オーバープリントの話になると墨ノセや自動墨ノセ、トラッピング、白のオーバープリントがでてくる、版ずれの話になると分版やリッチブラック、リッチブラックというとインキ総量や自動墨ノセがからんできて、またオーバープリントの話をしないといけない、という感じで、印刷の話はとかくダブりがちです。これをできるだけ一筆書きですっきり説明できないかな、と思っていろいろ考えていたのですが、「黒」をテーマにしたら、それを扇の要のようにしてまとめられる、ということに気づきました。からめない話題もありますが、重要なポイントはひとまず通れそうです。
2024年の10月に改訂版↓がでます。この記事は、改訂版の宣伝を兼ねた一連のツイートのまとめです。
黒と濃度
いろいろな黒
こういう一覧、好きだろうなーと思ってつくってみたもの。つかみです。
CMYKの場合は、K:100%でいったん黒になります。それに他のインキを追加しても黒になるので、いろんなバリエーションが生まれることになりました。さらに自動墨ノセを回避するための黒や、トンボのための色(CMYKでは結果的に黒になる)などもあり、黒の使い分けは印刷では必須項目です。
カラーモード変換の影響
カラーモードを変換すると、その色を出すために使うインキの構成や、カラー値が変わります。よくあるQRコードの4色割れも、「印刷だからCMYKにしないと」と思って、真面目に変換した結果、起きてるんじゃないかなあと(この場合、グレスケか2値に変換するといいです)。RGB入稿のときはしょうがないと思います。
黒の濃さの違い
リッチブラック
リッチブラックを使うとき、版ずれとインキ総量の問題はついてまわります。版ずれのリスクを冒してまでやる意味あるかな、ということを考えて、使うかどうか決めたらいいかも。印刷所によっては、使っているKインキ自体がそもそも濃いことがあり、そういう場合はあまり意味がないこともあります。名前がかっこいいのでなんか使いたくなりますが、必要なければ使わなくてもいいです。
リッチブラックのメリット
リッチブラックのデメリット
デメリットは、ずれるところと、乾きにくいところです。
少しでも見分けやすくするために
カラー値(網点%)100%とそれ以外
網点化
CMYKで使うインキそのものは、濃い色をしています。淡い色を表現するときは点々に変換して、周囲の紙の色(たいていは白系)と混ざって見えるようにしています。そのため、100%以外は点々になる、ということをまず頭に入れておくといいです。
点々になるとどうなるかというと、輪郭がひとつづきにならないので、100%よりはぼやっとします。点々に変換されること自体は悪いことじゃないんですが、サイズが小さいと、少ない数の点々でかたちを表現することになるので、文字が読みづらくなったり、描いてあるものがなんだかわかりにくくなったりします。墨ベタだったら読めていたものが、グレーにしたために読めなくなった、ということもあるかもしれません。
なので、読めないといけないものや鮮明に見せたいものは、点々にならない100%で指定したほうがいいです。そうすると、黒かシアンかマゼンタ(イエローは紙地とのコントラストの関係から無理)、または特色インキの100%の色、ということになります。
文字を黒にしたくない、という気持ち、めちゃくちゃよくわかるんですが、印刷のしくみと現実的なコストを考えると、黒にするのが最適解なんですよね。ある意味そのために用意されてるKインキなので。
そもそもなんで黒にしたくないか考えてみると、紙の色とのコントラストが強いのでうるさすぎる感じがするとか(視認性的にはこれも最適解)、みんなそうなのでそれ以外がいい(黒にするのが合理的だからこそ起きる現象)、色みがないのがなんかいや(無彩色だからこそ、何色と組み合わせてもおさまるメリットはありますが)、というのがあるんじゃないかなという気がしました。わたしも黒だと気が乗らないとき、グローバルカラーで好きな色で作業して、最終的に墨ベタに変えてます。
特色の濃度
適切な解像度への影響
レジストレーションは黒ではない
Illustratorを使い始めてまもないころは、[レジストレーション]スウォッチが何のためにあるのかわからなかったです。[トンボ]スウォッチ、みたいな名称だと、黒とは違うもの、というのがわかったかもしれないですが。
