ヨーロッパ企画とSCRAPのアレコレ
7月7日は「リアル脱出ゲームの日」でしたね!
7月7日は京都で世界初の「リアル脱出ゲーム」が開催された日(2007年)。それから17年が経過したということになります。あらためまして、おめでとうございます。
そんな中、リアル脱出ゲームフェスティバルの公式アプリがリリースされ、リアル脱出ゲームフェスティバルのテーマソングが発表され、リアル脱出ゲームフェスティバルのオリジナルグッズが先行公開され……
と、2024年8月23〜25日に幕張メッセで開催される史上最大(たぶん)のリアル脱出ゲームの祭典「リアル脱出ゲームフェスティバル」まで、あと40日を切ってきている今日このごろ。皆様、いかがお過ごしでしょうか?
そろそろ「リアル脱出ゲーム」という文字列がゲシュタルト崩壊しはじめてきてますか?
リアル脱出ゲームフェスティバルは、さまざまな新作を一足先に遊ぶことができるフェスイベントになっています。ここで遊んでしまうと、この先、半年くらい遊べる新作がなくなっちゃうんじゃないか……みたいな斜め上の不安もありながら、ババンと発表された新作ゲームたちに胸が高鳴ります。
ラインナップは『HUNTER×HUNTER』コラボに『怪獣8号』コラボ、『DEATH NOTE』コラボに、まさかの『リアル脱出ゲームTV』コラボと盛りだくさん!
そんな中、あまり知名度が高くなさそうなコラボがひとつ。
それが『学校の77不思議からの脱出』です!
はて? これはなんのコラボ? と脳内クエスチョンマークなリアル脱出ゲームファンの方もいたことかと思います。
本作でコラボしているのが京都の劇団「ヨーロッパ企画」になります。
数千万部売れている超人気コミックと比較するものではないですが、そもそも「劇団」といった時点で、そらで劇団名をポンポン出せるひとはそんなに多くないでしょう。ヨーロッパ企画は、いわゆる日本の小劇場シーンのトップランナーといって良い劇団だと思いますが*、一般の知名度はいかほどか、わかりません。
しかし、ことリアル脱出ゲームを企画・制作する「SCARP」という会社との因縁(?)から解きほぐしていけば、きっと興味をもってもらえそうなんじゃないかと思われます。
というわけで、本作に向けた準備運動として、ヨーロッパ企画とSCRAPのアレコレを記していきます!
※以下、敬称略。
はじめに
まずは対象読者像と目的です。
リアル脱出ゲームファンで、SCRAPとか加藤隆生について興味なくはないよ、という方へのヨーロッパ企画の紹介(メイン)
ヨーロッパ企画ファンでリアル脱出ゲームはやったことないよ、という方への『学校の77不思議からの脱出』の紹介(サブ:果たしてヨーロッパ企画ファンにこのエントリが届くのか……?)
「リアル脱出ゲームは好きだけど、加藤隆生といったクリエイタ側には興味ないよ!」というひとには刺さらないと思うので、そういうひとはここで読むのをやめて『学校の77不思議からの脱出』が遊べる日がくるまで首を長くして待っていてください。そして、時が来たら、遊ぶのだ!
ちなみに、なぜこんなエントリを書こうとしているか。これはひとえに、ヨーロッパ企画とSCRAPの関係性がわかるような情報がweb上にほとんどない気がするからです。昔の情報はどんどん失われていくので、これは未来のために残しておかねばなりません。
その関係性は、双方の古参が肌感覚でなんとなく知っているくらいだったり、同時代の京都圏のひとが直接的・間接的に知っているくらいでしょう。これはまずい。ロストテクノロジー目前です。
奇しくも、自分は両方にそれなりに詳しいです。そんな自分が未来に残すのが、人類にとって最善の選択!かと思いあたり、筆を執った、という状況になります。
ご注意
なるべく情報ソースを出しますが、一部記憶で書いている箇所もあるので、間違いなどがあればご指摘ください。邪推や誤認があれば失敬。
のちに失われる可能性のある素材は画像自体を引用するケースがあります(今回の調査の中でも過去のwebページが失われて悲しい思いをたくさんしたので……)。
リアル脱出ゲームのネタバレには留意しますが、伏せ字で触れる、注意喚起のうえリンクを張ることはあります。自衛ください。
いろいろな記事、動画へのリンクがあるので、一度離脱すると戻ってこれなくなる可能性があります。まずは最後までのご一読をおすすめします。動画とかはあとでゆっくり観るんだ!
