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重巡洋艦伊吹の魚雷兵装について


旧日本海軍の重巡洋艦伊吹の魚雷兵装について調べていたので
これまで調べたことについて分かったことを報告します。
重巡洋艦伊吹の魚雷兵装に関しては航空兵装を廃して5連装魚雷5基を搭載したか4連装魚雷4基と装填装置の組み合わせとされている書籍で意見が分かれていたので、それに関して調べてみました。

4連装魚雷4基を搭載した説について

大和ミュージアム所蔵資料
第三百号艦"鈴谷型c46一般艤装図 其の一 
(発射管及射出機等装備) 06002221-001 06002221-002
より作成

国立国会図書館のC-46第三百號艦型計画重量計算書と
軍艦伊吹航母改造計画要目比較表において
4連装魚雷4基と93式魚雷24基を搭載すると記述されており
また、二座水上偵察機常用2機(十四試二座水偵、後の瑞雲)
零式1号水上偵察機1型常用1機(十二試三座水偵)と記述されていました。
少なくとも重巡洋艦伊吹が航空母艦に改装が開始される直前までは
4連装魚雷発射管4基を搭載し
航空兵装も最上型から若干変更しただけのものとして計画され
工事が進められていたていたことが判明しました。

大和ミュージアム所蔵の図面資料においても
重量計算書の記述の通り
水上機が搭載され4連装魚雷4基が書き込まれていたのですが
興味深い点としては艦内部の上甲板の図面において
5連装魚雷発射管のような名称不記載の謎の装置が2基書き込まれていることでした。


旋回式魚雷装填装置の図
海軍水雷史 p.226 - p.228 第9節 魚雷の対舷移動装置の研究
B19附図より作成

では、この5連装魚雷発射管のような装置は一体何なのか?調べを進めてみたところ海軍水雷史において、旋回式装填装置というこれに類似したものが記載されていました。
以下、海軍水雷史 p.226 - p.228より内容を抜き出して記載いたします。

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第9節 魚雷の対舷移動装置の研究
 
 発射管を上甲板両舷に装備してある巡洋艦において、魚雷の対舷移動操作の簡易化並びに迅速化は、予てから実施部隊の極めて強硬な要望であった。
魚雷の対舷移動は水平時においても、概ね少なくとも30分ないし1時間を要し
特に改装前の那智型巡洋艦の如きはラック附き天井運搬軌道と3t滑車(チェーンブロック)
により、狭隘な通路を経過し、諸構造物等に接触することなく、長大な魚雷を移動することは作業上非常な困難を伴った。
平水時においてさえ然り、波浪高く動揺のある海面においては至難かつ危険極まる作業であった。
これに関しては艦本第二部において主研究の結果、昭和16年B19図の如き装置を考案計画して提案した。

本案を実施するためには管全体に亘り相当大幅な改装を加える必要があるが、
次のような利点があるので、艦本第四部においても非常に乗り気になり、先づ那智型に対し早速実施のことに決定されて全ての計画設計も終わり、
その機会を待っていたのであるが戦況ますます苛烈となって母港帰投の余裕もなくなり、遂にその機を得るには至らず折角画期的な改善案も計画倒れになり、陽の目を見ずに終わったのは返す返す残念であった。
因みに本案の利点次の通り
 
(1) 対舷移動の所要時間は次発装填所要秒時に比し僅差に過ぎず
(2) 同舷装備の連管々内魚雷の入れ替え作業が極めて簡単に実施できる。
(3) 対舷移動用のラック附き天井運搬軌道も不要となり莫大な重量軽減となる。
 
