.
間髪入れず、彗星の如く飛来したイントロが、ステージを赤と青に二分する。
運命を引き裂かれたあの場所に旗を立て、戦い続けることを宣言する。何も語らずとも伝わる。その激情を、覚悟を歌謡ロックに込める。
僕は、まだ身動きを取れない。集中して見ていたい。ずっとその場所に立ち、君の覚悟と勇姿を見つめていたい。もう君は、あの日の文脈で語られる人ではない。石原夏織は、たった1人の石原夏織なのである。
14.TEMPEST
「目を覚ませ」、彼女がそう叫んだ時、ステージに火柱が吹き荒れる。赤と黒の刺々しい映像が映し出される。
それは、何かに向けられた憎悪なんかじゃない。行く先を照らすための明かりに、僕にはそう見えた。炎の演出自体は、以前からの本人の希望でもあった。こういう所、こういう所が僕は好きなのである。何気なく放り投げたセリフを、ちゃんと拾い上げながら叶えていく。そんな積み重ねが、今日の大舞台に繋がっている。
15.SUMMER DROP
1番楽しい曲だった。常夏の島にやってきたような気分で、目の前が明るくなった。MVの雰囲気を汲み取った様な映像もナイスである。
きっと 待ち焦がれてたの
これが運命って 思えるような瞬間をずっと
待ち焦がれた日にたどり着き、それが今まさに過ぎようとしている。少しの悲しみが顔を覗かせる。仕方ない。楽しい時間はあっという間に終わってしまう。
いや、終わらない。続いていくのである。
季節外れのサマーソングだと思うだろうか?僕は、違うと思う。信頼できる仲間も、同じ様な解釈をしていた。
つまりこれは、今年の夏に向けた希望の歌なんだと思う。普段通りじゃなくて、うまくいかないことばかりの2020年夏を照らしてくれた名盤『Water Drop』は、さらにその先の未来を、次の夏を照らすのである。
今年こそは、もっともっと楽しむ。
終わりを告げるアウトロが、どこか嬉しそうに鳴り響くのが聞こえた。
〈ENCORE〉
鳴り止まない拍手を受けて、再び、太陽はステージを照らすために戻ってきてくれた。事前告知通りNewシングルが出ること、今回のライブが映像化されることを伝えてくれた。
そして、何より嬉しいのは、3つめのお知らせ:公式ファンクラブ『hand in hand』の設立であった。ファンクラブと言うのは、簡単に作れる物ではない。ある一定のファンがいなければ収益を見込めないし、いつ終わってもいいような活動には必要のない組織である。
再三になるが、石原夏織ソロ活動が開始された時、その活動が継続される保障はどこにもなかった。もう2度と会えないかもしれない…そんな不安から、初めてシングルを積んだことを僕は忘れない。その後も、色んなことが決まっても、「いつ終わるかわからない」と言う不安は拭えなかった。
しかし、今は違う。目の前にたくさんのファンがいて、その活動の継続を信じ、支える覚悟がある。彼女にしても、腰を据えて続けていく意思を、改めて刻みつけるためのライブでもあった。
ファンクラブができる。たったそれだけのことが、こんなにも嬉しい。ペールピンクがテーマカラーになっているのもいい。石原夏織=青は、過去の話になりつつあるのかもしれない。
あの日、一輪だけ残されてしまった青い花に、もう2度と会えないかもしれない…とまで考えた日を思い出す。
気づいた時、君は、太陽だった。太陽は、太陽はいつも見上げれば空にある。これからも、君と共に生きられること、こうして会えることを嬉しく思う。
16.Plastic Smile
幸せな思いで胸がいっぱいになり、息ができない。苦しい、苦しいよかおりちゃん。そんな切なさと喜びを内包する様な音が聞こえた。
新曲である。しかし、初めて聞く曲…とは思えない。ずっと前から知ってたようなメロディ、展開である。人懐っこいくせに、何かに遠慮して隠れてしまう。キラキラしながら、ひたむきに頑張りながら、空回りし、転んでしまう…それを素直に打ち明け、皆を元気付けるために笑い飛ばす。
わかった。この曲は、石原夏織そのものである。何も飾らず、限りなく素に近い。石原夏織そのものである。Face to Faceもまた、彼女の人間性を主張した代表曲であるが、リリース当初は少し格好良すぎる気がした。Blooming Flowerの純粋さには彼女の良さを感じるが、まだ幼かった。しかし、この曲は違う。
ここまでの過程を経て、成長した彼女にぴったり似合うような気がした。完璧にオーダーメイドされた新品の服ではない。いつの日か手放してしまった、押し入れの中に眠っていたジャケットに袖を通したら、悪くなかったような感覚に近い。この感じ、この感じを求めていた。
何気ない振りして 笑いながら
本当はね すごく戸惑ってる
「ありのままの自分のままでいい」
なんて思えずにいたから
まだ少し冷たい風に揺れていた頃、僕も君も戸惑っていた気がする。「ありのままでいい」…そんな風に歌う人を見ながら、全然そんな風に思えなかったから。昔のことばかり思い出す。
そんなAメロを受けて、大袈裟なストリングスアレンジを施されたBメロがやって来た。言葉ではもう言い表せない。J-POPの王道をまっすぐに歩く様なライン、大好きなメロディの起伏とアレンジに思わず涙する。初めて聞く曲とは思えない。あまりにもこの曲は、石原夏織すぎる。
君に出会って初めて知った気持ち
今はまだ うまく言えないけど
傷ついていることにさえ 気づけずにいた
