見出し画像

昭和奇譚「化石の森の散撃」



そこは、”化石の森”と呼ばれていた。石原慎太郎の同名小説とは全く関係のない、それより6年ほど前の散撃の話・・。

 太古の昔、武蔵野台地や多摩丘陵は海だったらしい。

東京郊外の、そのわたㇲらが住む地域では、ベッドタウン化による宅地開発が進められ、あちらこちらで山林が切り開かれ、太古の人間活動の痕跡が数々発見されていた。

「すげーの見っけたぞー!!」離れ離れ4機停めてあるうちの1機のブルドーザーの陰から、悪ガキ仲間4人を引き連れてきているリーダー格の声が響いた。

皆が駆け寄ってみると、20センチほどの土塊にくっきり貝の形をした化石があった。ハマグリくらいの大きさだったが、ハマグリかどうかは判らない。なんせ、太古の遺骸、絶滅した貝も沢山あるのだろうから。

 化石の森は、丘陵地にあるわたㇲらの住宅から2キロほど下った所にあった。広大な広さの山林の伐採が学校の校庭ほど進み、ブルドーザーが造成中の場所・・そこで、貝の化石が大量に見つかったのだ。わたㇲらの住む地帯は赤黄色土と言われている赤土のような色だが、このあたりの土は灰色の粘土土になっていた。

化石は、ブルドーザーが土を削りまくっているため、殆どが欠片しか見つからないが、欠けてない、まんまの化石も発見することもできたのだ。それを、造成作業休みの日に出かけて行って、わたㇲら基準の”良いもの”を、まだごろごろしている大小の土の塊を手に取ったり、削りあとを見たりして”宝探し”をする・・

そこをわ、たㇲらは「化石の森」と名付けたのだ。

「これで8コ目だぜー!」と、ブルトーザーのキャタピラの上に大事そうに置いた。リーダー格のフジサンは採取した”お宝”を菓子箱に入れ仕舞っているらしい。

そんな”お宝”が大量に発見されているのに、大人たちの関心は薄かった。専門家の調査が入った気配もない。わたㇲの父親は、海の底だったからというより、大量すぎるので貝のゴミ捨て場だったのではないかと言っていたので、価値は低かったのかも知れない。それでも化石は化石だ。だいいち貝殻となった形のようなものは、知る限りまったく見つかっていなかった。

 皆、それぞれ散ってまた発掘作業を続けだした。時々伐採してない森の方から散弾銃の銃声が聞こえたが気にもならなかった。

”お宝さがし”に飽きたひとりはブルトーザーに乗り遊んでいる。わたㇲも破損していないシジミほどの大きさが3つ連なってるやつを見つけた。「そろそろ帰ろーかぁ」とリーダー格の声がして、造成地の中央に停めてあるブルドーザーに集合し、ゲットした化石をキャタピラの上に並べていると、ブルドーザーのブレードに「キンッ」と、何か当たる音がした。

なんだろうと全員動きを止めたが、すぐにまた今度は脇の土が「ビシッ」とはねる音。運転席にも当たる音がして森から誰かが何かを撃ってきてると気づいたわたㇲが「森から!」と叫ぶとリーダー格が「隠れろ!」と皆をブルドーザーのケツにまとめた。

もう数回ブルトーザーのあちこちに当たる音がして・・止んだ。

ブルトーザーの前方は100メートルほど離れた森を向いている。

暫くじっとしてから音がしなくなったのを確認し、それぞれブルトーザーづたいに様子を見にでた時、「ダーーーン!」と森の奥から散弾銃の銃声がした。

散弾銃の音は、珍しくない。わたㇲら地域の森や雑木林で時々聞こえ慣れていた。

が、誰かが何かをこちらに撃ってきていたので、皆思わずとっさに身をかがめた。かがんでブレードの下の地面を見た時、「あれッ!?・・・」わたㇲは小さな鉛の塊を見つけ拾ってみると、前にいたリーダー格のフジサンが「空気銃の玉だ!」

潰れてはいるが前方後円墳のような形をしていた。わたㇲはそれまで空気銃もそのペレットという弾も見た事は無かった。

狙い撃ちされたのは間違いない。

「そうだよ!・・クラスのやつが、ここへ化石を採りにきた時も空気銃の弾が飛んできたって・・・!」とリーダー格フジサンがハッと気づいたように言った。

「アタマのイカレタオッサンか、オレ達くらいかもうちょい上のやつが、親のを家から持ち出してオモシロがって撃ったのかな!?」そう言いながらわたㇲは、初めて目にする空気銃の弾をポケットに仕舞った。

いずれにしろ、人の方に向かって撃つようなアタマのヘンなヤツが、空気銃を撃ってきたのだ!

キャタピラの上の採取した化石が打ち砕かれてバラバラになっていた。
「帰ろう!」
そう言ってわたㇲはポケットのぺレスを投げ捨てた。

それから・・そこへ来ることはなくなったが、宅地化の造成は進み、化石の森は消滅した。


***


 狂人の発砲だったのかどうかは知る由もないが、事件にもなっていないようだったし、私ら皆、幸い・・・(かどうか)一人もケガも負わなくて良かったと思う。

  わたㇲらの住んでいた地域では、土偶や深鉢の欠片も其処らじゅうで見つかっていて、珍しくなかった。つなぎ合わせたのが小中学校でガラスケースに入れて陳列あったりもした。

土器の欠片を拾い集め、ジグソーパズルのように、つなぎ合わせて鉢を復元してみる・・というのが私らの間でちょっとしたブームになったが、誰一人集め切れず、子供や素人では無理な工作だった。

石器はさすがに見つけることは無かったが、いつだったか兄貴が、ナイフ型の石器を何処からか拾ってきて、私はそれを宝物にしていた。しかし、今思うに石器なんて貴重なもの、手先が器用な兄が創ったまがい物だったのかも知れない。

銃声もそうだが、狩猟していいはずない地域なのに、カブト採りで地面に散弾銃の薬莢が転がっている事もよくあった。

いいなと思ったら応援しよう!