本装置は那智型九二式四連装発射管一型の斜め後方(斜め前方でも可)管中心線上に
魚雷5本を搭載したまま、旋回できる装填装置を設けるもので、装填ローラーつきの各装填台の中心距離は発射管と合致させてある。装填装置の後方には予備魚雷格納台を設け、その魚雷の中心距離もまた同様である。
この旋回装填装置と発射管とをそれぞれ所要の角度まで旋回することによって装填台上の任意の魚雷を連管の任意の管の中心線とを合致させることができるので、
一舷の連管の魚雷を反対舷の連管に移す事も、亦同一舷連管の任意の管に任意の魚雷を他の任意の管に装填換えすることも、ただ魚雷を引き出す秒時と旋回装填台と連管とをある所要の角度まで旋回する秒時と引き続いてこの魚雷を装填する秒時だけで
対舷移動も又魚雷の入れ替えも極めて容易、且つ自由自在に実施できるのである。
本装置によれば一斉装填ができるのみでなく、対舷移動に要した所要秒時は、従来のものに比すれば、殆ど零に等しいといっても過言ではない。
装填台を5個としたのはこれを格納台の代用とするもので、仮に4本の魚雷を搭載している場合でも連管内の魚雷の入れ替えを容易にするための考案である。
この旋回式装填装置の後方に予備魚雷の格納装置を設け、容易かつ迅速に魚雷を装填台に移動して次発装填装置を簡易化したものでこれを提案した当初は色々異なる意見も合って、図面だけでは簡単に承認されなかったので模型を作成の上、机上試験をしてその作動や機能に間違いないことを証明した結果遂に承認されたのである。特に艦本四部が非常に乗り気になって真剣に研究計画を進められたが、遂に実施するには至らなかったことは返す返す遺憾に堪えない次第である。
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伊吹の図面に書き込まれていたものは、妙高型にどうしても搭載したかかった新型の魚雷回転装填装置(魚雷対舷移動装置)と同様のものであると間違いないと考えられます。

航空兵装を廃止して5連装魚雷5基を搭載した説

残念ながら資料を確認できませんでした。
旧海軍関係者が執筆及び編集した書籍である
昭和27年刊行の造艦技術の全貌 わが軍事科学技術の真相と反省1
に「5連装魚雷5基を搭載する計画もあった」と書かれているだけで
この書籍には裏付けとなる資料は何も掲載されておらず
参考資料として付録されていた重巡洋艦伊吹の要目にも水偵×3
4連装魚雷4基と記述されていました。
また、根拠の一つとされていた大和ミュージアムの図面資料には
上述の4連装魚雷4基と5連装魚雷のような装置が2基書き込まれており
少なくともこの説の元になった資料ではないことは確かです。

航空兵装を廃止して5連装魚雷5基を搭載した説に関しては
この説を提唱した研究者が根拠となる資料を公開しない限り
確認しようがなく、軍艦伊吹航母改造計画要目比較表においても
航空母艦の改造直前まで
4連装魚雷4基を搭載するものとして
工事が進められていたことが判明しており
もし資料が見つかったとしても初春型の12.7cm3連装砲のように
提案だけはされたものの、すぐに却下された程度のものである可能性が高いと言えます。
また、この説を提唱した研究者が
図面資料を読み間違えてしまった可能性もあります。

結論 重巡洋艦伊吹の魚雷兵装は4連装魚雷4基と旋回式魚雷装填装置2基を搭載する内容で決定していたことが確実。5連装魚雷5基については調査が必要である。


最後に
旋回式魚雷装填装置の利点について
この装置を搭載すれば魚雷を8本一斉発射した後
直ぐに魚雷の再装填が可能で予備魚雷を撃ち終わっても
反対側の魚雷発射管にある魚雷を引き抜いて
もう一度魚雷を打ち込むことが可能であり
この装置を搭載した重巡洋艦伊吹は8×3、計24本もの魚雷を短時間に相手に撃ち込むことが可能となる。

参考資料

国立国会図書館 憲政資料室所蔵
Captured Japanese Ships' Plans and Design Data, 1932-1945
R.4 ND50-1006.2: 第三百號艦型計画重量計算書
ND50-1006.1: 第三百號艦型(C46)一般計画要領書(基本計画)

海軍水雷史刊行会, (1979.3)
海軍水雷史【日本海軍水雷史】 p.226 - p.228
第9節 魚雷の対舷移動装置の研究

[大和ミュージアム収蔵資料]
"第三百号艦"鈴谷型c46一般艤装図 其の一 
(発射管及射出機等装備)
06002221-001
06002221-002
C-46 軍艦伊吹 空母改造計画審議会 資料
MK011-0050


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