石灰
グランドの白線は、確か石灰だったよな。
貝殻の粉とかと同じで、カルシウムだな。
あの、風で巻き上がって吸い込んでしまった時の、独特の粉っぽさ。
カルシウムって事だから、骨も同じ味るすのかもな。
結局、なんか粉っぽい白い粉は、全て骨だな骨。
連想ゲームみたいな、いつもの思考ルーレットを回して、根拠のない納得の答えを導き出す。
肌の色は違くても、血は赤く、骨は白い。
なんだかそれっぽい事言って、悟ってるみたいな風を装っても、まだ終わらない、蛇足がつく。
赤白で紅白なんだから、めでたい!赤と白混ぜるとピンクだしな、なんだかんだで、happyだろ!
いや、いや、そんな話をしようとしたのでは無いのだが、楽しいから書いてしまった。
私は、まあまあの肉体労働キャリアで、とにかく体を使って働いてきた。それでも腕を高く上げて仕事とする事は、無かったので、肩は硬くなり、腕は上がらなくなって来ていた。
思い返せば、小さい時から、緊張して肩をすくめ、部活では、拳を握りしめて肩に力入れて走っていた。その当時から肩は動きが悪かったし、バレーとかアタックできなかった。だから余計に、球技は苦手だったし、さらに余計に肩は硬くなっていった。
最近では、四十肩だか五十肩だか、と言われる症状も度々である。そんななか昨年、仕事中に、腰が痛くなり動けなくなった、ギックリ腰か、明日針にでも行かないとと、算段していると、今度は、膝が、肩が、肘がと次々に痛くなってしまった。
全身の関節が、激痛。仕事になんないねと、ぐだぐだ過ごしてなんとか帰宅した。おかしな事もあるもんだと、何気なく体温を測ってみると。38度7分程ある。これが流行りのコロナか、全身ギックリ腰とか、聞いた事ないとは思っていた。
幸い熱は翌日には、微熱となり、順調に治まった。一つ変わっとこと言えば、全身鬱血して、紫人間になった、なんか死体みたいな色になった。顔は、ならなかったけど、あとは紫芋みたいになってしまった。ゾンビ化か。
まあ、もとより仕事ばかりしている奴隷で、いい子ぶって経営に理解を示し部下には、さも知った様に仕事の厳しさをとく。仕事はマネージメントしているが、給料や待遇はマネージメントされている。
唯一の自慢が、給料以上の貢献が、出来るって事。それを誇りに思っていたし、皆からも頼られていた。部下は、さぞ私の給料が良いのだろうと思っていた様で、仕事が出来る様になると、皆、待遇改善を求めて経営陣と揉めた。その都度、私の給料を知り、絶望して去っていった。
経営者にはとてもコスパのいいAI搭載ゾンビで、今回めでたく見た目も相応しくパッケージのリニューアルとなった。ちなみに、コロナで業績も悪化して、今では、ほぼワンオペだ。自慢する部下、同僚もいなくなり、3倍働いてやっと1人分の給料をもらっている。
こんな事を、見越していたのか、あなたには何か楽しみが必要だ、仕事以外の楽しみを持たないといけない。と、嫁さんに言われ、2人でできる様にと熱心にフラダンスを、勧められた。
ダンスは最も苦手なものの一つ。一番苦手なやつだ。リズム感悪いし、フリも覚えられないし。
まあ、しかし何故か、不思議とやることになった。しかし腕は真っ直ぐ上がらないし、回転するとフラフラするし、体の関節という関節が固い。ロボットみたいで、踊るには程遠い。
それでも、職場以外の場所が出来て、それはそれで楽しい。徐々に関節は動く様になって来ていた。そして今回のゾンビになった。
ムラサキゾンビは、1ヶ月ほどで治った。
しかし肩だけは相変わらず痛い。
夜中に、釘を刺された様に痛みが走る。針やマッサージにも行ったが、なかなか治らない。仕方なく病院に行った。レントゲンをとると肩に白い塊が出来ていた。それが何時からあるのか判らないが、石灰化というらしい。
拳を握りしめて、寝れば歯軋りで歯が欠ける私には、なって当然に感じた。石灰化のメカニズムは解明されていないそうだが、自分を押し殺し肩肘張った、結果、立派な骨になろうとしていたのだろう。
肩にのし掛かる何かに、潰されまいという想いが、物理的な変異をもたらしたに違いなかった。
原因も、判らなければ、治療法もない。とにかく痛み止めとしてロキソニンを、処方してくれた。
あと、謎の副作用で石灰化が改善するかもしれないと言う胃薬。本当に直るのか?