自分でも少しずつ変わっていけるから
ダメ押しのように加速するサビが、再び涙を誘う。なんだろうこのメロディは?好きだ。メロディが人だとしたら、君と結婚したい。
普段から色んなことが好きな浮気者だから、何を言っても信じてもらえないだろう。だけど今、1番、石原夏織が僕は好きなのである。こんなにも、人を好きになったことがあっただろうか?初めての気持ちを教えてくれて、ありがとう。
まだまだ、僕らも、彼女も良い方向に変わっていける。ファンも増える。関わる人も増える。何も疑い用のないくらいに、今日、この場所で起きた出来事はポジティブの塊である。
17.Page Flip
「最後の曲です」と言うセリフに被って、美しいピアノの旋律が聞こえる。
喜びも戸惑いもほら全部
すべて受け取りたいって思えるよ
それは、今の状況も、今日のライブも、過去も未来も含めた場所に向けられたメッセージだと感じた。今、バラバラだったピースが全て揃い、パズルが完成する音が頭の中で聞こえた。
ライブが始まってからの時間を振り返る。久々のライブに戸惑う心、楽しみたい心…その狭間を揺れたことを思い出す。彼女は、その喜びも戸惑いも受け取るのである。強い。強い人である。
序盤、まだ何か追いつかず、少し気後れしたことを恥じ、後悔した。それは、きっと彼女自身も抱えていた気持ちである。しかし、彼女はそれさえも見抜き、そんな僕や自分自身を肯定した。それが嬉しくて、何度目かわからない涙が頬を伝う。
不揃いでぎこちなくても良いらしい。少し折り曲がっても良いらしい。ありのままを、ここにいるひとりひとりが描く。来れなかった人も描く。たくさん描いて、ページをめくる。繰り返す。繰り返す。
グローリー1人じゃいらない
作り上げたいな大きくなった1ページを
一緒に描き足せばまたいつの日か
その話 開きながら笑おうよ
ストーリー1人じゃもったいない
たくさんのセカイ並べ繋ぎ1ページに
めくって真っ白だった未来の予定は
キミと試行錯誤しよう
喜びも戸惑いもほら全部
すべて受け取りたいって思えるよ
みんなの手で作るストーリー。今、僕にはハッキリと見えた。
この栄光は、1人で受け取るにはあまりに大きすぎる。だから戸惑う。だから共に分け合う仲間がいてほしい。それは、隣に目線を向ければ見える君たち、ひとりひとりなのである。
これからも、きっと何かが元通りになっても、失った時間もあれば、得られた時間もあり、未来はわからない。
だけど今わかった。喜びも戸惑いもほら全部、
すべて受け取りたいって思う。何度でも、君と言う太陽に会える限り、石原夏織と僕らの物語は続くのである。
帰路
楽しい時間はいつもあっという間に終わる。取り戻すことはできない。
最後の音が鳴り止んだ時、祭りが終わった。
ここが、ひとつのゴールであると確信すると同時に、かつてないほどの満足感で胸がいっぱいになった。
パシフィコ横浜は、海沿いの道を歩いて帰るのがいい。人も少ないし、ロマンティックである。1人で観覧車なんて見つめて、何が楽しいのか。普段ならそんな気分だろう。だけど今日は違う。
まっすぐにホテルに帰り、余韻に浸ってニヤニヤした。真空パックしておきたいほど幸せな夜。
朝起きて、太陽がまた登る。君が近くにいることがわかる。幸せ。
思わず、もう一度パシフィコ横浜に足を運んでしまう。今日は、私立恵比寿中学のライブがあるらしい。今日もまた、たくさんの人達の意思を、この会場は受け止めるのである。あまりに、あまりに尊いパシフィコ横浜ちゃん。
その足で桜木町に戻り、清々しい気持ちで横浜グルメに舌鼓を打ち、新幹線の中でブログを書き始めた。その時、初めて俯瞰して昨日のことを認識できた。淀みない水面に、大粒の涙が落ちた。
いつの夜だったか、オタクと話したことを覚えている。
「いつか、いつか石原夏織がソロでパシフィコ横浜に立てばいいのに。いや、無理だけど」
オタクはいつもながら否定的に、しかし希望的観測に耐えうる目線で話した。僕も、そんな日が来ればいいと思ったが、正直幻想だと思った。それは、夢と呼ぶにはあまりに無謀で、無邪気で、妄想でしかなかった。少なくともあの頃は。
未来は1秒先で キミのスタートを待つよ
心に決めたら その瞬間に始まってる
高鳴る心の奥で
きっと咲き誇るんだって
決めて キミも歩き出したんでしょう
歩き出したその季節を思い返す。
願えば叶うなんて無責任なことは言わない。だけど、確かにそれは叶った。信じてきて、ファンでいて良かった。心の底からそう思った。
あの頃の自分に伝えたい。
「石原夏織は、パシフィコ横浜に立つんだぜ?ソロで立つんだよ?本当だよ信じてくれ」って。
改めて、おめでとう。石原夏織さん、あなたはたどり着いた。
電車が、最寄駅に着く。いつもと同じ景色が、少しだけ違う景色に見えた。
次はどんな夢を叶えよう?次はどんなストーリーを描こう?なんだって良い。明日、起きたら何をする?来週、来月何をする?計画しよう。叶えよう。そんでもって、また僕と会って欲しい。いつもの仲間も、まだ見ぬ仲間も。そして石原夏織さんと会おう。
喜びも戸惑いもほら全部、すべて受け取りたい。今、そう思えるから。
物語は続く。
2021年2月20日、石原夏織はパシフィコ横浜のステージに立った。これは、彼女と僕らの物語である。
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