「registration」は「位置合わせ」みたいな意味があり、このスウォッチを設定したオブジェクトは、すべての版に描画されます。すべての版に描画されるからこそ、位置合わせに使えるというわけです。ちなみに、「版ずれ」は「misregistration」です。
すべての版に描画されるということは、100%にするともれなく4色ベタになり、インキ総量の上限を越します。これがトンボ以外に使っちゃだめな理由です。
[紙色]スウォッチはこのとき↓めちゃくちゃ便利でした。
黒とオーバープリント
黒とオーバープリントについては、墨ベタをオーバープリントにする「墨ノセ」、印刷所で墨ベタをオーバープリントに変更する「自動墨ノセ」、デフォルトでオーバープリントになるInDesignの[黒]スウォッチ、透明分割と自動墨ノセの合わせ技で起きる問題など、使わないと決め込んでいても、目を光らせておかないといけない事柄がたくさんあります。
黒をオーバープリントにするメリット
トラッピング
印刷の精度がどれだけ高くても、境界の重なりがないと、紙の白地はどこかにでちゃうと思います。黒を色文字で抜いているなら、色文字側を太らせておけば黒側が確実に刈り取ってくれるので、トラップつくっておいたほうがきれいに見えるかなと。あと、ずれてもなんかかっこいいです。
黒+透明分割+自動墨ノセの罠
透明分割と自動墨ノセをセットで考えたほうがいいのは、自動墨ノセするところは印刷通販が多く、印刷通販の多くはPDF/X-1a(透明分割する)での入稿を求められるからです。PDF/X-4で自動墨ノセしないところに入稿できれば気にしなくて済むんですが。わたしも商業誌をやるときはあまり気にしてないですが、印刷通販で同人誌をつくるときは頭を切り替えてます。
透明分割については、この記事でいろいろ実験してみてます。実際に手元のデータで実験してみるのが、しくみを理解する早道だと思います。
白のオーバープリントを破棄
これで救済されるのは、「オーバープリントに設定されていた黒のオブジェクトを使い回しで白抜きに変更して、PDFで書き出したとき」のような場面に限られる気がします。入稿前に一度は、オーバープリントプレビューで確認するくせをつけたほうがいいと思います。
常時オーバープリントプレビューで作業できたらいいんですが、Illustratorの場合、微妙に重くなったり、見えなくなるラインがあったりで、つけっぱにしづらいんですよね…。
「白のオーバープリント」を「透明」の代わりに使うのも危険です。白のオーバープリントはそもそもデータに含めないのがベストです。
黒と不透明度
CMYKのカラー値と不透明度、どちらも単位が「%」なので、慣れないうちはごっちゃになっているかもしれないです。Photoshopだとレイヤーの不透明度で色を調整することもよくやるので、その流れでやっちゃうこともあるかもしれない。
わかってるひとから見たら、なんでこんなことするの?と疑問に思えると思うんですが、よくわかってないときはそんなもんです。藁にもすがる気持ちでなんとかできそうな方法を探しちゃうので。わたしも改訂作業しながら、わざわざこんなことする? あー、やるわ、という一連の流れを思い出しました。
黒でつくる入稿データ
特色印刷やリソグラフ印刷、活版印刷、箔押しなどは、黒1色で入稿データをつくることが多いと思います。最もシンプルな方法なので、黒1色でインキの濃度をコントロールできれば、印刷原稿のつくりかたはほぼマスターできてるといっていいと思います。
黒と色み
実際の色は、『色の大事典』で見ることができます。
これは自分の経験から実験してみて気づいたことなんですが、CMYのうち余ってるスロットではなく、Kインキを使ったほうが、彩度を落とさずに色を落ち着かせることができるようです。ようは、濁色にせず清色状態をキープするということなんだと思いますが。
その他いろいろ
黒と白スジ
Photoshopのグラデーション
Photoshopのグラデーションの仕様が変わったことは知っていたんですが、実際にこういう影響が出てくるというのは、改訂作業していてはじめて気づきました。[滑らかに]や[知覚的]は、いったん別のカラースペースに飛ばしてそこで混ぜて、また戻ってくる、みたいなことになってるんでしょうか。