……というわけで、そろそろ本題に入っていこうかと思います。
ただ「ヨーロッパ企画」について、本当にゼロ知識のまま読み進めるのもつらいと思うので、界隈的にも知っていそうな近年の代表作をまずご紹介します。
映画『ドロステのはてで僕ら』(2020年)
いかがでしょう?どこかで見聞きしたことがありましたか?謎界隈でも本作を受けて「ドロステ謎」なんてものがうまれたりしたので、知ってる方もいるんじゃないかと。2分後の世界とつながってしまった「タイムテレビ」にまつわる群像コメディ映画*です。
この映画の各界著名人からの絶賛の声!的なページをみてみると……
ちなみに、逆にSCRAPのオンラインリアル脱出ゲーム第1弾『封鎖された人狼村からの脱出』(2020年)の応援コメントをみてみると……
……といった感じで、よーくみていると、彼らの関係性が感じ取れるのではないかと思います。
そもそもヨーロッパ企画、そしてSCRAPとは
そもそもなんなんじゃい!という方もいると思いますので、あらためてヨーロッパ企画、SCRAPの紹介をします。
ずばり、共通点は「京都」です。
2000年代(ゼロ年代)の京都の雰囲気は、当時東京にいた自分からは想像しかできませんが、そのあたりの空気感(シーン)が重要なように思えます。
こんな雑なくくりで良いのかはいささか不安ですが、当時の京都のカルチャーシーン(音楽・演劇・フリーペーパー)の中で交流があった、という理解で良いと思います。
そして、それは団体だけをみているのではなく、その長であるおふたりについても知っていた方がわかりやすいと思います。実は「京都」というだけではなく、大学も同志社つながりだったりしますし、年齢もそう離れていないため、世紀末の京都の学生という空気感を共有していたという意味で、近いものがあるのではないかと思っていたりします。
オフィシャルななれそめは下記がいちばんわかりやすいと思います。これはリアル脱出ゲーム10周年記念におこなわれた、上田誠へのインタビュー記事(2017)になります。
おふたりは、これまで共演の機会も少なくないです。たとえば、こんなのとか。
ヨーロッパ企画とSCRAP、そして上田誠と加藤隆生。そこには、どのようなつながりがあったのか。そして、それがリアル脱出ゲームにどのように関わっていったのか……。
彼らの軌跡を追いながら、交錯する接点を紹介していきます。
SCRAP×ヨーロッパ企画のはじまり(リアル脱出ゲーム以前)
フリーペーパーSCARPが創刊された2004年7月からふりかえっていきましょう。
このときの加藤隆生のポジションは「SCRAP編集長」。デザインを担当していたMarble.co※(こちらも京都のデザイン会社)のサイトから過去のSCRAP紙面が確認できます。
実は2004年7月の創刊号から、ヨーロッパ企画による「ヨーロッパ企画の街にサプリメント」が連載されていました。
以降「土佐和成*のイベントCHECK IT OUT!」「角田貴志*責任編集 微術手帖」などが連載されていた……といっても、検索してもほとんど情報が出てこないため詳細は不明です。
その後、SCRAPは前述のように紙面連動イベントを数多く開催していました。下記の対談からもその当時の雰囲気の一端が読み取れます。
(元SCRAP編集部のボランティアスタッフで、のちに京都でフリーペーパーを出している方の対談)
その中で出演者としてヨーロッパ企画のメンバ(上田誠含む)が呼ばれることも多々あったようです。
SCRAP「乙女チックポエムナイト Vol.1」(2006)
「乙女チックポエム」というのは、初期SCRAPの代表的なヒットイベントのひとつ。これまでの加藤隆生インタビューでも、いろいろなところで言及されています。こことかこことかこことか。
このイベントは、2005年12月発刊のSCRAP第9号の特集「乙女チックポエム塾」の連動イベントになります。
このイベントで審査員をつとめたのが松田暢子*でした。
一方、ヨーロッパ企画も劇団公演だけではなく、さまざまなイベントなどを実施している中で、加藤隆生らSCRAPが関わることも少なくありませんでした。
ヨーロッパ企画「第3回ショートショートムービーフェスティバル」(2006)