相変わらず、ズドンと鈍い痛みが一日中続く。そして、とにかく酒が飲みたくなる。普段飲まないのに、たまたま飲む機会があって飲んだ。そうしたら何故か今まで以上に美味いのだ。肩の痛みを和らげてくれているかの様だ。酒が飲みたい。朝から飲みたい。
これはもはや。思考はアル中そのものではないかと思われる。きっかけは得てしてそんなモノなのかも知れない。
あの人は働き者だったが、肩を痛めてから変わってしまった、朝から酒に溺れ、暴力を振る、昔は、腕の良い職人さんだったんだよ。ああなっちゃたら人はお終いだよ。なんて、噂好きの近所のおばさんが、捜査員にお節介を焼く、ありがちなサスペンスの一コマなんてのも、まんざらでもない。
実際、うちの親父は、本家の叔父さんの事を、酒ばかり飲んで、働きもせず、指図ばかりして、ろくな者では無かったと、酒を飲んでは私に説教していた。
今は、ロキソニンがあるが、昔は酒でも飲むしか無かったのかもしれない。石灰化も遺伝的なものが関係しているのなら、案外、その駄目な叔父さんとやらも、今の私と同じだったかも知れない。
寝ても覚めても、痛いのなら、酒でも飲んでいるしかない、冷ややかな周りの視線に、お前らよりもっと出来るんだと、その苛立ちに、理屈を足して、立場の弱い者に、さも偉そうにお説教を、垂れるのも、人の弱さというか、テンプレだな。
些細な事でつまずき、転げ落ちるのもお決まりのレールがあるようだ。
成功した者を妬み、親の七光だの、金持ちだの、もとより才能があっただの、エリートだのと、さもレールが敷かれていたのだと言う者は、自分を棚に上げ、下りのレールで滑り落ちている事に気づいていないのではないだろうが。他人が成功したのではなく、自分が失敗しているのだ。
私も下りのレールに乗っていた。肩が痛いんだ、今まで通りには行かない。思うように仕事ができないし、社会も変わってしまった。毎晩、晩酌を煽り、潤滑油を足し、愚痴りながらぐだぐだと定年ぐらいまではいけるかも知れなかった。
しかし、気づいつしまった。石灰化したのは今までの生活を見直さなければならないシグナルで、痛みはそのアラームであると。
しかし、なかなか治らない。半年以上、ウダウダと痛みとともに日々を過ごし、病院に通う、先生は面倒くさい様で、まだ痛むの?じゃロキソニンね。ってな感じ。どうやら実際完治したかどうか、確かめる前に勝手に患者は来なくなるのが、常なのだ。
なんだか行くのが、嫌な気分になって来た。いよいよ治らないし、病院を変えてみることにした。
ちっょと権威がありそうな、病院で、石灰化の状況と、なかなか治らないので改めて診察して欲しいとお願いした。前回の先生は一切体に触れるとこは無かったが、今回の先生は、痛くて曲がらないと言っているのに、それを、思いっきり動かす!
ここが痛いのね!って思い切り動かすんだ。椅子に座りながらも、飛び上がった。
とにかくレントゲンを撮った。
そしたらなんと前回の真っ白な塊が、ほぼ無くなっていた。あと本当に少しらしい。痛さの意味を知った。石灰化しても痛まない人もいる、では何故痛み出すのか?多分、石灰を、溶かすのに痛みが伴うのではなかろうか。痛いからてっきり悪化しているものとばがり思っていたが、違ったのだ。
希望の痛みというものがあるのか?聞き慣れない言葉だが、この痛みはまさにそれだ。
そう言えば、痛いことは痛いが、肩の可動域は大きくなっている。
なんなんだろうか?コロナになり免疫システムが活性化でもしたためか、石灰を、排除し始めたとしか思えない。
何がが大きく変わった来た、社会も、私自身の体も、精神も心も。閉ざされた何かが解けてゆく。
仕事も変えよう、働き方も変えよう、何より考え方を、変えよう。そんな想いの一端が、こな様な文章を書かせているのだろう。突然書こうと思い立った。30年近く、文書いや、書類すら書いていなかったのに。
仕事は、肉体労働だ、特に読み書きはしなくて良い仕事だ。しかし、こうして書き始めた。
心臓より高い位置で、石灰化が起きるなら、私の松果体は紛れもなく石灰化していた事だろう。
それをコロナが溶かし始めたのだ。
コロナは元々、太陽コロナから来ているのだろう。太陽から放たれる原子と電子のプラズマなんだと。
似て非なるものが、同じ名前を得たのだ。言霊があるとするならば、私の体にプラズマを放ち、封印を解いたに違いない。
なんだか生まれ変わった気分だ。
まるで厨二病みたいだろう!なんせ、石灰が、血に溶けて無くなったんだ。紅白はめでたい!赤白混ざってピンクになる。だからピンクはhappyなんだよ。
これから仕事を辞めようとしているのに、何故だか、幸せを感じのだ。生まれて初めて自分を大切にしたいと思っている。