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祈願上手【毎週ショートショートnote】


鳥居をくぐったところで彼女は口を開いた。


「何、お願いしたの?」


僕は答えない。声に出したら、願いは叶わなくなってしまうから。無言のまま二人で歩き出す。


T字路まで来れば、僕らの帰り道は別々になる。彼女の足が止まった。


「これで、さよならだね」


彼女は明日、引っ越す。とてもとても遠くへ。もうきっと会えないだろう。


「じゃあね」


彼女は背を向けて歩き出す。これから少しずつ小さくなって、きっと見えなくなってしまうだろう背中。


「待って!」


考えるよりも先に声が出ていた。彼女が振り返る。その口元には気のせいか笑みが見える。


「好き、だから、付き合って、ほしい」


絞り出すように言葉を発すると、彼女の口角が上がった。まるですべてを分かっていたかのような、ずるい顔。返事など聞く必要もない。

この先、どんな言葉を交わして、どんな悪いことを共にして、どんな未来になっていくのか、それさえも彼女の手の内にあるのではないかとさえ錯覚させられてしまう。


まったく、彼女は祈願上手だ。

そして、僕も。

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