ショートショートムービーフェスティバルは、その名の通り5分以内の「ショートショートムービー」の祭典。ヨーロッパ企画内でうまれたイベントだったが、この第3回からゲスト監督として交流のあるひとがいろいろ作品を出した。
その中で加藤隆生が出展した作品が『卓球王』でした。
元は同年2月に発刊されたSCRAP 10号の企画「これがほんとのアニソンじゃい!」で生まれた「架空のアニメソング」の映像化。
声優として永野宗典*、松田暢子も参加しています。そして加藤隆生ご本人も声優として……。
当時の加藤隆生のブログは下記です。
SCRAP「面白企業説明会」(2006)
SCARP14号の連動イベント「面白企業説明会」に酒井善史*が参戦。調べてもまったく情報がないため、どのようなイベントだったのかはほとんどわからないのですが、こんな感じだったようです。
ヨーロッパ企画「カウントダウン2006→2007 大企画会議」
2003年から継続的に行われているヨーロッパ企画のカウントダウンイベントの4年目に加藤隆生が参戦。ちなみに会場は例年アートコンプレックス1928(2012年4月より『ギア-GEAR』専用劇場となっている)で、2010年からはKBSホールで行われています。
SCRAP『文作りコンクラーベ』(2007)
SCRAP15号の連動イベントとして開催。これもSCRAPの大ヒットイベント。
RADIO SCRAP(2007年4月4日 - 2009年3月26日)
α-STATION(FM京都)で放送されたラジオ番組。そこで、加藤隆生とともにパーソナリティとつとめていたのが松田暢子でした。
ちなみにのちに『SCRAP RADIO』というネットラジオが少年探偵SRAP団(SCRAPファンクラブ)限定で2014〜2015年(パーソナリティ:加藤隆生)、2017〜2019年(パーソナリティ:熊崎真敬、青木竜也)に配信されていますが、これらはまったく別物です。
ヨーロッパ企画「第4回ショートショートムービーフェスティバル」(2007)
第3回に引き続き、第4回にも加藤隆生が参加。DVD化もされていないので、当時の記録は残っていないのですが、こんなエントリがみつかりました。
冒頭で紹介した上田誠インタビューに「僕らがやっている『ショートショートムービーフェスティバル』という短編映画の映画祭に、劇団のメンバーが謎解きをするドキュメンタリー作品を出してもらったりしました」という言葉がありましが、このことかと思われます。
この頃のことはネット上に情報が少なく、正直なところあまりわからないのですが、酒井善史(上の引用内の「酒井さん」)がけっこうSCRAPと関わりがある様子がうかがえます。
たとえば、2007年9月に行われたヨーロッパ企画のイベント「第3回ヨーロッパスタジオ祭り」については、下記の記述が残っています。
ちなみに「ROFT」というロボットは、酒井善史が第6回・第24回公演『衛星都市へのサウダージ』(初演2000年・再演2007年)のために制作したラジコンロボットになります。
酒井善史については少し上で紹介しましたが、氏の舞台美術・小道具制作・「発明」がのちのち重要になってくるので、ぜひ覚えておいてください。
リアル脱出ゲーム×ヨーロッパ企画
というわけで、2007年7月にリアル脱出ゲームが産声をあげました。やっとです。おまたせしました。
本イベントはフリーペーパーSCRAPの3周年イベントでした。本作自体には、おそらくヨーロッパ企画は絡んでいないので、さっさと先に進みます。
このイベントの成功を受けて、SCRAPは立て続けにリアル脱出ゲームを開催していきました。
そして、翌2008年。リアル脱出ゲーム黎明期における重要な位置づけとなる、あるシリーズがはじまったのです。
HEP HALLからの脱出(2008)
チラシの最下部中央にご注目ください。そこには「制作協力:ヨーロッパ企画」の文字……。ということで、早くもリアル脱出ゲーム第4作にして、ヨーロッパ企画が絡んできました。
ちなみに余談ではありますが、第2作『ある女子校の教室からの脱出』の情報を調べようとしても、なぜだかネット上ではほとんど情報が残っていません……。
当時の加藤隆生のブログから情報を拾うと、詳細な開催情報は下記のようになっていました。
