【900字小説】「風色の手紙」/シロクマ文芸部”風の色”
「風の色はね、全部の色なのよ」
「え!全部ぅぅぅ?」
さあや が おどろいたら、ママは にっこり わらいました。
「暖かいときには暖かい色、寒いときには寒い色の風が吹くのよ。雪のときは……そうね、真っ白な風かな?」
「じゃあ、じゃあ、うんと……森の風は緑色?」
「ふふふ。そうかもね」
「夕方の風はオレンジ色?」
「そうかもね。じゃあ夜の風は真っ黒かな?」
「えー!紗彩、夜の風は白がいい!……でも暗いから黒じゃないとダメ?」
ママは くびを よこに ふりました。
「ううん。風は全部の色でしょ?だからね、何色でもいいのよ。さあちゃんが『白』って思ったら白でいいのよ」
「何でもいいの?」
「そう。何でもいいの。風はどんな色にもなれるのよ」
※
お母さんへ
キャンバスに向かうと、あなたとの思い出が蘇ります。
「君の絵は風が生きているようだね」
よくそう言われるのは、お母さん、あなたとのあの会話があったからです。
あなたの言葉で、私は絵を描くことが好きになりました。
そして今も描き続けています。
自分が感じるままに風の色を描いています。
もしあの時、あなたが『風は透明に決まってる。色なんかあるわけないでしょ?』とでも言っていたら、私は今、絵を描いていないかもしれません。
今の私があるのは、あなたのお陰です。
お母さん、私はこれからあなたの絵を描こうと思っています。
子供のときに描いて以来、ずっと描いていませんでした。
描こうとも思っていませんでした。
それなのに今、無性にあなたの絵が描きたいのです。
心の中にあるあなたの笑顔が描きたいのです。
あなたは青や水色が好きでしたよね。
赤やピンクはあまり好みではなかったですよね。
でも、あなたを吹き抜ける風の色は淡いピンクです。
『どうしてピンクなの?水色がいいな』
あなたはそう言うかもしれませんね。
私はあなたに教わりました。
『風の色は全部なのよ』と。
『何色でもいいのよ』と。
『でも、なぜ淡いピンクなの?』
そう思うかもしれませんね。
私が好きな色だから、あなたに吹く風を淡いピンクで染めたいのです。
一番好きな色だから。
世界で一番、大好きな色だから。
紗彩より
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よろしくお願い致します🙇
来月から郵便料金が上がりますね。LINEやメールなどのやりとりが主流になっている現在、仕方ない措置なのかもしれません。
相手の人が実際に書いたそのものが届く手紙は、時にシワやシミが付いていたり、消しゴムのカスが入っていたり。
デジタルのやり取りでは切り取られてしまうぬくもりと共に届きます。
手紙というアナログ文化もずっと続いて欲しいな、なんて思っている今日この頃です。
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