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【短編小説】弓張の月 第7話(全8話)
「由美、最近、ウキウキしてるけどいいことあった?」
口角が思いっきり上がっていた。
「うん、なんにもないよ。受験勉強しないとね」
絵里奈はニコニコして、それ以上は聞かなかった。絵里奈のおかげだよ、ありがとう、と叫びたかった。
とおる君からは、1日1回だけラインがくる。受験勉強の邪魔はしたくないと、とおる君が決めたルールだった。
15日の満月の日から、時の経つのが早く感じる。今日は22日、日曜日だ。クリスマスイブまであと2日。会う約束をしているなんて絵里奈には言えない。言うのが恥ずかしい。
夜7時。いつもの時間。とおる君からラインがきた。返信は2回と決めていた。これもとおる君が決めたルール。
「ごめん。24日、だめになった」
体が固まった。会うことをどれほど楽しみにしていたのか、わかって欲しい。でも、絵里奈は一緒に悩んで、一緒に苦労して、と言っていた。きっと何か理由があるんだ。そう思うようにした。
「大丈夫、了解だよ」
メッセージを送ったものの不安。もう今年は会えないのかもしれない。年を超えたら受験も始まる。会えるのかわからない。去年のラインを思い出した。突然「サヨナラ」ってメッセージがきたらどうしよう。どんなに勇気を出そうとしても、力が入らない。大丈夫って、返信してる自分。何が大丈夫なの、自分で自分を責めている。
とおる君からの返信がこない。ますます不安。
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