ここにも「ヨーロッパ企画」の文字がみてとれます。説明文内の「コント」がまさにヨーロッパ企画の出し物だったようです。で「謎解き脱出ゲーム」がSCRAPですね。
「生活衛生営業指導センター」というのは「飲食業、理・美容業、クリーニング業、ホテル・旅館業など18業種を対象にした衛生営業指導などを実施している公益法人」だそうで、その京都支部(通称SeeL)が主催する年に1回のお祭りがこのイベントのようです。
ヨーロッパ企画側でも本イベントについて「平安女学院の講堂にて、コントを披露したり、ユーモアトリオ*が銭湯漫才をやったり」という記述が残っています。
ちなみに当時のこのイベントの新聞記事はこんな感じ。ヨーロッパ企画の「ヨ」の字も、リアル脱出ゲームの「リ」の字もありません……。
余談から戻って、HEP HALLです。HEP HALLは、大阪梅田にあるHEP FIVEという、屋上の赤い観覧車が有名なファッションビルの中にあるホールです。HEP HALLの運営会社はリコモーションという小劇場系のマネジメントや製作をしている会社(当時。2021年3月をもって運営終了)で、なぜそこでリアル脱出ゲームが行われたか(そして、その後もよだかのレコードをはじめとして、謎解き公演が開催されるような「西の聖地」になったのか)には、プロデューサーの星川大輔*の存在が大きいようです。
このクレジットからわかるように『HEP HALLからの脱出』はSCRAPの主催公演ではなく、HEPの主催公演となっています。主催=お金を出している会社なので、HEPがSCRAPに声をかけて公演を実現した、という流れになります。
その後、本作を皮切りに、年に1回ほどのペースでHEP HALLからの脱出シリーズの新作が開催されました。リコモーションがHEP HALLの運営終了する際に公開された「HEP HALLの思い出 2005-2021」の中でも特にお付き合いの深い3人のうちの1人として加藤隆生がコメントを寄せており、HEP側からしても意義深いコラボレーションだったと言えそうです。
客席からスタート、途中で緞帳が開き、ステージにあがれる……といったゲーム内容で、【ネタバレ注意】公式のイベントレポでは、謎の解説含め、詳細な情報があがっています*。
この公演では、かつてのリアル脱出ゲームの代名詞とも言える「残り10分のテーマ*」(通称:コトコトコー)がうまれたり、唐突に出てくる【ネタバレ注意】XX、その後のいくつかの公演でも採用されている【ネタバレ注意】「XXXにXXをかけてXXさせる」アクションといった、リアル脱出ゲームの萌芽を感じさせる内容となっていました。「ただし、子供だましの簡単な謎ではありません。名探偵気取りでお越し下さい」という、いまはなくなってしまったが、リアル脱出ゲームを代表するような前口上もこの時点で存在していました。
本作にはヨーロッパ企画から松田直樹*が出演(警備員役)。舞台装置などで酒井善史が参加。本作では【ネタバレ注意】XXXXXXXXというギミックが使われているのですが、そこは酒井善史の手によるものだったようです。またのちの様々なルーム型でド定番となる【ネタバレ注意】「XXXXXを4つ集めると開く宝箱」は酒井善史の発明だそうです。
HEP HALLからの脱出2(2008)
ここからは少し駆け足で。本作では、酒井善史(XX役)、松田直樹(警備員役)が出演。公式レポはこちらから。引き続き、酒井善史は舞台美術でも活躍していたようです。
のちにREGAMEリアル脱出ゲームオンラインVol.2『サイレントキューブからの脱出』に転用される某システムがリアルに行われたりしていました。
座組は基本的には1と一緒ですが、制作協力に「サクセス」が入っています。実は、本作はFlash脱出ゲームの原点であるTAKAGISM(高木敏光)『クリムゾンルーム』とのコラボ(正確にはPSP版『クリムゾン・ルーム リバース』)になっており、サクセスはそのPSP版の販売元になります。コラボということで作中にクリムゾンルームにちなんだアイテムが使われたほか、特別イベントとして高木敏光と加藤隆生のトークショーが開催されました。その様子はいまも観ることができます!
