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【エッセイ】ゆっくり介護(18)

ゆっくり介護(18)<人生楽しく>
『介護は親が命懸けでしてくれる最後の子育て』
*この言葉は「ぼけますからよろしくお願いします」(著:信友直子)より引用


 以前(コロナ前)、母は腰の痛みがひどくなり、整形外科に通っていた時がありました。
 自分で行くと言いながら、手押し車をゆっくりと押し、整形外科に行くようになったのですが、いつの日からか、家を出る時にはカバンに幾つかの飴を入れて行くようになりました。そして帰ってくると、カバンからお菓子が出てくるのです。

 高齢になり、足腰が痛みだし、整形外科に行く高齢者が多いのでしょう。診察だけでなく、リハビリもするので待合室で待つ時間は長いのですが、それが母たちにはよかったようです。
 そこで知り合いもでき、いろいろな話をし、今まで家にいた時にはわからなかった街の情報も聞いてきては、いっぱい私に話すのです。腰の治療に行きながら、心の治療もしてきているようでした。


「今日はあの人が来てなかった」「あの人は、眼科にも通い出したらしいよ」「新しく通い出した人がいてね」など、尽きないほどの話を口から溢れ出すように話すのです。でも、私には「あの人」と言われても誰のことだか一人もわかりませんでした。

「そうなの」

「そうだったんだね」

「大変だね」

そんな返事しかできないのです。

「あの人、最近ずっと来てないけれど、具合が悪いのかな?」

 母の言葉に、私は、おもわず笑ってしまいました。そんな小話があったことを思い出したのです。それを真顔で母は言うのです。具合が悪いからみんな医者に来ているのに、来なくなったら「病気かな?」とみんなが心配しているのです。

「そうかもしれないね」

とだけ、笑いを堪えながら返事をしました。

 母は半年くらい通院し、通院回数も減ってきました。痛みだしたときだけ診察を受け、貼り薬をもらってくるようになりました。

 今まで待合室で一緒に飴を舐めたりお菓子を渡したりしていたお仲間は、母が通院しなくなったので、きっと母が「病気になったのかな」と話しているのだろうと思うと、一人でクスクス笑ってしまいました。

「たまには整形外科に顔を出したら」

と思わず言いたくなっている自分に気がつきました。

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