夢帰行9
遙の病院
病院の玄関前に待機していたタクシーにそのまま二人で乗り込んだ。
横浜駅まで行き、郊外の最寄り駅まで電車に15分ほど乗り、最寄駅からまたタクシーで遙の入院している病院へ向かった。
「これから遙と清美に会うのか」
姉が病院に来てからずっと考えていた。
清美と何を話せばいいのだろうか。
遙は自分のことを覚えているだろうか。
言葉が出てくる自信がなかった。
渋滞の名所である交差点を右折し、右手に国立病院が見えてきた。
相変わらず建物が古くて、物寂しい雰囲気がある病院だ。
病院の玄関前でタクシーを降り、大きなガラス扉の前で見上げていた。
病院の中は広く、余裕のある造りをしているが、昼間でも薄暗く静かだ。
仁志が入院していた病院とは明らかに違う。
「この病院から元気になって退院する人はいるのだろうか」
幸江と共に正面玄関から入り、受付で面会の許可を得ると、まっすぐ突き抜けて別館の小児病棟へ向かった。
この病院に来たのは1年ぶりだ。
面倒臭いと思いながら付いて来たものの、思わぬ重病の宣告に色を失くしたのが2年前。
その半年後に離婚したため、見舞いには来ていたが、1年前からは足が遠のいていた。
午前の診察はすでに終わって、廊下の人通りはほとんどなかった。
たまにすれ違う人は看護婦か、検査技師など病院関係者たちばかりだ。
この病院の別館は、母子健康管理棟という、重度の小児病患者だけが入院している病棟だ。
ほとんどが幼児なので、母親なども同じ部屋で寝泊まりできるように、ほぼ全部が個室か二人部屋になっている。
病棟の二階に上がると、エレベーターの真正面にナースセンターがある。
ナースセンターの左右に廊下が広がり、廊下の左右に病室が並んでいる。
右側の廊下を行くと扉があり、その先は特別に許可を得た人しか入れないようになっていた。
遙の病室は、その扉の奥である。
姉の幸江がナースセンターへ歩み寄り、家族であることを告げた。
受け付けたナースが何処かへ連絡し、奥のナースと話し合っている。
しばらく待つように指示され、受付前で待っていると、右側の廊下の扉が開き、誰かが出てきた。
全身白い割烹着のようなものを着て、頭にも白いガーゼのような帽子をかぶり、ほとんど目しか見えない大きなマスクをしていた。
出て来た時は、ナースかと思ったが、見覚えのある細い目元と小さな身体つきで清美だと分かった。
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