HEP HALLからの脱出3(2009)
HEPシリーズ第3弾です。「3」では、これまでの全体戦から、はじめてチーム戦が導入されたほか、ストーリーの導入など、これまたその先のリアル脱出ゲームの布石となるような取り組みが行われました。
本作では、引き続き松田直樹(ポストマン役)が出演。あと正式にはヨーロッパ企画ではない認識ですが、中野遼*(ピエロ役)も出演。舞台美術も引き続き酒井善史が担当していたようです。
ちなみに座組でiSMとしてインテリジェントシステムズとMarble.coが参加しているのにも注目です。そうです。インテリジェントシステムズは「面白企業説明会」(2006)で酒井善史とタッグを組んだゲーム会社です。
また、Marble.coは「ヒント用紙のデザインをしてくれた」らしく、その後のリアル脱出ゲームでもメインビジュアルのみならず、キットデザインなど広範囲に担当されています(最近だと『地下謎からの挑戦状2023』など)。
その後、HEP HALLでは『ある飛行機からの脱出』(2010)、『人狼村からの脱出』(2011)、『マグノリア銀行からの脱出』(2012)、『眠れる森からの脱出』(2013)、『ドラキュラ城からの脱出』(2014)といったオリジナル公演が開催されました(合計8作品)。
『ある飛行機からの脱出』では「制作協力:ヨーロッパ企画」としてクレジットされていますが、その次の『人狼村からの脱出』からはクレジットがありません。
『ある飛行機〜』(公式レポ)には機長・副機長のキャストが出ていますが、副機長はのちに『コナン脱出』シリーズなどを手掛けるディレクター西澤匠(通称・うぉーりー)が担当されていたようです。同時期の『終わらない学級会からの脱出』(2009)もキャスト(先生、転校生)が出てくる公演ですが、転校生役はのちに『マグノリア銀行からの脱出』ディレクターふじたたまみ(現・かわかたたまみ)がやっていました(謎解き的にはまあまあ重要な役割で、【ネタバレ注意】転校生がやってくるシーンは、おそらくいまの再演時も踏襲されているのではないかと思われます)。この頃から多少演技のようなふるまいが必要なキャストも、SCRAP側で担当するようになっていったと思われます。
というわけで、『ある飛行機〜』においてヨーロッパ企画は舞台製作のみを担当していたのではないかと推測されます。
なお 『HEP HALLからの脱出3』に前後して、SCRAPがついに東京進出を果たします。『廃校の教室からの脱出』(2009/2/23-24)@芸能花伝舎(西新宿)、『図工室からの脱出』(2009/6/10-14)、『終わらない学級会からの脱出』(2009/11/5-9)@IID世田谷ものがたり学校と、どんどん動員を拡大していきました。
ちなみに『廃校の教室からの脱出』(【ネタバレ注意】公式レポ)には引き続き松田直樹が出演していたようですが、特にヨーロッパ企画のクレジットはなかったようです。
このあたりで本格的に「見つかった」状態となったリアル脱出ゲームは、その勢いのまま、2010年には『夜の遊園地からの脱出』(2010/9/11-26)@よみうりランド、『あるスタジアムからの脱出』(2010/12/23-26)@明治神宮球場と大規模会場に進出し、1回1000人規模にまで拡大していきます。
そして2010年12月より加藤隆生は東京に拠点を移し、翌2011年1月にはSCRAP東京オフィス@初台が開設。本格的に京都を離れ、SCRAPは東京を拠点として活動するようになりました。
