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学校漫才の効果

私が漫才に出会ったのは、昨年のこと


もともとお笑いが好きで劇場もたまに足を運んでいたが、実際にお笑いをやろうとは思っていなかった。



しかしながら、優しい先生とか授業が分かりやすい先生とか言われるよりも、おもしろい先生と言われることが一番嬉しい。というのは心のどこかにあった。


昨年担当していた学年で、お祭りをしようという話が挙がった。各クラスでお店を出したり、劇やダンスなどの発表も入れようということになった。


当時の私は異動して1年目。クラスのみんなからはツッコミ先生と呼ばれ始め、クラスカラーとしても「とにかくパワフル」「盛り上がり」「ノリの良さ」が際立つクラス。


発表の部では、私も何かできたらなと思っていたのだが、いかんせん何をしようかな。得意なことなんてないし。


そんなことを考えていると、ある1人の女の子の顔が浮かんだ。その子はとにかく明るいがすごく目立つようなタイプではなく、ひっそりながら周りの子を笑顔にするような印象だった。

「うまくいく気がする。」というほんの小さな好奇心を胸に声をかけた。



「先生と漫才してみない?」




相方を誘う時ってこんな気持ちなんや。と嬉し恥ずかし。


「いいよ!やろうよ!」

と二つ返事で引き受けてくれたのは、本当に彼女の素敵なところだ。


さぁ、ならどうするネタ作り。やったことはないけれど、とにかく子ども達にウケるネタを作るために漫才の動画を手当たり次第見た。そして、相方に相談しながらネタを作っていった。


給食準備前のわずかな時間、壁に向かってネタ合わせをする。よく見る壁打ちだ。


本当にウケるか不安だったので、何人かの子どもに一度見てもらってアドバイスを受けることに。すると…


「先生がツッコミなのに全然怒ってない。もっと怒った方が本気な感じがする。〇〇先生が困っている方がおもしろいよ!」



伝え方の大切さを子どもに教えられた。
確かにそうだ。感情が乗っていなければ伝わらないじゃないか。



いよいよ本番当日、前半は各クラスのお店巡りだったが、とにかく緊張して落ち着かない。相方もそうだったのか、結局誰もいない配膳室の前で3回ほど練習した。



そして、本番。「はい、どうもー!」と不安をかき消すように威勢の良い声で登場。


相方が明るいボケをかます。私が感情を込めてツッコミをする。


笑ってくれることがこんなにも気持ちの良いことだとは思わなかった。


大爆笑?をいただき、「もうええわ。」とステージを去る。
高鳴る胸。止まらない高揚感。ほぼ放心状態だった。隣を見ると、相方も同じような表情をしていた。そして、ハイタッチをした。スラムダンクでいうところの山王戦最後の場面にある桜木花道と流川楓のようなハイタッチだ。

これは「running high」いや「manzai‘s high」だ!


どこかで聞いたことがある。
「漫才は中毒性が高くて、一度その快感を知ると忘れることができない。芸人を引退しても、またやりたくなる。」と。


ちなみに、相方の女の子は、そこから自己表現がより豊かになり、クラスでも人気者になっていった。クラス対抗百人一首大会では、優勝の賞状を受け取り謎のダンスパフォーマンスで爆笑を取っていた。3学期の終業式には、学年代表で「1年を通して成長したこと」について発表した。「私のクラスには個性の強い人がたくさんいる。話し合いがうまくいかないこともあった。その中で、私が全力で何かをすると、みんなは全力で応えてくれた。私はこの1年で、全力で取り組むこと・挑戦することの大切さを学んだ。」と全校児童の前で堂々と語った。そして、クラス最後の授業では、誰よりも泣いていた。


漫才が、相方の成長のきっかけになったのは言うまでもない。
では、何が良かったのか。漫才の教育的効果とはいったい何なのか?


ネタづくりというと、

相手意識


自分のやりたいボケがあっても、それが伝わらなかったら意味がない。「どうすればみんなに伝わるか」という相手意識を持つことは日々の授業や生活でも必要になってくる。子ども同士でのネタ合わせに参加することもあるが、自分たちのやりたいことをどうやって伝えるかを話し合っている姿は、とても良い学びの場だと感じている。


次に、

伝え方・表現力の向上


体の向き、声の出し方、動き、リアクション。伝えるということに関して、ここまで細かく考えたことはなかった。それは、子どもだけでなく、教師である今の私にも大いに生きている。

・本当に伝えたいことの時の声のトーン、メリハリ
・伝えたいことを分かりやすくする動き
・発言後に子どもが手応えを感じるようなリアクション

これらは、全て漫才から得たものだと思う。



そして、何より

自己有用感の高まり

自己有用感とは、「他人の役に立った。」「誰かに喜んでもらえた。」など、相手の存在なしには生まれてこないものだ。

「みんなが笑ってくれた!」「自分の考えたことが伝わった!」

笑いは、みんなを笑顔にする。その笑顔を自分たちが作り出している。その事実が何よりも強い。そうなったら、もう無敵モードだ。現在担任をしているクラスでもお笑い係があり、彼らの胸の高鳴りと無敵モードに突入した場面を何度も見てきた。



その後の私はというと、他のクラスの子どもが「先生、またお笑いして!」と声をかけてくれたり、急にボケてはツッコミを欲しがる子がいるなど、何となくおもしろい先生なんかなって認識を持ってくれているようだ。今年はお笑いフェスを開催し、子ども達と共にたくさんの学年の人にお笑いを披露した。いつの日か、全校でお笑いフェスができたらなと勝手に想像している。


あの時、漫才に挑戦したことが今の自分の教育観に大きな影響を与えている。
「あの時、漫才をして良かった。」と心から思う。




自分を成長させてくれた漫才と、コンビを組んでくれた相方には感謝しかない。


人を笑顔にするってすごいことなんだ
自分たちの力でみんなを笑顔にしたその事実は、何よりも自信になるんだ



この実感を1人でも多くの子ども達に伝えるために、これからも漫才を広めていきたい。

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