
実用的な使われ方のルール|語用論-2
※この記事は7月31日に発売した書籍「凡人専用 英語攻略マニュアル」の一部です。期間限定で定期的 (3日に1回くらい) に本書の一部内容を公開していきます。
▽全編は下記 Kindleページから
2-2-1. What's wrong
“What’s wrong?” という表現が有ります。
直訳的には「何が間違ってる/何がおかしい?」と訳せますが、ネイティブはこの表現を「どうしたの?大丈夫?」という「相手を気遣う、労わる」表現になります。
このフレーズの場合、直訳と意訳にそこまでギャップが無いと思いますので、多くの人はすんなり納得して理解できると思います。
しかしこれとは別に、
“What’s wrong with you?”
という表現もあります。直訳的に従えると「あなたに関して何が間違ってる?」
ですが、
what’s wrong?が相手を気遣う表現で、それに with youが付いているだけなので、「あなたは大丈夫ですか?」的な、さらに丁寧な気遣い表現だと推測するのは理論的に筋が通っているでしょう。
しかしこの表現は「あんたどうかしてんの?」という相手の言動を疑う/非難する表現なんです。
ここで文法マニアが「それは間違ってる!」と叫んでも、意味がないんです。
ネイティブが日常でそういう意味合い・機能で使っているなら、それが正解なんです。
英語の正しい、正しくないは多数決で決まることもあるんです。
2-2-2. Can you open the window?
“Can you open the window?”
は直訳だと「あなたは窓を開けることができますか?」と訳せれますが、意訳は「窓開けてくれませんか?」になります。
人にお願いごとをする「依頼」の機能を持った表現として使われます。
「自分には手もあるし足もある。窓の所まで歩いて行って、窓を開ける能力が自分には備わっている」
と考えて、
「自分には窓を開ける能力が備わっている」という意味で「はい、できます」と答えて、そのまま椅子に座ったままでいると、相手は戸惑うでしょう。
「『Can you~?』は『~してもらえますか?』という『依頼の機能』を持って使われる事がある」という知識を知らないと、意思疎通に失敗してしまいます。
このような直訳と意訳・機能の差は、日常会話でも多く発生します。
2-2-3. How are you?
例えば英語がまったく分からない人でも「How are you?」というフレーズは知ってる人が多いと思います。「元気ですか?」という意味合いで使われる挨拶表現だと知っているでしょう。
このフレーズも直訳だと「あなたはどうですか?」という意味です。
日本で出会い頭、人にいきなり「君はどうですか?」と言われると、「え、何がですか?」と思われるでしょう。
でも英語では「あなたはどうですか?」は挨拶表現である、という共通認識があります。これは英語が不思議な言語だからではありません。日本語も一緒です。
例えば「こんにちは」という表現は「こんにち (今日) は、元気ですか?」という挨拶表現が省略されて「こんにちは」になっています。英語に訳すと「 Today (今日は)」となります。
英語圏で、出会い頭で人に「今日!」と言うと、言われた人は「え?今日がどうしましたか?」と思われるでしょう。でも日本語では「こんにちは (Today)」を挨拶として使う、という共通認識があります。
このような作法は言語によってたくさんあります。フランス語で「元気ですか?」は「ca va?」と言い、この英語訳は「It goes?」です。日本語訳は「(それ)行ってる?」です。スペイン語で「調子どうよ?」は「Que tal?」と言い、この英語訳は「What such?」です。日本語訳は「何がそんな?」です。
2-2-4. Are you visiting?
英語圏に旅行してみると、
「知ってる単語で構成されている文で、一語一句聴き取れたけど、何を意図してるのか分からない」
という状況に遭遇する事があります。例えばレストランのウェイター/ウェイトレスに
「Are you visiting?」
と尋ねられたりします。
直訳では「あなたは訪問してますか?」になりますが、意図は「この街は旅行か何かで短期的に訪れてるんですか?」という意味合いになります。「旅行者ですか?」という事を確認する機能を持った表現となりますが、それを知らないと「え?何を訪問してるか訊いてるんだ?」と考えちゃいます。
アメリカに引っ越した私の知人が、「スーパーやカフェの店員、電車でたまたま居合わせてた人にいきなり『Are you expecting?』と言われることがあり、意味が分からない」と言っていました。
このフレーズの直訳は「予期してるんですか?」になりますが、意図は「出産予定なんですか?」という意味合いで、妊婦さんに対して使われます。男性が言われる事は無いでしょうが、このフレーズの機能を知識としてしらないと「え?何を予期してるって?」と思うかもしれません。
2-2-5. Yes, I can.
Can you join our Zoom meeting at 10 am tomorrow?
(午前10時頃、ズーム会議に参加してくれない?)
オンライン英会話学校で働いていた時、上記の先生からの依頼に対して、
Yes. I can.
Yes. I understand.
Yes. I can join.
という返答をしている生徒さんを多く見ました。これは、学校の教科書的には正解の解答です。間違いではありません。しかし「ネイティブも実生活でそう言ってるのか」というと、恐らくその確率は低く、下記のような返答をする場合が多いと思います。
OK. (了解)
Sure. (勿論)
Alright. (分かりました)
OK. I will. Thank you. (はい。そうします。ありがとうございます)
No problem. Thank you for informing. (大丈夫です。ご報告ありがとう)
このように「間違ってないけど、もっと自然な選択肢がある」という状況も多くあります。他の例をあげると、ビジネスシーンにおいて、日本人的にはメールの最後に
「よろしくお願いします」
というメッセージを添えてメール文を締めたいと思います。しかし英語ではこれに相当する表現はありません。
英語は構造上、日本語に比べて直球で具体性を持った内容を表現しないと、文の内容が不明瞭になる傾向があります。
なので、「よろしくお願いしたい内容」は通例メールの本文で既に記載しているので、メールの最後にもう一度、よろしくお願いしたい内容を省略してただ「よろしくお願いします」だけを言ったりする作法はありません。
英語では
お返事を楽しみにしてます。 I look forward to hearing from you.
ありがとうございます。 Thank you.
誠意を込めて。 sincerely,
敬具、よろしく。 Best regards
などの意味合いを持った表現文章で締める作法があります。こういった作法は人に教えてもらったり、映画やドラマなどを見て自分で知っていく必要があります。
続きは次回。。