2011年には『あるドームからの脱出』(2011/5/6-8)@東京ドームが大成功に終わる一方、その拡大路線のアンチテーゼとして、ルーム型の常設店舗であるアジトオブスクラップ東新宿GUNKAN(現・リアル脱出ゲーム東新宿店)が開店します(2011年7月)。翌2012年3月にはホール型の常設店舗である原宿ヒミツキチオブスクラップ(現・リアル脱出ゲーム原宿店)が開店。常設店舗を持つようになり定常的にイベントが開催されるようになったことを受けて、フリーペーパーSCRAPにも路線変更が発生します。ついに、2012年2月に発行された第44号を最後にフリーペーパーSCRAPは休止となりました(現在も継続している「SCRAP EVENT LINEUP」はその後釜として発刊されています)。
2011年7月18日には、SCRAPのフリーペーパーとしての最後の大規模イベント「SCRAP FES 2011」@KBSホール(ちなみに創刊7周年イベント)が開催されています。チラシには書かれていないのですが、上田誠×加藤隆生×川田十夢トークショー「物語と空間の関係性について」という企画もあったようです。というか、これがメイン企画でもあったらしいです。メンツは、最初の方で紹介した「2027年クリエイターズ放談」(2020)と一緒ですね。
リアル脱出ゲーム熱狂期
タイミングとしては加藤隆生ブイブイ期(失礼)というか、すごい勢いを内外から感じる時期でした。当時のSCRAPの動きとしては、2013年1月に『リアル脱出ゲームTV』第1弾が放送、2013年10月に加藤隆生が『情熱大陸』に出演といった雰囲気。とにかくアツい時期でした。
前述のように、アジト&ヒミツキチという常設店舗を発信源に全国展開の流れがみえはじめ、公演数はどんどん増えていきました。その中でヨーロッパ企画×SCRAPの蜜月はどのような形になっていったのか、みていきましょう。
魔王城からの脱出(2013)
しばしのごぶさたでしたが、本作はけっこうがっつり舞台美術、小道具などで共作しているようです。本作は2012年4月に開店したアジトオブスクラップ京都のオリジナル公演第2弾で、京都(といっても、もともと京都はメインなわけですが)は京都でオリジナルの公演をという雰囲気があったり(現在はまったくないですが)、アジトの店長ブログがあったり、そのブログにもフリーペーパー魂的なものがにじみ出ていたりと、独自性が高い時期だったと思います。
京都アジトが開店した際の店長は染川央*で、京都オリジナル公演(『パズルルームからの脱出』『魔王城からの脱出』)は染川ほか京都アジトスタッフで作ったとのこと。そんな京都アジト周辺(染川周辺?)には、京都カルチャー界とのつながりがしっかりと残っていたようで、たとえば2012年6月には京都のダンスカンパニー「男肉du Soleil」*とコラボした『男肉du Soleil からの脱出』が開催されていたりします。
『魔王城〜』では、部屋全体の建込みからはじまり、小道具や【ネタバレ注意】XXXXXで酒井善史との共作がみられています。下記に書かれていますが、一部はヨーロッパ企画第32回公演『建てましにつぐ建てましポルカ』(2013/8/31-10/6)からの流用になるようです(日付みると、公演終わり次第、京都アジトで使われたぽいですね……)。
京都アジトにおこしキャス第6回(2015)
京都アジトで定期的に行われていたトークイベントのゲストに酒井善史が出演しています。これはヨーロッパ企画第34回公演『遊星ブンボーグの接近』(2015)の宣伝要素も含まれています。なお、当時のイベントの様子は下記からまだ観ることができます(6分頃から本編スタート)。
ペーパーキングダムからの脱出(2015)
名古屋ナゾコンプレックス(現・リアル脱出ゲーム名古屋店)のオリジナル公演です(2015/8/11〜2018/5/6、再演:2021/11/25〜2022/6/26)。上記の『おこしキャス』はちょうどその開始直後のタイミングで、制作の裏側がトークされていたりもします。
