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【ショートショート】「と〜っても鈍い木の実と葉」

 『木の実と葉』あなたはどう読む?
  このみとは?
  きのみとは?

  私はぜぇ~ったい『このみとは』!

  私の名前は木野きの 美都羽みとは

 小学校の時、男子によく名前をいじられていた。
 ドングリと葉っぱを拾ってきて、
 「木の実きのみと葉!」と、私を見て笑う。

 その度に私はこう叫んで追いかけるんだ。
「それは木の実このみと葉ぁぁぁ!」
 すると男子たちは笑いながら四方に散る。
 それが秋の定番行事のようになっていた。

 5年生のある日、最初に私をいじり出した『木の実と葉軍団』の首謀者、今野隼人こんのはやとが転校することになった。
 1年生から一緒だった35人の1人がいなくなることは驚きだった。
 ずっと一緒だと思っていたから寂しかった。

 その日、帰り道を1人で歩いていた時、隼人が追いかけて来た。
「木野!……これ……」
 隼人は私に木の実と葉っぱがあしらわれたブローチを差し出した。

 最後の最後までいじるつもりなんだ!
 今度はそんな小道具まで用意して!

「それは木の実このみと葉ぁぁぁ!」
 私が叫ぶと、隼人は一瞬戸惑った顔をして、その後すぐにいつものイタズラ顔になった。
「じゃあな!の実と葉!」
 笑って走り去る隼人はドンドン遠くなって、やがて見えなくなった。

 次の日からクラスは34人になり、私が名前でいじられることもなくなった。

 心にポカンと穴が空いたようだった。

 時が過ぎてもその穴が埋まることはなかった。

 中学に行っても、高校に行っても、なぜか埋まることはなかった。



 20歳になったある日、『20歳になったから、みんなで酒を酌み交わそう会』という安直なネーミングの小学校同窓会が開かれた。

 中には小学校を卒業して以来、久しぶりに再会した人もいたし、一目では誰だか分からない変化を遂げた人もいた。
 でも話してみると、みんな小学校の教室にいたあの時のままだった。

「卒業生34人全員が揃ったところで、スペシャルゲストの登場です!」
 司会のコータが声を張り上げると、そこに現れたのは……

 転校して行った隼人だった。

 鼓動が速くなる。……なぜ?

 割れんばかりの拍手で迎えられた隼人は、一番仲が良かったショータとガッチリ肩を組んだ。

 修学旅行の時も、卒業式の時も空いていたクラスの大切なピースが埋まった気がした。

 小学生にとって、永遠にも感じる長い時間を共にした35人の仲間。
 今、時を超えて全員が集まった。

 大いに盛り上がった。
 みんなお酒を片手に、小学校の頃の話をしたり、その後のことを話し合ったり、現状を教え合ったり。
 私も普段飲まないお酒を少しだけ飲みながら、みんなと楽しさを共有した。

 二次会に移動しようと歩いていると、さっきまで一緒だった小学校時代の『仲良し3人組』の2人がいつの間にか消えていた。
「みーこ?さっちゃん?」
 2人を呼んでみるが、返事がない。

 辺りを探していると、後ろから隼人が歩いてきた。
「隼人ぉー、みーことさっちゃん見なかった?」
「さあ?知らねー」
「そっか」
「あのさ、木野」
「ん?」
 隼人が周囲を見回した。
 つられて私も見回す。
 近くには誰もいなかった。

 もうみんな二次会の会場に行っちゃったのかな?

「これ……」
 隼人は見覚えのある木の実と葉っぱがあしらわれたブローチを出した。

 ———おいおい!年を取っても、やることは小学校と同じかい!!

『それは木の実このみと葉ぁぁぁ!』
 …と、小学校の時のお決まりのセリフを言おうとした私を、隼人は声で制した。
「違うんだ。あの時これを木野にあげたかったんだ。名前をいじってるわけじゃなく、ただ……」

 ———……え?どういうこと?

「似合うと思って」

 ———似合う?え?え? 名前をいじられただけじゃ……ないの?

「俺、これを選ぶのに何件も店回って、何時間もかけて、小遣い全部はたいて買ったんだ。だから……あの時は渡せなかったけど、捨てられなくてさ」

 ———いじりの小道具じゃないの?

「今日絶対、木野に渡そうと思って持ってきた。あの時の気持ちと一緒に」

 ———あの時の気持ち?

「俺、木野のことが好きだった」

 ———え……!

「いや、『だった』じゃない。多分今も……」

 夜風が二人の間を吹き抜けた。

「木野が好きだ」

 あの日からずっと空いていた心のピースがはまった気がした。

 そうだ。
 私は隼人と一緒にいたかったんだ。
 ずっと忘れられなかったんだ。

 今までずっと隼人の面影を追っていた。
 だから誰も好きになれなかったんだ。

 自分の気持ちが分かるのにこんなに時間がかかるなんて……。

 「私も隼人が好き」

 お酒のせいもあったのかもしれない。
 いつもならためらう台詞が驚くほど滑らかに口から飛び出した。

 その瞬間……

 ワーッ!!



 ———え?なになに?

 私も隼人も、ビクッとして周りを見ると、みんなが駆け寄って来た。

「やっと素直になったじゃん!」
「9年もかけてやっと?美都羽、鈍すぎでしょ」
「みんな分かってたんだよ!2人が両想いだってこと!」

 実はこの同窓会は隼人の親友ショータが、隼人の心残りを晴らすために企画されたものだった。
 それを聞いた当時の『木の実と葉軍団』が中心になってみんなに声をかけて、日程を調整して、全員が集まれるようにしたのだと言う。

「じゃあ知らなかったのは私たちだけ?」
 呆然とする隼人と私に、いたずらっぽく優しいみんなの笑顔が映る。
「俺たちの仲間から誕生したカップルを祝福しようぜ!」
 みんなの温かい輪が私たちを包んだ。
 隼人が私にブローチを手渡す。
 私はそれを胸に付けた。

 巻き起こる大歓声。

 私と隼人はみんなに頭をクシャクシャ撫でられながら二次会会場に向かった。
 その日の同窓会は夜が更けても続いた。
 その間、私の隣にはずっと隼人がいた。

『木の実と葉』どう読む?
 このみとは?
 きのみとは?

 前は絶対『このみとは』だったけど、今は『きのみとは』もいいなって思うよ!


「へぇ、そうなんだ。じゃあこれは?」
 隼人が木の実と葉っぱを私に見せる。
「それは木の実このみと葉ぁぁぁ!」
 条件反射で叫ぶ私。
「俺の苗字『今野』なんだよね。まぁ『ん』が邪魔だけど」

 え?
 隼人、何のこと言っているの?


こちらに参加させて頂きました。
このお題で3作目ですがよろしくお願い致します🙇‍♀️

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