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Smile Miles《スマイル マイルズ》

 心の糸がプチンと切れた。

「どうせ私はダメクォーターですよ!」

 自分の気持ち以外、何も見えていなかった。

「リンドバーグ翼希たすきなんて名前なのに、英語は話せないし、走っても遅いし、すぐ卑屈になってウジウジするし」
「待って、誰もそんなこと……」
「私はあんたみたいな青春気取りの陽キャ女子が大嫌いなの!」

 ———はっ!

 そんなこと言うつもりはなかった。
 心にもない言葉だった。

「……分かった。もういい」
 我に返ったとき、目の前には悲しい顔をした石水羽苗いしみずはなえがいた。
「違う、羽苗……」
 遠ざかる羽苗は立ち止まって半分だけ振り返った。
「あたし、翼希の走りが好きだった。みんなを笑顔にするような走り。だから『一緒に頑張ろ』って言っただけ。でも……」

 ———一緒に……?

「今のあなたは違う……ダメクォーター?その通りね」

 羽苗が去っていく姿を見つめるだけしかできなかった。

 羽苗は昨年、県中総体の1500mで優勝し、全国大会も出場した期待のホープ。
 対する私は県総体決勝で最下位。それなのに、女子陸上部に長距離部門ができて3年目のこの高校から声をかけられ入学した。

 レベルが高いし練習もきつい。中学の友達は一人もいない。土日も大会や記録会があり、ゆっくりできる休みはほぼない。あっても寮生活では中学の友達に会いに行くことさえ難しい。

 なぜ地元の高校に行かなかったんだろう。
 いつも後悔していた。

 羽苗への憧れがあった。
 高校でその思いは更に強くなった。
 明るく、強く、前向きな羽苗。
 クラスでも部活でも、いつもみんなの中心にいる。
 それに引き換え私はいつも『クォーターなのに……』と陰口を叩かれる。

 苗字を見て私に”英語堪能”というレッテルを貼る。
 ”海外の遺伝子を持っている”というだけで、爆発的なタイムの向上を期待される。

『もっと頑張れよ』

 その言葉を聞くたび、心の糸がほつれて行くのを感じていた。


【続く】


#逆噴射小説大賞2024

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