酒井善史は舞台美術、特に要となるペープサートの制作を担当したようです(メインビジュアルのとおり、大量の紙人形が出てくる公演でした)。制作は1ヶ月を切ったタイミングからはじまっており、大変だったもよう。ちなみに本公演は染川央がディレクターでした。
また『おこしキャス』の中で触れられていますが、2015年8月公開の3DS用ゲーム『超破壊計画からの脱出』の予告映像にヨーロッパ企画メンバが出演しています(映像自体は現在は非公開となっており、こちらからサムネイルのみ確認可能。下段中央が酒井善史。ほか、上段右が土佐和成、下段右が西村直子、下段左が永野宗典とヨーロッパ企画メンバが総動員されている)。
巨大UFO目撃事件(2016)
本編でのコラボではないのですが、特設サイトの体験レポートとして石田剛太、酒井善史、角田貴志、西村直子の4人が『巨大UFO目撃事件』をプレイする記事が掲載されています。
同年のヨーロッパ企画第35回公演『来てけつかるべき新世界』という、まさに大阪新世界を舞台としたSF人情喜劇の宣伝を兼ねたコラボになっています。
ちなみにこのような劇団本公演の宣伝に合わせたコラボみたいなものとは反対のパターンもあったりします。たとえば、LOVE FMで放送されている『こちらヨーロッパ企画福岡支部』内のラジオドラマ「イシダカクテル」(パーソナリティ石田剛太が監修するオトナの恋愛ラジオドラマ)では、2021年にリアル脱出ゲームをモチーフとして使ったドラマが放送されています。
余談ですが、これらの福岡公演はLOVE FMが主催に入っているので、そっち方面からきている可能性もあります。そもそもアジトオブスクラップ博多(冷泉町、2017年11月に閉店)自体が、たしかLOVE FMのバックアップが入っていて、待合室ではLOVE FMが流れていた記憶があるし、『あるラジオ放送局〜』で使われている「本物のラジオブース」はLOVE FMで過去に使用されていた本物だったと聞いた記憶があります。ちなみにこのラジオブースを使って録音した博多アジトのオリジナル番組「せからしRadio」の配信も過去に行われていました。
現場捜査ゲーム『演じすぎた男』(2019)
本作はヨーロッパ企画のクレジットはありませんが、ヨーロッパ企画メンバが出演しているほか、ヨーロッパ企画所属の映像スタッフが映像・演出も担当しています。当時のヨーロッパ企画の日記をもとにすると、ヨーロッパ企画関連メンバはこんな感じで参加していると思われます。
要するに冒頭で紹介した『ドロステのはてで僕ら』などと同じスタッフで作っていることになります。
現場捜査ゲーム『配信者には殺せない』(2020)
現場捜査ゲームの続編では、クレジットにもばっちり「ヨーロッパ企画」の文字があります。残念ながら、もう公演は終了しています。
座組としては「脚本:ヨーロッパ企画(酒井善史)」「トリック原案:山﨑剛」となっており、これまで舞台美術、小道具といった形で関わっていた酒井善史が脚本で入っています(実は酒井善史は脚本も多く担当しており、ヒーローショーの脚本のほか、近作では『ホリミヤ』『信長未満 -転生光秀が倒せない-』などのTVドラマの脚本や監督をつとめています)。
座組としては、これも記載はないですが、前作『演じすぎた男』と同じ感じだったかと記憶しています。すみません、このあたりソースがみつからなかったので、記憶のみになります……。たしか、出演していたのが酒井善史、土佐和成だった記憶。ここによると、撮影は山口淳太のようです。
そして『学校の 77不思議からの脱出』へ
やっと現代まで戻ってこれました。というわけで、新作『学校の77不思議からの脱出』です!
