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おとおとの 戦術の話
中学の時のおはなし。
以前も書いたが僕達兄弟の出身中学は「ヤクザ製造工場」と近隣住民から嫌われる不良校でした。
しかし学校の行事は他校と変わらず行われる。
校内の合唱コンクールは一般生徒がこの日のために一生懸命練習してきた曲を必死で歌う中
不良たちは舞台に立ちまったく歌わず客席を睨みつける。(サボりゃいいのに出席はするところが中学生)
そんなカオスイベントとなる。
しかしそれに変わって春の祭典、体育祭は合唱コンに比べて女子モテがいいからかヤンキー達が結構ちゃんと参加する。
そうなると喜び熱くなるのが担任の先生方だ。
春のこのイベントでヤンキーとの距離を縮めて残りの10ヶ月を少しでも穏やかに過ごしたいということなのだろう。
ある日うちのクラスの担任、パンチ(天パ)でティアドロップサングラス(室内ではメガネになる)のシムラ先生がとんでもなく大きな風呂敷を広げてきた。
「体育祭の全員リレーには絶対勝てる作戦がある。それをお前たちに今日教える。」
いやいや、シムラ先生。いや、シムシム(内緒のあだ名)。
うちのクラスは勝てないって。
なぜかって?
偏差値と性格はいいけど運動がまったくダメなあのサイトウさんがいるから。
シムシムがいくらあの本多正信の如く僕らに入れ知恵をしてくれたところで
全力疾走を「ババアの散歩」とクラスメイトに称されたあのサイトウさんがいるんだもん。
ほら、現にサイトウさんを見てみなよ。
近所のダイエーのマネキンみたいにしらっこい顔してるもん。
しかしシムシムの熱意は凄く、特に作戦もなにもなかった我がクラスはひとまずやってみることにした。
シムシムの作戦はこうだ。
100メートルずつ走る全員リレーは30メートルがバトン受け渡しエリアなので、早い人と遅い人の走る距離を調節するのだという。
そうすればルールの範囲内で足が早い走者が最大160メートル走れ、足の遅い走者が最短で40m走るだけで次の走者にバトン渡せる。
これを知った上でスタミナとかスピードで上手く調整すれば面白いように勝てる。
『今まで俺の受けもったクラスでこの作戦で負けたことはない。』
と彼はティアドロップサングラス(室内ではメガネ)越しでもわかるくらい目をギラギラさせて力説していた。
体育祭当日
そこにいたのは
細かい作戦会議と練習のおかげで自信に満ち溢れ、まさに"全員リレーコマンドー"となった1年1組だった。
あのサイトウさんも例外ではない。
クラス上位の瞬足に挟まれて40メートルを全力で駆け抜ける作戦を遂行するサイトウさんはランナーのその顔だった。
そして全員リレー本番。
火薬の破裂音とともにレースがスタート。
うちのクラスは作戦通りまず瞬足2人を続け様に投入しし、1回よそのクラスの走者をある程度離した。
そして早くも3人目でサイトウさんを投入。
サイトウさんはバトン受け渡しゾーンギリギリに立ってバトンを受け取り40メートル先の瞬足男子に渡すミッションだ。
前の瞬足ランナーが誰よりも早くバトンを持ってサイトウさんの所へ。
そして
サイトウさんは
「こくっ」と頷き
リードをしだしたのだ。。
サイトウさん
勉強のできるサイトウさん。
運動音痴のサイトウさん。
頑張り屋さんのサイトウさん。
走っちゃダメだよ....
サイトウさん....
バトンをもった俊足くんとともに真ん中位まで仲良く併走したサイトウさんはもちろん失格。
1組の全員リレーは残り28人を残してその瞬間からエキシビジョンとなり
後半につれて声援に熱が帯びてくる他組とその親御さん達をよそに静かに終わりを迎えました。
クラス全員近所のダイエーのマネキンのようでした。
その後、我が1組から不良がたくさん誕生したのは偶然なのかはたまた。
以上。
「おとおとの戦術の話」でした。
サイトウさん元気かな?