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時の流れ
友が営む小さな酒場へ久しぶりに行ってみると、
彼は、ひとりで黙々とグラスを磨いていた。
以前いた従業員の女の子も 今はもういなかった。
「老けたな…」と言うと、にやりとしながら「お前もな」と返ってくる。
時間も早かったからか客は俺ひとり… 貸し切りだ。
狭い店内には相も変わらぬ音楽が流れ、そのむかし、酔った俺が貼り付けたシールがまだ残っているカウンターは、 少し色褪せて見えた。
抗えぬ時の流れに、 形ある物みな 物も人も色褪せていく。
せめて気持ちは、心は 色褪せてはならないよな… などと思いながら
「泡盛の古酒をくれ」と言うと…
「ほぅ… 今日はまた珍しいものを飲むなぁ」と何やら嬉しそうに言いながら、ヤツの酒談義が始まる。
酒の話しとなるとこの男の目は、夢を語る少年のように輝く。
古酒を熱く語る酒バカ男をいなし、昔よく来ていた仲間たちの事を尋ねてみると「今はほとんど来ないな…」と、棚の酒に目をやり ぽそりと言った。
ギターの誘いを「もう指が動かないんだよ」と笑いながら断り、賑やかだった頃を思い出しながら店の中をぐるりと見廻す。
少し剥がれかかったままのシールにこっそり感謝を伝え、俺は席を立った。
「また来るぞ、長生きしろよ♪」と言うと…
「長生きたぁ 何だい! おまえ もう来る気ねーだろ」と、笑いながら言う友の顔は、昔のままだった。
そうか… 長生きしろよ!ではなく、じゃあまたな!で良かったか…。
と思いながら「来るさ!」と言い残し、ドアを閉めた。