タイトルからヨーロッパ企画第39回公演『ギョエー!旧校舎の77不思議』(2019)がモチーフとなっています。これは舞台上で77の不思議が実際に発生する「オカルト青春コメディ」でした。
もうちょっとどんな公演で、どんな座組なのかを確認していきましょう。まずは公演概要です。
下記のように、SCRAP側はメインで加藤隆生が動いているようです。
ヨーロッパ企画サイドの情報だと、こんな感じ。脚本:酒井善史、出演:みんなとのこと。
公演スタイルも新しいですし、ヨーロッパ企画による脚本・映像という意味では現場捜査ゲームの系譜といっても良いのかもしれません(現場捜査ゲームも随時開始、タブレット使用)。
というわけで、ここまでヨーロッパ企画とSCRAPのアレコレをまとめてきました。まだまだ情報は尽きないですが、今回はこんなところにしておきましょう。
『学校の77不思議からの脱出』は、全6章のうち1,2章がリアル脱出ゲームフェスティバルでプレイ可能とのことです。その後、全国ツアーも予定されているということですが、ぜひ幕張メッセでも一足先にプレイしてみたいですね!
ちなみに『来てけつかる〜』の客演(劇団員以外の出演者)は、金丸慎太郎、町田マリー、板尾創路、そして……岡田義徳!
そうです。現場捜査ゲーム『演じすぎた男』の主演をつとめた岡田義徳です!こんなところでもつながっていきますね。不思議なものです。
なお、本当はこのあとに「上田誠〜音楽〜伊藤忠之〜ゲームムービー」と題して、リアル脱出ゲームの音楽をすべて担当している伊藤忠之を中心に、SCRAP×ヨーロッパ企画をもう少し深堀りしようとしたのですが、分量がさすがに……な感じになってきたので、別エントリに分けます!近日公開予定。
最後に……
せっかくヨーロッパ企画に興味をもってくれたSCRAPファン、逆にSCRAPに興味を持ってくれたヨーロッパ企画ファンがいてくれることを信じて、そんな方々に向けて双方のクロスオーバーするような作品を1本ずつ紹介します。
ヨーロッパ企画『ビルのゲーツ』(2014)
タイトルは、みてのとおりダジャレなのですが、本作は「ゲートコメディ」になります。客先のビルを訪れたサラリーマン一行が、何フロアもある巨大なビルの各階のゲートをIDカードで開け続けていく、という内容になります。
といっても百聞は一見にしかずです。下記で本編の一部を観ることができます。
・1F〜3F
・23F〜25F
いかがでしょう?映像を観て、これを思い出したひともいるのでは……ということで、続いてこの作品の紹介です。
MYSTERY TOWER(ミステリータワーからの脱出)(2020)
「頭脳と身体を駆使して、様々な謎やミッションに挑戦しミステリータワーを登り続ける」というゲームですが、こちらも百聞は一見に……ですので、実際のプレイ感のわかる映像を観てみましょう。
いかがでしょう?お互い呼応するところがあるのではないかと思います。ちなみに自分は初めて『ミステリータワー』に挑戦した際「これはリアル・ビルのゲーツだ!」というほとばしる興奮を味わいました。
そんな『ミステリータワーからの脱出』も2024/7/7に新作が発表されました。第2弾『BEAT TOWER ビートタワー』が開始され、「TOWER GAME Series」というシリーズになります。ハードウェア(部屋)は同一で、『BEAT』と『MYSTERY』の2種類のゲームを遊べるようになるとのことです。
自分もまだ75Fあたりまでしかいけていないので、いつかクリアしたいと思ってます!
※投げ銭いただけたら、リアル脱出ゲームやヨーロッパ企画の参加費・観劇費用の足しにさせていただきたいと思います。